2010年07月04日 (日) | Edit |
自己レスになりますが、非国民通信さんとのやりとりの中で、

あと、これは非国民通信さんのエントリで気になった点ですが、
> よく「イレギュラーな勤務が求められる営業は派遣には置き換えられない(だから非正規への置き換えが無限に進むわけではない)」みたいに言う人もいますけれど、それは実情に疎い素人の青写真に過ぎません。雇用側が非正規雇用の比率を増やしたいと思えば、その分だけ正規雇用の椅子は脅かされるのです。「正社員を守るために派遣社員が犠牲にされている」なんて言論にもまた事欠かないわけですが、むしろ(雇用主の好きにできる契約である)非正規雇用の拡大が、(雇用主にとって好きにしにくい契約である)正規雇用を脅かしていると見た方が現状を的確に捉えていると言えます。

確かに業務内容だけで正規か非正規かを区分すべきというような議論はあまり意味がないとは思いますが、「(雇用主の好きにできる契約である)非正規雇用の拡大が、(雇用主にとって好きにしにくい契約である)正規雇用を脅かしている」というとらえ方も一面的ではないかと思います。

ご指摘のあったように、特に中小企業では

> 会社の偉い人が何を思ったのか「事務は社員のやることじゃない、事務は派遣にやらせる」との方針転換が打ち出され

ることがあったりと、実態として「(雇用主にとって好きにしにくい契約である)正規雇用」となっていないからこそ常用代替が起きるとも考えられます。この辺りは大変入り組んだ事情がありそうなるので、機会を見てまたエントリを起こしてみたいと思います。

2010/06/17(木) 07:30:48 | URL | マシナリ #-[ 編集]
現実が目を曇らせる(2010年06月09日 (水) )」コメント欄
※ 以下、強調は引用者による。


ということで、いろいろとネタを探していたところですが、ブログ「雇用維新」のブログ主である出井智将さんの新著を拝読して大変考えさせられたので、とりあえず備忘録としてメモしておきます。

派遣鳴動 改正派遣法で官製派遣切りが始まる。派遣鳴動 改正派遣法で官製派遣切りが始まる。
(2010/05/31)
出井 智将

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まずなんといっても、出井さんご本人が製造業派遣が解禁される前は請負業者を、派遣解禁後は製造業派遣を生業としている派遣業者であって、まさに現場の利害当事者である業界団体理事として意見を集約しようとされているその姿勢に感銘いたしました。ブログはここ1年くらいしか拝見しておりませんでしたが、こうして書籍としてまとめていただいたことで、出井さんが直面されている現実や、それとの格闘を通じながら人材を育成していくために日々奮闘されている様子がひしひしと伝わってきます。その出井さんからすれば、大々的に報道される「派遣村騒動」を見て

 私はあえて主張したい。派遣村がセーフティネットであったとすれば、そのセーフティネットは雇用を生み出さない。しかし派遣は、ヒトとヒトを結びつけ雇用を生み出してきた。派遣村に求められていたのは、「支えること」と「巣立たせること」の両立であったが、それは実現されなかった。しかし、派遣はその機能を十分に担ってきた、と業界にかかわり続けている者として自負している

出井『同』p.32


と言いたくなるのも当然のことです。確かに多くの失業者の前職が不安定な雇用とされる派遣であったことは事実かも知れませんが、裏を返せば、派遣がそれだけの雇用を生み出していたことの証でもあります。そして、派遣という働き方だけをとれば不安定雇用かもしれませんが、そこで働く労働者にとっては、そこから正社員へ登用される道が開けていたり、さまざまな事情により正社員として働くことが難しい方々にとっての貴重な雇用の場となっていたわけです。出口の「派遣切り」問題を規制するために、入り口の登録型派遣や製造業派遣、日雇い派遣をふさいでしまえというのがいかに乱暴な議論であるか、政治主導とか企業搾取論がお好みの方々にもご認識いただきたいものです。

そのような雇用の場を提供している出井さんの思いが凝縮しているのが、会社案内に掲載されているという佐藤博樹東大社研教授とのインタビューですが、その最後にこういう宣言をされているそうです。

 「『ものづくりサービス』という仕事は、ものづくりのための、“ひとづくり”が基盤になります。そこでは多くの人がキャリアアップのチャンスをつかんでほしいという“ゆめづくり”も考えています。人が育っていくのを見ることは、この仕事の中で何よりもうれしいことです。メーカーの成功と、人材ビジネス会社で働く人のキャリアアップの成功という両輪があってこそ、私たち人材ビジネス会社の成功があるのだと思います」

出井『同』pp.155-156


この直後に、多様な経歴を持つ人材をキャリアアップさせる困難さ、将来の透視図を描きにくいこと、非正規から正規への移行という3つの課題を挙げられていますが、これらの課題はそのまま正規と非正規が分断されている日本の雇用問題の縮図となります。実は本書で出井さんが構想されている派遣についての提言は、海老原さんが近著で提言されている「公的派遣」の議論とも重なる部分が多く、現場で人と制度と格闘されている方からすれば、見えている現実はだいたい同じものになるのだなと感慨深いものがありますね。

 日本人材派遣協会の新しい考え方は、一企業の経営者としても、非常に分かりやすい。
 さらに私はこう考える。
 労働者から見た時に、派遣会社が仕事と労働者の間に介在するメリットは、「マッチング」「キャリアアップ」「雇用の創出」でなければならない。
 ところが、これまではマッチングのみが評価され、またそうした企業のみが、利益を上げ、事業を拡大していった。
 マッチングのみのため“雇用が軽い”。それが雇用の不安定さにつながるのである。働き方が多様化した今、ここにしっかりとセーフティネットをつくることが、雇用の世界で重要な課題の1つだと思う。
 長期雇用以外は認めない、といった幻想を捨てて、労働市場全体として包括的に考えていかなければならない。だから業界として、ここに第2のセーフティネットをつくるべきだ。

出井『同』p.244


「日本人材派遣協会の新しい考え方」は日本人材派遣協会のWebサイトに資料(労働者派遣法改正に向けての(社)日本人材派遣協会の考え方(注:pdfファイルです))が掲載されていますが、本書pp.242-243の図説が大変分かりやすくまとまっています。本書で提言されている第2のセーフティネットというのが、派遣元、派遣先、労働者の三者が折半する雇用保険によって在職中の職業訓練、失業時の給付を拡充するというもので、海老原さんが提言されている「派遣基金」とほぼ同様の趣旨となっています。

というわけで、やや強引ではありますが、非国民通信さんとの宿題(?)となっていた「入り組んだ事情」については、端的に言えば派遣切りによって職を失った労働者に必要なケアをいかに準備するかという点について、派遣元と派遣先と労働者の思惑がずれてしまってることが、労働者に保護の欠ける状況をもたらしているのではないかと愚考するところです。まあ、なんともすっきりしないまとめですが、そのこと自体がこの問題の奥深さを物語っているのだろうと逃げを打っておきます。

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コメント
この記事へのコメント
 ご紹介の出井氏や前出の海老原氏の語る「派遣が存在することのメリット(雇用機会の増加)」なのですが、その辺は派遣会社であればどこも同じような売り文句を掲げてきたように記憶しています。そして出井氏や海老原氏が出てくるずっと以前から派遣会社が広報してきた「派遣が存在することのメリット」が存在することを認めないわけでもありませんが(それがデメリットを上回るものであるかは別途、考える必要があると思います)、メリットの部分だけが語られるところに、やはり出井氏と海老原氏がともに「見ないで済ます」部分を感じるのです。単に問題点を指摘する、という点では一面的でも構わないと思いますが、制度設計にまで踏み込むつもりであれば、片手落ちの印象も免れないのではないかと。

 “雇用が軽い”ことへの言及は、一歩踏み込んだものとして評価できるのですけれど、ただ「軽い」雇用形態が実質的に自由化されていることで、いざ企業側が人を雇う際に「軽い」雇用形態で済ますことを可能にしているところもあるはずです。常用代替が実質的に許されていることで、「軽くない」雇用を「軽い」雇用で済ますことが容易になっている、そのことが「軽い」雇用から「軽くない」雇用へステップアップする機会を減らしている(「軽くない」雇用の増加を抑制し、「軽い」雇用での置き換えを促進する=ステップアップするための椅子の数を抑える要因となっている)ようにも思います。いくらセーフティネットを用意しても、椅子の数が増えなければ足りない椅子を巡る争いが激化するだけ、問題を根本的に解決することはできないでしょう。こうしたデメリットをどう考えているのか、そこに疑問を感じるわけです。出井氏の著作の方は未読のため、その辺まで考察及び対応されているようであれば私の杞憂ということで何よりなのですが。
2010/07/04(日) 23:08:16 | URL | 非国民通信 #BkzNXpYU[ 編集]
> 非国民通信さん

> メリットの部分だけが語られるところに、やはり出井氏と海老原氏がともに「見ないで済ます」部分を感じるのです。単に問題点を指摘する、という点では一面的でも構わないと思いますが、制度設計にまで踏み込むつもりであれば、片手落ちの印象も免れないのではないかと。

正直に申し上げると、この部分の趣旨がよく理解できませんでした。個人的には、海老原さんも出井さんも派遣の問題点を指摘した上でそれに対処する提言をされていると理解しておりますので、「問題点を指摘」した時点で「メリットの部分だけが語られ」ているわけではないのではないかと思うのですが。

また、海老原さんも出井さんも、昨今のマスコミによる派遣叩きや派遣法改正の方向性を批判する文脈で派遣のメリットを強調されているので、その批判が一面的だというのであれば、そもそもの批判の対象であるマスコミの議論や改正派遣法が的確にデメリットを捉えていないに過ぎないともいえそうです。同様に、椅子の数の話についても、景気回復による労働需要の増加が前提となることからすると、改正派遣法の議論の範疇を超えてしまうわけで、その点の議論が手薄になるのもやむを得ないのでしょう。

なお、本エントリで取り上げた出井さんの著書では、第4章などで派遣を巡る問題点についてのより具体的な事例が検討されていますので、非国民通信さんの杞憂に終わるかもしれません。

念のため、私自身は海老原さんも出井さんも擁護するつもりはないですし、非国民通信さんのコメントを否定するつもりもありません。むしろ非国民通信さんに共感することが多いので、議論がうまくかみ合っているか心許ないところが大変残念ですね・・・
2010/07/05(月) 01:20:18 | URL | マシナリ #-[ 編集]
非国民通信さんのところで、前回のエントリにいただいたコメントに関連すると思われる派遣社員の話がアップされていました。
http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/cef7c624918cfdfbed4397a5a1f79846

エントリで示されているロジックにはあまり現実的でない想定が含まれているように拝見しますので、その点については触れないこととしたいと思います。ある一定の想定をすれば指摘されるような事態もありえるかもしれませんが、その想定と帰結との因果関係は明確ではないのではないかというのがその理由です。

その上で、最後の2段落で非国民通信さんの考える派遣法改正の方向性が書かれていますので、若干コメントさせていただきます。

>  「一定期間だけ派遣で働きたいが、派遣の就職口がない」ケースなど極めて稀にしかならない一方で、「本当は一箇所で長く働きたいけれど、派遣の求人くらいしか余っていない」ケースがあまりにも多い、それこそが問題となっているわけです。前述のように直接雇用が待遇改善に繋がるとは限らないのですが、現行の無制限な派遣雇用が放置されている限り、有期雇用の仕事が増えるばかりで長期雇用の仕事の増加は抑えられるばかりということになってしまいます。問題は一つ一つ、着実に潰していかなければなりません。そのためにも、派遣法の改正――本来の派遣の枠組みに戻すこと――は避けては通れないことと言えるでしょう。

非国民通信さんが「問題は一つ一つ、着実に潰していかなければなりません」とおっしゃるように、新卒以外の経路で長期雇用として入職することが狭き門となっている現状において、だから直接雇用を増やすべきだという一足飛びの議論は実現可能性が低いものと考えます。明確には読み取れませんでしたが、「本来の派遣の枠組みに戻すこと」が意味するところが、派遣期間の制限業務をネガティブリストからポジティブリストへ戻すというものであるなら、それは有期雇用から長期雇用への移行の壁を高くすることはあっても、その逆にはならないのではないかと個人的には危惧するところです。

つまりは、通常の業務を担う正規労働者の雇用を守ることが目的となっている現行の派遣労働法の枠内で規制を強化すると、正規労働者の雇用の保護ばかりが強化されてしまい、結果として非正規労働者が周辺的業務に押しとどめられる結果になるのではないかと愚考します。派遣労働者を専門26業務に押しとどめることが、派遣労働者に安定した長期雇用をもたらすことにつながるかという点については、慎重に判断される必要があるでしょう。


> 自分の生活を支える必要がない(だから派遣で十分)な人の声と、自分の生活を支えねばならない(不安定な派遣雇用では不十分)な人の声を同列に扱う論者には、雇用の問題を語って欲しくないと思います。

これも明確には読み取れませんでしたが、もし「同列に扱う論者」が私を指しているのであれば、それは反面正しいですが、反面誤解されているように思います。個人的には、正規労働者も非正規労働者も、さらにはその中で、パート・アルバイトのような家計補助労働者も、やむを得ず非正規労働者となっている方も含めて、正規・非正規の別なく職場単位での集団的労使関係を再構築することが必要だと考えておりますので、労働者である点においては同一に扱うべきだと考えます。

ただし、この「失われた20年」で企業が生活給を丸抱えできるだけの経済成長が望めなくなってしまい、図らずも、この国では生活を支えるべき所得再分配機能が貧弱であることが露呈してしまいました。したがって、非国民通信さんがご指摘のように、生活を支えねばならない労働者にとっては、職場単位の集団的労使関係を再構築したところで何の恩恵もないと感じられるのも当然のことだろうと思います。その点においては、両者を同一に扱うだけでは十分ではないことも承知しているつもりです。

拙ブログでは「マンデルの定理」により、集団的労使関係の再構築と、生活を支えるための所得再分配機能はそれぞれ、労働者の待遇改善のため、将来不安の解消のためという別々の政策目的に割り当てられるべきと考えているところですので、ご理解いただけると大変ありがたく存じます。
2010/07/08(木) 00:49:51 | URL | マシナリ #-[ 編集]
自己レスですが、変換ミスがありましたので修正いたします。

> 反面正しいですが、反面誤解されている

は、正しくは

> 半面正しいですが、半面誤解されている

でした。失礼いたしました。
2010/07/08(木) 07:01:25 | URL | マシナリ #-[ 編集]
ググっていたらたどり着きました。
拙著引用戴き有難うございます。
派遣議論は、いいも悪いも「あるものをあると認めて」議論することが一番大切だと思っています。
これ以上現場から法が乖離することの無いように、真摯に話し合ってもらいたいですね。
有難うございました。
2010/07/08(木) 16:19:32 | URL | 出井智将(旧名さる) #-[ 編集]
> 出井さん

著者ご本人からコメントをいただき、大変恐縮です。こちらこそありがとうございました。本来であればトラバなりを送るべきところでしたが、場末のブログ故遠慮してしまいました。大変失礼いたしました。

> 派遣議論は、いいも悪いも「あるものをあると認めて」議論することが一番大切だと思っています。

おっしゃるとおり「あるものをあると認める」ことが重要ですが、それが難しいのもまた事実ですね。難しいからこそ重要なのかもしれませんし、自戒を込めてどうしても「こうあるべき」という議論をしてしまいがちになるので、「今ある現実」を謙虚に見ていかなければならないと思います。

真摯に話し合う場である公労使三者構成の労政審が、外ならぬ労働組合を支持基盤に持つ民主党、社民党によって横やりを入れられている状況は楽観視できませんが、契約における私的自治の労働版(?)である「労使自治」の基本に立ち返って、労使の対話が深まることが不可欠だろうと思います。出井さんが取り組まれている連合との連携にも期待いたしますし、私も及ばずながら議論を進めていきたいと思います。
2010/07/09(金) 08:17:03 | URL | マシナリ #-[ 編集]
本エントリで取り上げた『雇用維新』の著者である出井さんからトラバいただきました。

> と内容を引用し、的確なコメントで書評を戴きました。

的確に読めているかは心許ないところではありますが、製造業の派遣元の現場についてのレポートとしても、類のない貴重な著書だと思います。今後ともブログを拝見させていただきたいと思います。
2010/08/31(火) 23:31:44 | URL | マシナリ #-[ 編集]
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