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2010年06月09日 (水) | Edit |
前々回エントリで取り上げさせていただいた海老原さんの新著ですが、最終章に拙ブログでもおなじみの湯浅誠内閣府参与(再任)との対談が掲載されていて、ここでも印象的なやりとりがあります。

海老原 常用型は、結局、派遣会社の正社員じゃないですか。そうすると同じなんです。相当なレベルじゃないと派遣会社に雇ってもらえない。入口は狭まってしまいます。もうひとつ。常用型は本人もすぐ辞められないんですよ。派遣先に行って「この会社はイヤだ」と2日で辞めたら。派遣先で怒られなくても、派遣元つまり会社に戻って上司にこっぴどく怒鳴られます。そこは、やっぱり正社員なんだと思います。
湯浅 いや、私は基本的には常用型じゃないと困ると思っています。期間の定めがある登録型は、「例外」であるべきです。登録型だと、派遣先が中途解約して「6か月契約の派遣を3か月で切る」といった場合も、クライアントである企業のほうが強いですよね。派遣会社は派遣先には損害賠償請求ができずに、泣き寝入りする。そのツケは労働者に転嫁されて、給料が3か月分しかもらえずにクビ。海老原さんと私は見ている現実が違うと思うんだけど、ウチに相談に来る人は派遣でかなりひどい目に遭ってますよ。

pp.280-281
※ 太字下線強調は引用者による。

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(2010/06/01)
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この部分は、「対人関係が苦手な人を救うのが『派遣』だ」という海老原さんと、「切られても泣き寝入りの登録型派遣は認められない」という湯浅氏の見解が対立している部分なんですが、個人的に「自分が見ている現実がこうだから、現実はこうだ」という主張は信用しづらいと考えています。以前、小島先生に対する批判を取り上げたときにも書きましたし、「敬うべきモデル」について取り上げたときに書いたことにも通じますが、目の前の現実だけに基づいて帰納的に世の中を理解しようとする姿勢は、なまじ自分の目で見ているだけに修正がきかないという点でかなり危険な態度といわざるを得ません。引用した部分でいえば、確かに派遣切りで酷い目にあった方はいらっしゃるでしょうが、それが登録型派遣に起因することかといえば必ずしもそうではないわけです。

というか、常用型派遣で雇用されている方というのは、まさに専門26業種業務といわれるような翻訳とかITプログラマといった、一芸に秀でた人材として短期プロジェクトで必要となる職種に限られているのが実態でしょう。すべての派遣が常用型でなければならないというのであれば、すべての派遣労働者が上記のような特別なスキルを持ってプロジェクトからプロジェクトへ渡り歩けるようにならなければなりません。そしてそれは、現に失業している方にとってはハードルが高くなることにしかならないわけです。

労働者派遣の本当の問題は、上記のような特別なスキルを持った労働者だけが対象だというフィクションを前提とした上で、そのことを理由として「通常業務に当たる正規労働者」の雇用を保護しているという点にあるので、専門26業種業務に限定するというフィクションがある限り、調整弁としての派遣労働者を保護するという発想に至らないということは、hamachan先生が常々指摘されていることですね(最近ではこのエントリとか)。海老原さんは、「正規労働者の中にも派遣労働者と同じようなストレスの少ない仕事を望む/せざるを得ない人がいる」という点を突破口として、派遣労働者として会社で働く経路から、そのまま正規労働者になるも、周辺的正規労働者になるも、それぞれの事情に応じて選択できる制度として「公的派遣」を提唱されているのだと思いますが、湯浅氏にはその点が伝わらなかったようです。こういう場合には、「見ている現実が違う」ということをいってしまった側がより狭い範囲の「現実」しか見ていないことが往々にしてあります。目の前の現実に入れ込みすぎてしまったために、自分の見ている現実以外に現実があることが想像できなくなっている状況といえそうです。

という観点から本書の冒頭で取り上げられている方々を拝見すると、意図的な(?)引用をしている門倉氏、あるいはデータのみを見ている(と思われる)玄田先生と比較して、一面的なとらえ方で極論ばかりを主張する城氏も、なまじ企業内の人事の現場にいたために、この「自分の見ている現実以外に現実があることが想像できなくなっている」状態に陥っている度合いが高そうです。本書でもよく見てみると、門倉氏、玄田先生に比べて城氏に対する批判のパートの紙幅が各段に多いですし、「城さん、あなたはこの構図もすべて理解している。だからあえて、眠れる1割を揺り動かすために、精力的に発表し、熱く語り続けるのではないか?」(p.89)という海老原さんの問いかけも、「あなたの見ている現実が歪んでいるからこそ、そうして熱く語れてしまうのではないか?」という問いかけにも思えてきます。

まあこれは穿った見方かもしれませんが、自戒を込めて自分の目の前の現実を俯瞰する努力を怠らないようにしたいと思った次第です。

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コメント
この記事へのコメント
専門26業種
 う~ん、これも見ている現実が違うのかも知れませんが、専門26業種(政令26業務)に従事する人の過半は5号(事務用機器操作業務)で、要するに業務の中でパソコンを使っていさえすれば該当する業務です。実質的には一般事務で、全く専門性を必要としないにも関わらず常用代替として用いられ、何度となく派遣会社への業務改善命令も出ています。常用派遣が一芸に秀でた人材として短期プロジェクトで必要となる職種に限られていれば事情は異なるのでしょうけれど、その専門性は書類上の建前に過ぎず、行政もある程度まで認めざるを得ない(故に業務改善命令を出さざるを得ない)状態にある、その辺も考慮していただければと思います。
2010/06/09(水) 18:35:53 | URL | 非国民通信 #BkzNXpYU[ 編集]
> 非国民通信さん

ブログをいつも拝見しております。何度か引用もさせていただいておりましてこの機会を借りて御礼申し上げます。

> 実質的には一般事務で、全く専門性を必要としないにも関わらず常用代替として用いられ

るという実態はあると存じますが、確かに実態として「常用代替」しているとしても、入り口時点では許可制の一般派遣業者による登録型派遣がほとんどではないかと思います。常用型か登録型かという区別自体が派遣前の状態を振り分けるものに過ぎませんので、勤務実態が常用代替的であっても、一般派遣業者による登録型派遣ということはあり得るわけです。

労働者派遣法があくまで専門26業務(業種ではなく業務でした。本文も訂正しました。)というフィクションを前提にしている限り、通常業務に当たる正規労働者の雇用には影響のない範囲でしか派遣労働者には業務が与えられません。この点においては、一芸に秀でている派遣労働者も普通の事務作業をする派遣労働者も、区別がつかないことになってしまいます。本エントリではこの点を強調するため、正規労働者には「通常業務」という言葉を充てたつもりでしたが、ちょっとわかりにくかったですね。

また、
> 常用派遣が一芸に秀でた人材として短期プロジェクトで必要となる職種に限られていれば事情は異なるのでしょうけれど、その専門性は書類上の建前に過ぎず

という点もご指摘のとおりですが、書類上の建前であることを問題視するのではなく、そのことが派遣労働者の業務は特殊なものだという論拠となって、正規労働者との待遇格差を助長する問題がより重要ではないかと思います。
2010/06/10(木) 23:46:32 | URL | マシナリ #-[ 編集]
 ご丁寧にご回答いただき、ありがとうございました。私の読みが足りなかった部分までご説明いただき、マシナリさんの立脚点は理解できたように思います。また「常用代替の派遣社員」と「常用雇用の派遣社員」を混同した形でコメントしてしまい、失礼いたしました。

 冒頭の海老原氏の著書は私も読んでみました。あまり取り上げられることのなかった切り口を教えられる一方で、どうも海老原氏の批判は海老原氏自身にも当てはまるところがあって、「見ている」と語る湯浅氏とは対照的に海老原氏は「見ないで済ます」ところが散見されるようにも感じたのですが、その辺も含めて考える材料とさせていただきます。
2010/06/11(金) 21:54:52 | URL | 非国民通信 #BkzNXpYU[ 編集]
非国民通信さんのところで先日関連すると思われるエントリがアップされていました。(レスが遅くなりまして申し訳ございません)
http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/c51398af208eed4a90b55b67c4e44a9a

これがおそらく非国民通信さんのおっしゃる「見ないで済ましている」ということなのではないかと思います。
非国民通信さんが実際に体験したような現実があることは寡聞にして存じませんでした。私も認識を改めたいと思います。ご教示いただきありがとうございました。

正直にいうと、「何が現実か」という議論は、下手をすると「群盲象を撫でる」ことになってしまうのであまり気が進まないのですが、かといって「その現実は全体を捉えていないから・・・」という議論では、総論だけで内実の伴わないものに陥ってしまうことも認識しているつもりです。今後ともできるだけ見聞を広めていきたいと思います。

あと、これは非国民通信さんのエントリで気になった点ですが、
> よく「イレギュラーな勤務が求められる営業は派遣には置き換えられない(だから非正規への置き換えが無限に進むわけではない)」みたいに言う人もいますけれど、それは実情に疎い素人の青写真に過ぎません。雇用側が非正規雇用の比率を増やしたいと思えば、その分だけ正規雇用の椅子は脅かされるのです。「正社員を守るために派遣社員が犠牲にされている」なんて言論にもまた事欠かないわけですが、むしろ(雇用主の好きにできる契約である)非正規雇用の拡大が、(雇用主にとって好きにしにくい契約である)正規雇用を脅かしていると見た方が現状を的確に捉えていると言えます。

確かに業務内容だけで正規か非正規かを区分すべきというような議論はあまり意味がないとは思いますが、「(雇用主の好きにできる契約である)非正規雇用の拡大が、(雇用主にとって好きにしにくい契約である)正規雇用を脅かしている」というとらえ方も一面的ではないかと思います。

ご指摘のあったように、特に中小企業では

> 会社の偉い人が何を思ったのか「事務は社員のやることじゃない、事務は派遣にやらせる」との方針転換が打ち出され

ることがあったりと、実態として「(雇用主にとって好きにしにくい契約である)正規雇用」となっていないからこそ常用代替が起きるとも考えられます。この辺りは大変入り組んだ事情がありそうなるので、機会を見てまたエントリを起こしてみたいと思います。
2010/06/17(木) 07:30:48 | URL | マシナリ #-[ 編集]
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