2010年05月23日 (日) | Edit |
普天間基地の移転も大きな問題ではありますが、先送りに先送りを重ねた結果の5月末決着に総理大臣の関心が集中している間に、これまでの畜産業の品質を支えた種牛にまで感染が広がってしまいました。

「宮崎口蹄疫、“エース”感染「種牛作るのに7年必要」」日本経済新聞2010/5/22 12:00

感染の疑いが判明した「忠富士」は、宮崎県産の子牛の9割をつくる種牛6頭の凍結精液のうち4分の1を占める“エース”だった。現在、1つの牛舎に同居している残りの種牛5頭で仮に感染疑いが出れば、凍結精液のストックが1年分しかないため、来年から凍結精液を供給できない深刻な事態に陥る。

 種牛は牛の畜産で根幹をなす。種牛と母牛の交配で生まれた子牛はすぐに種牛になるわけではなく、多くの子牛から選抜していく必要があり「1頭の種牛をつくるのに7年はかかる」(県農政水産部)。2007年に和牛日本一に輝いたほど肉質の良い宮崎県産牛の地位を築いた現在の種牛は「30~40 年かけてつくってきた」(同)。

※ 以下、下線太字強調は引用者による。


この影響は、言うまでもなく宮崎県だけの問題ではなく全国の肉牛畜産業者に及びます。

「口蹄疫:産地切り替え困難 種牛殺処分」毎日新聞 2010年5月23日 9時35分(最終更新 5月23日 10時26分)

 宮崎県での口蹄疫(こうていえき)感染拡大で、「スーパー種牛」の「忠富士」が殺処分されたことは、宮崎から子牛の供給を受けている各地のブランド牛産地にも衝撃を与えた。流通や飲食業界では目立った混乱はないものの、将来的な牛肉調達への影響を懸念する声も出ている。【安部拓輝、竹花周、渡辺諒、高橋龍介】

 ◇滋賀
 「近江牛」産地の滋賀県では、1年間に県外から仕入れる黒毛和牛の子牛4500~5000頭のうち、4割近い1700頭弱が宮崎産。改良が進み、霜降りで体の大きい牛に育つため、農家からの信頼は厚い。忠富士まで被害が拡大したと聞いた県畜産課の担当者は「宮崎の宝が……。完全防備していたはずなのに」と語る。

 同県竜王町の澤井牧場では、毎月仕入れる100頭近い子牛の約7割が宮崎産。うち約6割の40頭近くが忠富士の血統だ。今月から仕入れがストップし、飼育と出荷のサイクルは崩れている。澤井隆男社長(52)は「まずは事態の終息を待ちたい。落ち着けば、生き残った子牛が2、3カ月遅れで市場に出る。それを買い支えて応援したい」と話した。

 ◇佐賀
 「佐賀牛」で知られる佐賀県の肉用牛は、出荷頭数の14%が宮崎産の子牛から育てられている。県畜産課は「農家には子牛に合わせて積み重ねた飼育のノウハウがあり、他県産に切り替えるのはリスクが高い」と指摘する。質の高い種牛が1頭減れば、口蹄疫が終息しても市場に影響が出ることは否定できないといい、「とにかく早く終息することを祈るだけ」と話した。

 ◇長野
 宮崎から年2000頭以上の子牛を買い付ける長野県。県園芸畜産課は「今回の騒ぎが始まってから、宮崎牛の供給が止まった。農家が北海道など他地域から子牛を調達する流れが出てくるかもしれないが、全国的にこの流れが加速すると、価格高騰が考えられる。これが農家の心配の第一だ」と話している。


口蹄疫という家畜感染症が広がっているのは局地的な問題かもしれませんが、言うまでもなく部分集合である一地域での問題は全体集合である日本という国の問題でもあるわけです。口蹄疫の感染が及ぼす影響がこれだけわかりやすく並べられれば、「国家レベルの問題」という観念的な想定が現実には何の意味も持たないことは明白ですね。ところが、国家レベルの問題に専念すべき国会議員や国家公務員が国の内部の局地的な国内問題なんぞにかまっていられないという奇妙な論理が「民意」の支持を集めるようになり、政治主導の名の下に「素人政治」がもてはやされています。むしろその素人政治が「しがらみのない」「庶民感覚」の「生活者の目線」という聞こえのいい言葉で修飾されることにより、その危険性が意識されなくなってしまっているという方が正確かもしれません。

前回口蹄疫が発生した2000年当時ももちろん、政治主導が大きな政治テーマになっていたことは現在とあまり変わりないのですが、2001年の省庁再編前ということもあってか、当時の農水省は「官僚主導」的に迅速に対応していたことが他ならない国会答弁から伺い知ることができます。詳細なやりとりについては、前回に引き続き天漢日乗さんのブログで取りあげられているのでそちらをご覧いただきたいのですが、官僚のやることはすべてけしからん!という方々からすれば、これも官僚主導の弊害なのでしょうね。

98年振りの口蹄疫という未経験の難題だったのだが、発生確認からわずか2日後という短時日でも、
 質問する須藤議員も、答える玉沢農水相も、口蹄疫に関する最低の常識は持って答弁に臨んでいる
ことが読み取れる。

翻って
 10年後の現在、国会や農水省の会見で見られる赤松農水相の「不見識」

 一体何なのか
と疑問を抱かざるを得ない。これこそ
 政治主導という聞こえのよい言葉
の元に
 素人が、国難を左右する
という由々しき事態を招いた、その動かしがたい実例と言えるだろう。

専門的な問題についても、赤松農水相が答え、それによって
 自らの無知振り、不勉強振り、認識不足をさらに衆目の元に晒す
というのは、いま起きている口蹄疫禍の最前線で闘っている農家や関係者の
 心理的なダメージを大きくする
だけである。
 みんな気力を振り絞って闘っている
というのに
 心を折るのは赤松農水相
なのだ。

人呼んで「赤松口蹄疫」 宮崎県口蹄疫は4/20の発生から30日間で13万頭殺処分決定のパンデミック規模(その23)平成12年3月の口蹄疫発生直後の参議院農林水産委員会議事録から窺える専門家のレクチャーを受けない「鳩山素人政権」の危うさ(2010-05-22)」(天漢日乗
※ 赤字強調は原文。


ここで問題となるのは、ご自身のWebサイトの「政策」のページに「農業」の文字が一切出てこない現農水相と、現役時代には「族議員(国防族、農林族)の重鎮と目されていた」玉澤氏(Wikipedia:玉澤徳一郎)のどちらが「政治主導」が可能かという点ではないかと思います。上記のような「しがらみのない」「庶民感覚」の「生活者の目線」による政治がもてはやされるのは、いわゆる既得権益に対する拒否反応として考えることができると思いますが、口蹄疫の発生に際して迅速な対応ができるのは「しがらみのない政治家」と「しがらみにずぶずぶの政治家」どちらなのかという問題としてとらえると、「既得権益の打破により生活者目線の政治が可能になる」なんて単純な話では済みません。もしかすると、農林族であった玉澤氏であったからこそ、口蹄疫の重大性と迅速な対応の必要性を即座に理解し、財源や人的リソースを奪い合う他の既得権益代表者とのタフな利害調整を乗り越えることができたのかもしれません。逆に「しがらみのない」政治家が、口蹄疫なんて局地的な感染症だからチホーブンケンで地元に任せて、人体には影響がないし、事業仕分けで「ムダ」を削減する方が重要だと判断することもあり得ますし、畜産業の現場を知らない「民意」はむしろそれを期待しているようにも見えます。というかそれが現実に起きていることなわけですが。

傍聴席が拡充されて公開裁判の趣がより一層強調された感のある事業仕分けでも、事業仕分け人は「対象事業と直接的な利害関係を有する者は、当該事業の仕分け作業には加わらないものとする。」とされているわけで、現場重視を掲げる改革バカな方々が、現場にいて現場を一番よく知っている直接の利害関係者を排除するという本末転倒ぶりをここでも発揮していますね。

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