2010年06月22日 (火) | Edit |
麻生政権と鳩山政権の影の目玉政策といえるのが緊急雇用創出事業という、政府が緊急的な仕事を作り出して失業者を雇う政策ですね。特に、政権交代後は「コンクリートから人へ」というスローガンもあって、補正予算で大幅に拡充されて各地方自治体に配分されています。

このような基金によって財源措置する方法は、三位一体の改革で地方に対する国庫補助金が一括交付金化される中で活用されるようになったわけですが、その触れ込みは「地方が自由に活用できる財源を増やすことによって、地方の実情にあった効率的な事業を実施できる」というものでした。経済学の2財モデルで考えれば、一方の財に対する価格補助(特定補助金)では、相対価格の変化によって代替効果と所得効果の両方が生じるため、これによる歪みによって社会的余剰に非効率(死加重)が発生するのに対し、所得補助(一括補助金)であれば相対価格が変化しないので所得効果のみが生じることとなり、歪みによる死加重は発生しないという理屈ですね。

ところが、そうした緊急雇用創出事業によって生み出されるのは短期雇用だけであって、たとえば地方自治体が自ら行うべき事業を委託したとしても、それによって既存の正規職員の仕事がなくなるわけではありません。というより、短期雇用という巧妙な仕組みを活用しながら、既存の正規職員に求められる仕事上のハードルを維持して、長期的な業務経験によって培われるスキルを擁する正規職員の仕事を守るのが緊急雇用創出事業ということもできるでしょう。

そして、このような緊急雇用創出事業の仕組みを知らずに、「役所の仕事だから社会の役に立てる」と考えてこの短期雇用で雇用された方には、年度が変わったら仕事がなくなるという不安定この上ない処遇が待っています。

自分の目指す職業を改めて振り返り、「地域、子ども、教育」という分野での就職活動を再開した。卒業後の4月から、最初は自治体が設置する小学生を対象とする学童保育の指導員の非常勤職員として採用されたが、月に16日の勤務で月給は手取り14万円という待遇だった。そのうち、社会教育指導員の空きが出たことを知り、試験を受けて合格して、教育委員会に転職。地域に向けて社会問題について提起するようなシンポジウムなどの企画運営を任されることになった。



「あなたが企画するから参加する」

 ところが、採用当初、「1年更新の非常勤職員で契約更新は4回まで」という条件での雇用だった。つまり、5年を上限に退職することが初めから決められていたのだ。月に120時間勤務。月給は額面が20万円に満たないため、手取りで17万円となり、ボーナスはない。5年経っても正職員になれないばかりか、職を失う。それでも久美さんは「就職氷河期に贅沢は言えない。好きな仕事ができるのだから、ここでできる限りを吸収して、次へのステップにしよう」と割り切った。

 働き始めると、すぐに仕事に夢中になった。何度も会を重ねると、地域で顔見知りが次々と増えていき、個人的な話もするようになった。「こうやって、自治体職員が自ら人の輪を作っていけるんだ」ということを実感した。中には「久美さんが企画する会だから参加するんだ」と言ってくれる年配の人もいる。そんな言葉を聞くと、自分の存在が何か社会に役に立っている気がした。人とのつながりが着実に広がっていく。殺伐とした東京の中でも、昔ながらの人間関係を新しく作っていくことは十分できると感じた。

 ところが、夏の予算編成の時期になると、職場では「この事業、来年度はなくなるかもしれない」という声が聞こえてくる。その度に、自分の仕事がなくなる心配をした。そして、「地域で蓄積された人間関係が、職員が非常勤だからといって5年で自動的に『はい、さようなら』ということでいいのだろうか」という疑問を強く感じるようになった。

若者が「地域再生」を諦める時――。自治体非常勤職員の24歳女性のケース 1/3ページ(2010年6月14日(月))」(日経ビジネスオンライン

※ 以下、強調は引用者による。


最近の厳しい雇用情勢では、「雇用問題を何とかしろ!」という住民の方やその支持を受けた議員の方々がいろいろな雇用対策を要求されます。たとえば、一時期内定取り消しが問題になりましたが、「内定取り消しはけしからんが、そもそも新規学卒者に対する求人が少ないし、就職しても定着率が悪いから何とかしろ」とう要求があれば、それに応じて新規学卒者の就職を支援する非常勤職員を雇用することになります。上記の記事の山本さん(仮名)が採用された「社会教育指導員」なる肩書きからすると、この非常勤の職も緊急雇用創出事業で財源措置されたものではないかと推測いたします。

この緊急雇用創出事業というのは、国の緊急雇用対策の切り札として景気の後退期には繰り返し導入されているもので、戦後の失業対策事業が約半世紀にわたって失業者が滞留することとなった反省を踏まえて、とにかく「景気回復までのつなぎ雇用であって、あくまで短期雇用であること」が強調されていたりもしますが、今回の緊急雇用創出事業は平成23年度が終了年度となっています。まあ緊急雇用創出事業に限った話ではありませんが、特に緊急雇用創出事業のこうしたスケジュールを踏まえると、「夏の予算編成の時期になると、職場では「この事業、来年度はなくなるかもしれない」という声が聞こえてくる」という話も当然の成り行きではあります。

とはいえ、緊急雇用創出事業は初めから期間が明示的に限られている点ではまだマシかもしれません。それより深刻なのは、先進国でもトップクラスに公務員の少ないこの国で、さらに公務員削減を掲げる政策が与野党を問わず目玉政策として掲げられています。ということはつまり、この国では財政赤字や(誰にとってのムダか分かりませんが)「ムダの削減」が完結しない限り、正規職員を含めた公務員数は減っていくことになるわけで、それは実は正規職員についても「夏の予算編成の時期になると、職場では「この事業、来年度はなくなるかもしれない」という声が聞こえてくる」ということもあり得るということを意味します。

「身分が安定している公務員の仕事がなくなるのは民間感覚を肌身で感じるためにいいことだ」と考える方々もいらっしゃるかもしれませんが、拙ブログでは繰り返し指摘しているように、公務員は確かに身分は保障されているものの、業務が減ったことを理由として免職処分することができる「分限」処分が規定されていることから、雇用そのものは保障されていません。そして、その人員削減が本当に地域住民の望んだことなのかという点も、突き詰めて考えるとずいぶん怪しいものです。

 際立った産業もなく、農林水産業も衰退する地域だった。その地域の前地方議員は「役所は上(総務省)を見て、定員削減、人件費削減を達成しようと無理をしている。若い者がその犠牲になっていることを無視はできない」と憤る。そして、「収支報告の決算上では人件費が減ったように見せかけるために、給食事業なども民間委託したが、かえって自治体直営でやっていた頃より委託費が高くつく矛盾が起こっている」と指摘する。

(略)

 そもそも経営の効率化を求める委託では費用を抑えることが目的化される。一方、それまでと同じ業務を少ない予算で委託先が利益を確保するには人件費を抑制することになり、そこでは結果、ワーキングプアが生まれてしまう

 そして、自治体が住民も含め自ら必要だと真に判断したわけでなく、国の命令を気にしてやむなく民間委託の流れに乗るのであれば本末転倒。そこには行政からの委託に食いつく民間企業が集まり、新たな利権が生じる。公務員を削減していくということは、少ない人数でこれまでの業務をこなし過労に追い込むか、よほどの管理体制を整えない限りは委託が増えることによる不正が起きる可能性は否めないのだ。

若者が「地域再生」を諦める時――。自治体非常勤職員の24歳女性のケース 3/3ページ(2010年6月14日(月))」(日経ビジネスオンライン


中央政治の政治主導によって公務員削減は進められていますが、それが地域の雇用の受け皿を縮小させていることについては、地域の住民による「地域主権」なるものは認められていないわけです。まあ、「三倍自治」で自主財源以上の事務を担っている地方自治体が、「地域主権」というお題目を唱えれば突然自主財源だけで運営されるようになるはずもなく、「地域主権」を目指す理由なんてこれっぽっちもないともいえます。そう考えると、与野党問わず「地域主権」を相も変わらず主張し続けるこの国の政党は、いったい何を目指しているのかますますワケが分からなくなりますね。

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コメント
この記事へのコメント
いつもマシナリさん、HALTANさんには、適当な事を書きご迷惑をお掛けしてますのに、ご丁寧な対応には大変感謝いたしております。

 

>採用当初、「1年更新の非常勤職員で契約更新は4回まで」という条件での雇用だった。つまり、5年を上限に退職することが初めから決められていたのだ。月に120時間勤務。月給は額面が20万円に満たないため、手取りで17万円となり、ボーナスはない。5年経っても正職員になれないばかりか、職を失う。

 さて、以前から「非常勤職員の契約更新の期間が3年を超える場合、正規職員へ登用する協定」なるものが、自治労と自治体であった話を聞いたことが有ります。今回のエントリーは良い機会と思い書きこみさせていただきました。

 地方で企業倒産が頻発した際、多くは自治体職員(正規・非正規雇用)としたものです。それによって、人口の流出の歯止めを行ったのですが、そのような措置が連続的に発生する中で、職員数が急速に増大することで、自治体の財政状態が緩やかに悪化していくことが、公務員削減要求の本来の趣旨だったと認識しています。

 正規職員になれない方達は、自分の記憶では多くが、各種団体の正規職員へ斡旋していたはずです。

 また、職員が亡くなられた際は、民間雇用が厳しいため、配偶者の方の再就職先として、各種団体を斡旋したことも多々あるはずです。

 民間委託への流れを、後押しするきっかけに、自治体と自治労の協定の存在があるような気がします。
2010/06/23(水) 13:25:41 | URL | gruza03 #DgdRcaA.[ 編集]
> gruza03さん

こちらこそいつもご覧いただきありがとうございます。また、はてブをいただきながら返答できず申し訳ございませんでした。


> 地方で企業倒産が頻発した際、多くは自治体職員(正規・非正規雇用)としたものです。それによって、人口の流出の歯止めを行ったのですが、そのような措置が連続的に発生する中で、職員数が急速に増大することで、自治体の財政状態が緩やかに悪化していくことが、公務員削減要求の本来の趣旨だったと認識しています。

もしかすると、この点は、以前はてブでいただいた

> gruza03 大学, 雇用, 教育, コミュニケーション みんなが分かっていながらマスコミでは誰も指摘しないポイントは、次の2点でしょう。/ええその通りです。ただ「本来なら大学に入れない」層の一定数を公務員として受け入れたことに対する憎悪が根底にある。 2010/06/06
http://b.hatena.ne.jp/entry/sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-400.html

というコメントと同趣旨でしょうか。実は私自身はそういった場面の遭遇したことがないのですが、国鉄民営化のときに受け入れた職員と同じ職場になったことはあります。むしろ、最近は表だって正職員として受け入れるというより、とりあえず臨時職員で雇うというパターンが多いように思います。

いずれにしても、大規模倒産があれば「役所がなんとかしろ」という民意が盛り上がり、とりあえず受け入れた職員が「公務員は多すぎる」というイメージの元となっているのであれば、民意とは何とも気まぐれなものです。

> 民間委託への流れを、後押しするきっかけに、自治体と自治労の協定の存在があるような気がします。

これはリーマンショックで吹き飛んでしまった「2009年問題」と同じ構図ですね。3年を超えた派遣労働者には正規雇用を申し入れなければならないという規定に対して、派遣先企業はクーリング期間をおいて再度派遣労働者を受け入れようとしていたものの、そのような回避策が厚労省に否定されてしまったために、リーマンショックとも相俟って大々的な派遣切りを招いてしまったわけです。

左派政党は今回の参院選でも、未だに「正社員が原則だ!」とか「大企業には雇用の責任があるから、安易な首切りは許さない!」と宣っておりますが、それが当の労働者自身を苦しめていることには永遠に見て見ぬふりなのでしょう。
2010/06/25(金) 23:40:29 | URL | マシナリ #-[ 編集]
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