2010年11月01日 (月) | Edit |
事業仕分けという人民裁判が相も変わらず耳目を集めているようですが、まあ事業仕分けの制度的なおかしさについては第一弾のときに大体書いてしまっていますので、今回は特別会計が事業仕分けのやり玉に挙がっているということで、特別会計について簡単にまとめてみましょう。まあ、「簡単に」とはいっても兆円規模の予算を扱うわけですからそれなりに資料を読み込む必要がありますので、あらかじめそのつもりでご高覧いただければ。

なお、今回は話のとっかかりとして3年ほど前のYosyanさんのエントリを引用させていただきますが、Yosyanさんの見解に異を唱えたり誤りを指摘するという趣旨のものではありませんので、あらかじめご了承いただければと存じます。まずYosyanさんは、特別会計は国会で審議されないから官僚の思うままに使われているという俗説を、虚心坦懐に一蹴されています。

俗に特別会計は一般会計と異なり国会審議を受けないとの批判をよく耳にしますが、この点についても、

 特別会計は、予算編成上の扱いや国会審議における扱いにおいて、一般会計との間に基本的な違いはありません
 我が国の憲法は、財政処理の一般原則として「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」(第83条)と規定するのみで一般会計と特別会計を分けていないほか、内閣の予算作成・提出権、予算の国会議決(第86条)や決算の検査(第90条)などにおいても、一般会計と特別会計を特段区別して規定しておらず、一般会計と同様の扱いをすることとされています。
 財政法においても、一般会計と特別会計を並列的に規定し、法律で異なる定めを設ける場合以外は、一般会計と同様の扱いをすることとされています。
 こうしたことから、特別会計も一般会計と同様、予算の編成に当たっては、各省庁の概算要求を受けて財務省が査定を行うとともに、一般会計とあわせて国会に提出し、審議、議決を経て予算として成立することになります。
 また、予算の執行、決算提出、会計検査院の検査などについても、基本的に一般会計と同様の手続きを経ることとされています。


ここを読むと一般会計も特別会計も国会の承認を等しく受け、名前が違うだけで扱いは変わらないように感じるのですが、実態もそうであればこれだけ特別会計批判は出ないはずです。私は財政の専門家ではありませんから、制度の裏読みは難しいのですが、どうも「決算剰余の処理」のところに何かカラクリがありそうな気がします。

特別会計の基礎知識(2007-12-09)」(新小児科医のつぶやき

※ 以下、強調は引用者による。


3年前のエントリですから、Yosyanさんのエントリで引用されている「平成18年版 特別会計のはなし」は当然古いものになっています。そこで、政権交代後の平成22年の最新版を確認してみると、

 我が国の憲法は、財政処理の一般原則として「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」(第83条)と規定するのみで一般会計と特別会計を分けていないほか、内閣の予算作成・提出権、予算の国会議決(第86条)や決算の検査(第90条)などにおいても、一般会計と特別会計を特段区別して規定しておらず、特別会計も一般会計と同様の扱いをすることとされています。
 財政法においても、一般会計と特別会計を並列的に規定しており、法律で異なる定めを設ける場合以外は、特別会計も一般会計と同様の扱いをすることとされています。
 こうしたことから、特別会計も一般会計と同様、予算の編成に当たっては、各省庁の概算要求を受けて財務省が査定を行うとともに、一般会計とあわせて国会に提出し、審議、議決を経て予算として成立することになります。
 また、予算の執行、決算提出、会計検査院の検査などについても、基本的に一般会計と同様の手続きを経ることとされています。
つまり、特別会計は、予算編成上の扱いや国会審議における扱いにおいて、一般会計との間に基本的な違いはありません

平成22年度版 特別会計のはなし(注:pdfファイルです)」(平成22年版 特別会計のはなし)p.5


となっておりますので、現政権党が野党時代にやり玉に挙げていた当時から「特別会計は、予算編成上の扱いや国会審議における扱いにおいて、一般会計との間に基本的な違いはありません。」ということに変わりがないことが確認できます。

ただ、その後Yosyanさんは「どうも「決算剰余の処理」のところに何かカラクリがありそうな気がします」として、重複分を示したグラフの解釈について考察を進められるのですが、最終的には「どうにもよくわからないのが本音です。」と最後は行き詰まってしまいます。もちろん、いちチホーコームインである私も国の財政の制度的な細部まではよくわからないのですが、実は「決算剰余の処理」や重複分について最新版の22年版ではしつこいくらいに説明が追加されています。

② 歳出純計額
 上記の歳出総額の中には、会計間相互の重複計上額等が相当額含まれています。
これは、企業でいえば、倉庫から工場への材料の移出や工場同士の間での製品の移出といった内部取引等に当たるものです。例えば、国債整理基金特別会計においては、一般会計の国債の他、他の特別会計の借入金等の償還も行っており、各特別会計から償還財源を国債整理基金特別会計に繰り入れた上で、国債整理基金特別会計から償還を行っています。つまり、繰入元の特別会計の歳出(国債整理基金特別会計への繰入れ)だけでなく、国債整理基金特別会計の歳出(国債整理支出)としても計上され、単純に合計すると、倍の歳出があるように見えるのです。
 特別会計歳出総額からこうした会計間相互の重複計上額及び国債の借換額を除いたものを、(特別会計)歳出純計額といいます。平成22年度予算における歳出純計額は176.4兆円(対前年度+7.0兆円)となります。
※総額・純計などの考え方については、P.23からの国の財政規模の見方についてもご参照下さい。
 歳出純計額の中には、①国債償還費等74.2兆円、②社会保障給付費(法律に基づく給付そのものを指し、事務費等は含みません。)56.8兆円、③地方交付税交付金等19.3兆円、④財政融資資金への繰入れ16.1兆円が含まれています。これらを除いた歳出純計額は、10.0兆円であり、対前年度比では+0.1兆円(注)となっています。
(注)ただし、特殊要因(被用者年金制度の一元化の見送りに伴う予備費の増0.7兆円(年金特別会計基礎年金勘定))が含まれており、この要因を除くと対前年度比▲0.6兆円。

『同』p.9
注:以下、機種依存文字をそのまま引用しています。

2.剰余金(平成20年度決算)
 平成20年度決算における、各特別会計の剰余金を合計すると、28.5兆円となります。これらは、特別会計に関する法律第8条に基づく積立金への積立て、当該特別会計の翌年度歳入への繰入れ、一般会計の歳入への繰入れ等として処理されています。
(略)
 このように、剰余金の大部分は、将来の国債償還、年金給付等、一定の使途に充てることが予定され、これらは、積立金へ積み立てられたり、当該特別会計の翌年度歳入へ繰り入れられたりしていますが、一般会計への繰入れが可能なものについては、特別会計に関する法律に基づき、一般会計への繰入れを行っています

『同』p.12

■ 不用
 歳出予算の経費の金額のうち結果として使用する必要がなくなった額のことを「不用」といいます。
 歳出予算は、財政民主主義の下、国会が政府に対し歳出の権限を賦与するものであり、歳出義務を課すものではありません。必要な事業について、見込みに基づき歳出の権限を賦与するため、事情の変更等により実際の歳出額が予算額を下回ることはしばしば生じます。また、予期し得ない事態の発生に備えて予備費を計上する場合がありますが、そのような事態が発生しなければ、実際には支出されず、不用として計上されます。このように、事前に予算として議決を受けなければならない国の財政においては、ある程度の不用が生じることはやむを得ないと考えられます。
 平成20年度決算において、各特別会計の不用額を合計すると11.8兆円となりますが、金利が予定より低位で推移した等のため利子の支払いが予定より少なかったこと(3.5兆円)、財政投融資特別会計の貸出しが予定より少なかったこと(3.3兆円)、年金や失業給付費等の社会保障関係給付が予定より少なかったこと(2.8兆円)等により発生したものが大部分を占めています。
 歳出において不用額が発生したとしても、それが必ず剰余金(歳入歳出差額)の発生につながるというものではありません。歳出の不用額と同じだけ歳入も減少すれば、剰余金は発生しないのです。

『同』p.14


というように、剰余金を操作して無駄金を使っているというような批判がありますが、まあ淡々と事務処理した結果不要が生じることは当然ありますし、その剰余金が発生した場合であっても、

■ 剰余金、積立金等の一般会計への繰入れ
1.剰余金等のうち、一般会計への繰入れが可能なものについては、特別会計に関する法律に基づき、一般会計へ繰り入れており、平成22 年度予算においては計2.7兆円を一般会計へ繰り入れることとしています。主なものは以下の通りです。

『同』p.16


として、いわゆる埋蔵金があれば法律に基づいて一般会計に繰り入れているわけですから、切込隊長さんがおっしゃるように「埋蔵金ではなく露天掘り」という方がふさわしいでしょう(切込隊長さんはちょっと違う観点から露天掘りだとおっしゃっているようですが)。

また、重複分の考え方については、総論とは別に「国の財政規模の見方について」という項目を設けてさらに詳しく説明が続けられます。

(3) 純計ベースで見た国全体の財政規模
① 国全体の財政規模を純計ベースで見る必要性
 我が国の予算は、予算の全貌を明らかにする観点から、コストの重複計上による部分についても、財政法第14 条により、その歳入歳出につき各々その総額を予算に計上することとしています(総計予算主義)。そのため、それらの歳入・歳出を単純に全て積み上げると、実質的な国の財政規模をはるかに超えた額になってしまいます。
 例えば、一般会計から公共事業関係の特別会計へ繰入れを行い、その特別会計でダムを建設した場合、ダム建設費に相当する一般会計の歳入額(一般税収等)とともに、その特別会計にも重複して同額の歳入額(一般会計からの繰入額)が計上されることから、総額ベースでは倍の収入があるように見えます。同様に、歳出についても、特別会計の歳出額(ダム建設費)だけでなく一般会計にも同額の歳出額(特別会計への繰入額)が計上されて倍の歳出があるように見えます。
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(注1)歳入が歳出より多いのは、国債整理基金特別会計の前倒債(翌年度の国債の償還に充てるための借換債を当年度中に発行するもの)の発行収入金12兆円、財政投融資特別会計の運用収入と利払費等との差1.0兆円、外国為替資金特別会計の運用収入等と利払費等との差0.7兆円等があるためです。
(注2)一般会計の歳出純計額38.7 兆円と比べ、特別会計の歳出純計額は176.4兆円と規模が大きくなっていますが、これは国債整理基金特別会計、年金特別会計等、一般会計からの繰入れとその他の収入とを合わせて財源とし、歳出を行っている特別会計が多いためです。

『同』p.25


というわけで、「決算剰余の処理」というところではほとんど数字を操作する余地はありそうにないですし、重複分を取り除くという七面倒くさい処理を進めていくと、あまり埋蔵金の議論には意味がなさそうです。

むしろ、特別会計を理解するポイントは、22年の最新版の引用部分の8ページにある「特定財源」をどう扱うかという点ではないかと推察します。企業会計のようなPLの当期純利益をBSの繰越利益剰余金として計上するという概念がない公会計においては、決算余剰の処理も、この「特定財源」と同じく歳入の取扱いの一部と考えるべきでしょう。実は、22年版では「企業会計ベースで見た国全体の財政規模」というのも掲載されているのですが、

 会計間相互の重複計上額を除いた純計でも、国民が負担する税金や社会保険料の使い途という感覚からは、相当にかけ離れたものになっています。それは国債等の償還費といった項目が含まれていること等によるものです。国民が負担する税金と社会保険料の使い途にほぼ対応するのは企業会計ベースで見た国全体の財政規模となります。
 その場合には、歳出面で企業の借入金の返済に相当する債務償還費や財政投融資がコストとして認識されず、歳入面でも国債や財投債発行による歳入が収入(財源)とはされないため国の行政活動に係るコストや実質的な財源を把握するのに適したものとなります。企業会計ベースでのとらえ方は、債務償還費や財政投融資といった金融取引に類する歳入歳出が大きく変動した場合にもこれらが除かれるため、国の財政規模の経年比較に適するといった面もあります。他方、減価償却費や退職給付引当金繰入額など国民になじみのない項目が含まれていることになります。
 企業会計ベースで国の財政規模を見る場合には、具体的には、民間企業の損益計算書(P/L)のコスト部分に相当する「国の財務書類」における業務費用計算書(一般会計と特別会計を合わせたもの)を見ることが適当と考えられます。
 企業会計ベースで見た我が国の財政規模は、124.0兆円(平成20 年度決算)となっています。

『同』p.27


として、特定財源についてはあまり踏み込んだ扱いをしていません。というより、あらゆる資産を経営資源としていく企業会計では、支払った方の権利とセットになった特定財源という代物を扱うことには無理があるのでしょうけど。

「特定財源」については、財務省もわざわざ「特定財源と特別会計は別個の概念ですが、」と断った上で

 特定財源は、①受益者や原因者に直接負担を求めることに合理性がある、②一定の歳出につき安定的な財源を確保できる、などの意義がある一方、①財政が硬直化するおそれがある、②歳入超過の場合に資源が浪費されたり余剰が生じたりするおそれがある、などの弊害もあることから、特別会計のあり方を考える際には、この特定財源にも十分に留意する必要があります

『同』p.8


と留意を促しているように、特定の事業に対する財源が確保されることにはメリット・デメリットがそれぞれあるわけですが、特に国の財政を司る財務省にしてみれば、税収を財源とする一般会計とは違い、特定の財源が張り付いた特別会計はコントロールできなくなってしまう点が大きいのではないかと思います。

「ん? さっきは一般会計と特別会計は基本的に同じ扱いだと書いていたじゃないか」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、ここが特定財源と特別会計は別個の概念だと財務省が念を押す所以でもあります。つまり、財務省がその権限を存分に発揮できるのは主に一般会計上の歳入を財源とする事業を査定する場面であって、特別会計の歳入を財源とする事業を査定する権限は自ずと制限されてしまうことになるわけです。もちろん、一部が制限されるとはいえ、予算書を作るのは財務省ですし、一般会計との繰入・繰出は財務省の所管ですから、全く査定が入らないということではなく、「ほかの財布に迷惑はかけない」と所管する府省が確約してしまえば、財務省としてもそれを容認せざるを得ない面もあるという程度です。結局のところ、予算編成の段階では一般会計と特別会計では多少扱いが異なるということはいえそうです。

では国会審議上の取扱いはどうでしょうか。

ちなみに、日本全国に「官報販売所」という政府刊行物を専門に取り扱う書店がありまして、今年の3月にはそれぞれ9,000円前後で「予算書 一般会計予算/平成22年度一般会計予算参照書添付/第174回国会(常会)提出」と「予算書 特別会計予算/平成22年度政府関係機関予算参照書添付/第174回国会(常会)提出」という冊子が販売されていますし、ちょっと大きな図書館であれば蔵書に入っているところもあると思います。

まあ、実際に見ていただければおわかりのとおり、一般会計予算も特別会計予算も同じような体裁で作られた議案に基づいて、同じような手続を踏んで国会に提出されているわけで、もし「特別会計は国会の審議を経ないで勝手に官僚が決めているんだ」という国会議員の方がいらっしゃるなら、それは天に唾する以外の何者でもないということになります。

特別会計についても一般会計と同様の予算書が国会の場に提出されていて、それを審議する立場にある国会議員がこんな発言をしているようでは、聞いているこっちが恥ずかしくなりますね。

廃止含め抜本見直し 特会仕分けで首相指示('10/10/21中国新聞)

 政府の行政刷新会議は20日夕、首相官邸で開いた会合で、特別会計を取り上げる「事業仕分け」第3弾で重点対象とする8特会の48事業や、民間有識者仕分け人を正式決定した。菅直人首相は、全18特会51勘定を聖域なく徹底的に解明し、存在理由のない特会は廃止するなど抜本的に見直すよう指示した。

 首相は冒頭「埋蔵金ならぬ埋蔵借金も指摘されている。それを含めて明らかにしてほしい。長年の議論に終止符を打つ覚悟で臨んでほしい」と強調。蓮舫行政刷新担当相も「特会を丸裸にし、制度そのものの仕分けを全力で行いたい」と決意を述べた。


もちろん、日本的雇用慣行に強い関心を持っている拙ブログのスタンスとしては、労働保険特会での数々の事業が仕分けられたことを大変憂慮するものですが、事業仕分けの結論に拍手喝采を送る方々は、そもそもこうした公開資料を基に特別会計の仕組みとかをきちんと理解しているのだろうかと不安になります。「官僚支配の打破で市民参加とかチホーブンケン」とかってのは、こうした資料を読みこなすことが大前提となりますから、「そんな資料なんか読んでるヒマあるか」というのはなしですよ。

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