2010年11月12日 (金) | Edit |
戦前の旧憲法では公法・私法二元論という立場が明確に堅持されておりまして、いわゆる私法上の刑事事件や民事事件を扱う大審院(以下の裁判所)のほかに、公法上の行政訴訟を扱う行政裁判所を設置して、行政に関係する訴訟については法律も訴訟手続きも別個に扱うこととなってしました。これに対し、戦後の現憲法では特別裁判所の設置が禁じられたので、少なくとも裁判所では公法と私法を区別する必要はなくなったかのように見えますが、実は行政訴訟法によって行政訴訟については別個の手続が規定されています。

と、冒頭からマニアックな話から入ってしまいましたが、未だに行政法で習う公法・私法二元論に凝り固まっている傾向が強いのが地方公務員でして、その人事担当者(自治体には労務担当者はいませんからね)向けの雑誌でhamachan先生が蒙を啓いていらっしゃっています。

はじめに
 
 本誌からの原稿依頼の標題は「地方公務員法制へ影響を与えた民間労働法制の展開」であった。この標題には、地方公務員法制と民間労働法制は別ものであるという考え方が明確に顕れている。行政法の一環としての地方公務員法制と民間労働者に適用される労働法とがまったく独立に存在した上で、後者が前者になにがしかの影響を与えてきた、という考え方である。しかしながら、労働法はそのような公法私法二元論に立っていない労働法は民間労働者のためだけの法律ではない民間労働法制などというものは存在しない地方公務員は労働法の外側にいるわけではない。法律の明文でわざわざ適用除外しない限り、普通の労働法がそのまま適用されるのがデフォルトルールである。
 
地方公務員と労働法」『地方公務員月報』2010年10月号(hamachanの労働法政策研究室

※ 以下、強調は引用者による。


hamachan先生もブログで「こういう認識がきちんと定着することを願ってあえて厳しめの表現をしております」とおっしゃられていますが、のっけから否定文の4連発で公法・私法二元論ボケした人事担当者の意識をガツンと全否定です。もちろん、地方自治体への出向経験もあるhamachan先生は、地方自治体には人事担当部局はあっても労務担当部局がないことはご存じのことと思いますので、きちんと「全国の地方自治体の人事担当部局で必読雑誌」と、対象者の属性も踏まえているからこその書きぶりなのだろうと推察するところです。

というわけで、「労働法?なにそれ食えるの?」という上司に囲まれている私自身も大変興味深く拝読したところですが、くだんの雑誌を購読している人事担当部局や周囲の職員にhamachan先生の記事を読んでもらって感想を聞いてみたところ、
「労働法からの行政法への領空侵犯だお!」
という予想どおりの反応のほかは、
「労働法とかって難しくてよくわからないお!」
「公務員は労働者じゃないお!公僕だお!」
というものでした・・・orz

そういう認識を改めてもらうためにhamachan先生が書かれた記事ではありますが、そもそもそんな意識のない方には言葉自体が届かないのだという大変に厳しい現実を突きつけられた思いです(この思いが理解できないという方は、ぜひhamachan先生の上記記事を全文ご高覧いただければと思います)。ところが、拙ブログでチクチクとやり玉に挙げているように、「労働法とかって難しくてよくわからないお!」というイノセントでナイーブな地方自治体職員などは、「労働法?なにそれ食えるの?」というブラック企業万歳な言説にいとも容易く取り込まれてしまうところがやっかいなところですね。

ということで、前々回に引き続き「自治体職員有志の会」の皆さんの議論を拝見していると、diaryカテゴリに「身分ではなく仕事で給料」というトピックが継続的にアップされていて大変興味深い内容となっています。

●私の感想
・まず、公務員の給料水準が民間の同じ職種の人と同レベルであるべきと思います。
・それから、たとえば民間で経営状況に応じて、給料の変化が起こりますが、公務員も、財政状況の良し悪しで、給料水準が影響を受けるのも、世間的な常識だと思います。
・そう考えると、今の公務員の給料水準は、危機的な財政状況を考えれば、民間で同種の仕事をしている人の給料水準よりも、低レベルにされるべきというのが、常識的な考え方だと思います。
・ということは、今の公務員給与の水準が人事院勧告などで民間と同レベルにされているという建前上、常識レベルより、「高い」と判断されると思います。
・それどころか、年収レベルで考えると、阿久根市の例のごとく、2倍以上になっているケースもあり、全体的には、是正されるべきものと思います。
・なお、Eさんが指摘されているとおり、給料水準は当然ながら「信賞必罰」が常識であり、個人の仕事の内容や業績によって、大きく格差をつけるということが当然であり、悪平等といわれるほど公務員の給料格差がないことも、世間的には「非常識」なことと、断言できます。

身分ではなく仕事で給料(173)(2010年10月23日)


「世間的な常識」、「常識的な考え方」、「常識レベル」ときて、最後には「世間的には「非常識」なことと、断言できます」とまでおっしゃるとは、大変常識をわきまえた方なのですね。阿久根市の例については竹原市長の主張をそのまま引用されているなど、データリテラシーには多少問題がありそうですが、ところでその「常識」ってのは、どの辺りの常識なのでしょうか。バイトを請負だと言い張るゼンショーかな? 研修と称して新入社員の人格を破壊する餃子の王将かな? 「たとえばビルの8階とか9階とかで会議をしているとき、『いますぐ、ここから飛び降りろ!』と平気で言います」という方が創業して、現在も会長も務めているワタミかな? いろいろ想像できますが、その前に「均等待遇」と「均衡処遇」の違いを理解するようおすすめしたい衝動に駆られますね。

本日も、公務員の処遇についての、WEB上での議論をご紹介します。

●Aさん
公務員について皆さんの思うところの意見を聞かせて下さい。
私の元公務員の友人の話から疑問になりました。
公務員の待遇を下げるというのは、皆、不幸にしてるんだよということで、私は民主党が、とはいいませんが、パフォーマンスに踊らされてるだけに思います。
高給取りの上層部については別として、下部層の待遇については悪いと思います。
理由として
1、全体の給料引き下げは、元から低い職員にはきつい。不景気と言われる民間下回りのところもある。
2、年金を払ってない人も払ってる人も一律したら、旨味がない。
3、公務員も税金を払ってる。
4、今の世みたいに減らされても労働争権がない。
5、リストラは無くても、切ろうと思えば、いくらでも理由つけて切れる。切られる。
つまりどんなことでもイエスマンじゃないと生きていけない。民間より制約が厳しい。
等あります。

(略)

●私の感想
・1については、民間と公務員は、同じ職務内容なら必ず同じ給料になるべきだと思います。実感としては、公務員の方が給料が高い。調査方法がおかしいというのが真相だと思います。
・2の年金については、これも官民同水準にすべきだと思います。(当然、個人差があるべきです。)
・3については、誰であっても所得があれば課税されるべきと思います。今回の問題とは違う論点ですが、日本はあまりにも課税ベースが狭く、税金を払っている人と払っていない人の不公平が大きすぎます。
・4については、官民誰であっても、同じ労働権を持つべきだと思います。そのことが過剰な身分保障の言い訳をなくすことにつながります。
・5については、やはり民間と比べて不良職員への扱いが甘すぎると思います。

身分ではなく仕事で給料(174)(2010年10月30日)


「べきだと思います」くらいならまだしも「真相だと思います」って何を根拠におっしゃっているのか私も興味があります。「民間と比べて」というのは、サビ残だのパワハラだのが横行するような、労働法に関するコンプライアンスがつゆほども意識されないブラック企業こそが民間だということですねわかります。ところで、前々回エントリでは、法を犯した自治体職員をキラよろしく切り捨てていらっしゃった有志の会の皆さんでしたが、労働法をガン無視して恥じることのないブラック企業はどのように処罰されるのか聞いてみたい気もしますね。

これまた、市民感覚からすれば、橋下知事の改革は支持されると思います。
給料は、年齢に決めるべきものではなく、職務と責任の度合いによって決めれるべきものです。
極端な例を挙げれば、20代の課長のほうが、50代の係長よりも、当然多くの給料をもらうべきです。

身分ではなく仕事で給料(175)2010年11月06日


今度は「市民感覚」だそうですが、「職務と責任の度合いによって決められるべき」とおっしゃるなら、その職務と責任をどのように測るのか、さらにそれに対する「貢献」具合をどう評価するのかが示されなければ絵に描いた餅ですね。ILOなどで主張されている「同一(価値)労働同一賃金」の意味するところはご存じなのでしょうか。たとえば、同じ課長職で考えた場合、いくら下の職位で優秀な実績を残して昇格した職員であっても、人心掌握も組織運営もできずに課内の事務遂行に支障を来せば、課内の事務をうまく回しているベテラン課長に比べて「課長」としての能力は劣るわけで、「職務と責任の度合い」なんて一律に決まるわけではないんですが。まあ詳しくは、以下の小池和男先生の諸業績を熟読していただければと思います。ついでに拙ブログのエントリもどうぞ。

仕事の経済学仕事の経済学
(2005/02)
小池 和男

商品詳細を見る


日本産業社会の「神話」―経済自虐史観をただす日本産業社会の「神話」―経済自虐史観をただす
(2009/02)
小池 和男

商品詳細を見る

まあそれにしても、こういう職業観に染まった職員の方々が、有志の会を作って雇用対策などに乗り出していくわけですから、チホーブンケン時代の労働行政は、ブラック企業にとっては水を得た魚のような心地なのでしょう。その一方で私自身は、こうした議論が熱心に繰り広げられている光景を遠い目で見ながら、海老原さんと同じく「余りにもキャリアの実情とはかけ離れていることにまず目を覆いたく」なるしかないわけですが。。。

このエントリーをはてなブックマークに追加
スポンサーサイト


コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
悪質手配師が“搾取”も 被災地復興にホームレス就労拡大  東日本大震災後、被災地で路上生活者を作業員として雇う動きが広がっている。貴重な収入を得るケースもあれば、劣悪な条件に逃げ出す人もいる。支援団体は「『手配師』と呼ばれる派遣業者には悪質な業者?...
2011/07/28(木) 09:05:50 | 雇用維新 派遣?請負?アウトシーシング?民法と事業法の狭間でもがく社長の愚痴ログ
1 :番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/11/17(土) 20:13:23.67 ID:tYL8fHLd0 ?PLT(12001) ポイント特典「小さな政府」(スリムな政府)に1.国と地方の公務員人件費削減を実現
2012/11/17(土) 21:00:36 | 【2ch】ニュース速報嫌儲版