2010年05月09日 (日) | Edit |
ここしばらく身の丈に合わない議論をしてしまいましたが、要はマクロの政策がミクロにどう影響するかということを地道に考えていきたいと思っているところでして、そのミクロの話を考えるときに興味深いのが、ギリシャの財政危機に当たってのIMFの支援条件として公務員人件費削減と増税という常套手段が示されたとのニュースです。

ギリシャ支援合意 ユーロ圏・IMFから15兆円(2010年5月6日 読売新聞)

 【ロンドン=是枝智】ギリシャ政府は2日、通貨ユーロを採用するユーロ圏と、国際通貨基金(IMF)から協調融資を受ける代わりに、財政赤字の削減策を行うことで最終合意したと発表した。

 ユーロ圏の国がIMFから支援を受けるのは初めて。支援額は3年間で最大1200億ユーロ(約14・9兆円)にのぼる見通しだ。ユーロ圏は2日夕(日本時間同日深夜)、緊急財務相会合を開き、支援内容を正式決定する。

 ギリシャは、公務員給与を3年間凍結するほか、クリスマスなどに支払われていた約2か月分の特別給与を廃止する。公的年金の支給額も削減し、日本の消費税に相当する付加価値税(VAT)の税率を21%から23%に引き上げる。これにより、財政赤字を3年で300億ユーロ(約3・7兆円)減らす計画だ。

 一方、初年度2010年の支援額は計450億ユーロ(ユーロ圏=300億ユーロ、IMF=150億ユーロ)の見込み。ユーロ圏の分担額はドイツが最多の84億ユーロ、フランスが63億ユーロ、イタリアが55億ユーロなどとなる。

 ユーロ圏各国は今後、支援法案の閣議決定や国会審議を急ぎ、ギリシャが85億ユーロの国債償還を控える19日までの融資実行を目指す。

※ 以下、強調は引用者による。


まあ、これがスティグリッツ教授が糾弾している「ワシントンコンセンサス」(Wikipedia:ワシントン・コンセンサス)の発動なわけですが、その公務員給与についての報道がよくわからないんですね。

ギリシャ:財政危機 怒りと困惑 抗議デモ、放火で死亡「薄給の行員がなぜ」(毎日新聞 2010年5月7日 東京朝刊)

 <追跡>
 ◇財政再建関連法案可決

 財政危機からの脱却を図る政府の緊縮財政に抗議するゼネストで3人が死亡したギリシャ。ストから一夜明けた6日、ギリシャ発の信用不安は世界を駆けめぐり、ユーロが売り込まれて、日本などの株価が急落した。ギリシャ議会は財政再建関連法案を可決したが、混乱が長引けば、市場で動揺が拡大しかねない。

 「こんな事が起きるなんて、もうここはギリシャじゃない」--。

 デモ隊の一部過激派による放火で行員3人が死亡したアテネ中心街の銀行では6日朝、焼け跡で鑑識作業が続いていた。ビルを取り囲んだアテネ市民は一様に暗い表情で怒りと困惑を口にしていた。当局は同日、市内で厳戒態勢を敷いた。

 銀行正面の事務所で働く労働省職員イレーネ・パパスさん(32)は「私と同じせいぜい月800ユーロ(約9万6000円)ほどの薄給の人がなぜ殺されなくてはならないのか」と沈んだ表情だった。

 死亡したのは妊婦を含む女性2人と男性1人でみな30代。デモに乗じて騒乱を広げる黒覆面の極左勢力への怒りもあるが、パパスさんは社会的・政治的な背景に矛先を向けた。

 ギリシャは戦後政治のトップをパパンドレウ、カラマンリス両家が交互に握り、数十のファミリーが経済的特権を維持してきた。貧富の格差が大きいところに、国民は増税と歳出削減を強いられる。


雇用形態や職位がわからないので何ともいえませんが、少なくとも労働省職員には銀行行員と同じ程度の薄給の方がいらっしゃることは事実のようです。その一方で、

はびこるワイロ・脱税、ギリシャ財政再建に障害(2010年5月9日01時21分 読売新聞)

 【アテネ=松浦一樹】欧州単一通貨ユーロ圏16か国の首脳会議は7日、ギリシャに対する1100億ユーロ(約13兆円)の協調融資を承認したが、政官の癒着、富裕層の税逃れ、ヤミ市場がはびこるギリシャで、財政立て直しは容易でない。

 「この国で、高級車や豪華クルーザーを乗り回す富裕層による所得の過少申告は当たり前」とアテネの自動車部品販売業者(63)は話す。高給取りの医師が税務署にワイロを渡し、所得を免税範囲の「1万ユーロ(約116万円)以下」と申告していた例を身近で知っているという。

 アテネ郊外の高級住宅地で、プールがあると申告した世帯は3百数十軒に過ぎなかったが、税務署が上空から調べたところ、プール付きの家は1万7000軒に上った実態も報じられている。

 こうして脱税される総額は年間230億ユーロ(約2兆7000億円)に達するとされ、財政悪化の一大要因とされている。


という報道もあります。経済学では賄賂によるコストと公務員に支払われるべき賃金のコストを比較すると、あながち賄賂が高コストとなるわけではないという分析もありますが、ギリシャが公務員に支払う賃金を渋って賄賂によって効率性を達成しようとしているかどうかはよくわかりませんね。

 実は、開発経済学においてはこのような「汚職の効率性」がまじめな考察の対象になってきた。この点についてはたとえば黒崎卓・山形辰史『開発経済学』日本評論社、の第 11章「開発援助とガバナンス」が参考になるだろう。 

 同書によれば、例えば汚職公務員が多数存在し、政府の財・サービスを消費者に完全競争的に供給するなら、賄賂が希少な公共サービスの「価格シグナル」として働き、サービスの過剰/過少供給が防げるかもしれない。また、公務員が提供するサービスに応じて賄賂をもらうという状況は、税金で公務員の給料を全てまかなう場合に比べて、公務員の仕事に対するインセンティヴが上昇する可能性さえある。このような議論は、一見荒唐無稽に見えるが、実は市場さえ機能していれば財・サービスの所有権の設定は配分効率性に影響しないという「コースの定理」に基づいている。実際、いわゆる「公共サービスのアウトソーシング」は、そのようなロジックによって行われてきたはずだ。

 もちろん、黒崎=山形はちゃんと汚職のデメリットも述べている。

 汚職・賄賂はなんといっても非合法なので、見つからないように行う必要がある。したがって汚職が蔓延した社会では、本当に必要な公共サービスではなく、「より賄賂を取りやすい」サービスが好んで提供される傾向がある。また、特定の公共サービスを提供する権限を持っているのは通常一つの役所(電話、電気、道路など)であり、サービスはその役所により独占的に供給されるため、賄賂の価格がつりあがることも大いにありうる。なによりも、「政府は自分達を助けるどころかむしりとるだけだ」という感覚は、住民の不公平感を高め、政府や「法の支配」に対する信頼性を著しく下げてしまう

■[メディア][経済][アフリカ]汚職・成長・法(2008-06-05)」(梶ピエールの備忘録。


まあ、ここでも政府に対する信頼が損なわれることによる高コストが指摘されているわけですが、脱税者とつるんで賄賂を受け取っている税務署が上空からプール付きの家を調べた実態が報じられているとなると、税務署が自らの行為を是正しようとしているのか隠蔽しようとしているのか、さらによくわかりませんね。

それはそれとして、5月9日付け読売新聞記事ではこういう指摘もあります。

はびこるワイロ・脱税、ギリシャ財政再建に障害(2010年5月9日01時21分 読売新聞)

 財政悪化は、寡頭支配の産物でもある。ギリシャでは戦後、軍事独裁下の一時期を除き、パパンドレウ家とカラマンリス家の2大政治ファミリーが交互に政権を握ってきた。両家は権力強化のため官との癒着を深め、役人の給与の大盤振る舞いに応じた。金融支援の条件として、公務員給与が凍結されたが、それでも民間の3倍の給与とされる公務員の人件費は、財政の圧迫材料だ。6日の国会審議で、パパンドレウ現首相は「前政権時の観光相は、大臣室のカーテン代として2万9000ユーロ(約340万円)を計上した」と告発したが、政治家の放漫な財政感覚を示す例で、すぐに改まる保証はない。


「民間の3倍の給与とされる人件費」って同学歴同年齢のモデル賃金での個々の労働者同士の比較なのか、あるいは公務員の総人件費と労働分配率の比較のような総額の話なのか全く不明ですが、たとえばOECDの調査によるとこういうデータがあるそうです。

 その『2010年国民春闘白書』で今回、OECDが発表している国際標準産業分類における「公務及び国防、強制社会保障事業(Public administration and defense; compulsory social security)」の人件費を調べて、対GDP比の国際比較を掲載しました。最新のデータは2007年で、数字が発表されているのは23カ国でした。

【画像】

 上のグラフは、主な国だけですが、23カ国を高い方からすべて紹介すると、(1)デンマーク16.9%、(2)スウェーデン15.1%、(3)フィンランド13.0%、(4)ポルトガル12.9%、(5)フランス12.8%、(6)ノルウェー12.3%、(7)ベルギー 11.7%、(8)ハンガリー11.5%、(9)ギリシャ11.1%、(10)イギリス10.9%、(11)イタリア10.7%、(12)スペイン 10.2%、(13)アメリカ9.9%、(14)ポーランド9.6%、(15)アイルランド9.3%、(16)オランダ9.1%、(17)オーストリア 9.1%、(18)チェコ7.6%、(19)韓国7.3%、(20)ルクセングルグ7.1%、(21)ドイツ6.9%、(22)スロバキア 6.8%、(23)日本6.2%、となります。

主要23カ国で日本の公務員人件費は最低 - 国家公務員数はフランスの10分の1以下(2010年03月16日07時12分 / 提供:すくらむ)」(BLOGOS


日本の倍近いの人件費がかかっているのか! そんな高額な人件費を公務員に払っているうちは金融支援なんぞもってのほかだ!・・・というのがIMFによるワシントンコンセンサスですが、ということは日本ならすぐに金融支援してくれそうですね。世界最低水準にある消費税率の引き上げくらいは求められるかもしれませんが、世の上げ潮な財政再建派の方々におかれましては、景気回復による財政再建を達成するために早急にIMFに対して金融支援を求めることを検討されてはいかがでしょうか。

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コメント
この記事へのコメント
OECD23カ国の中で最低というのは、軍人が含まれているからではないでしょうか?日本の自衛隊員は他国と比べて極端に少ないです。その分安全保障費として、アメリカから膨大な額の武器を購入しています。そう言う意味でいうと日本はOECDの中でもかなり上位にはいるのではないでしょうか?
2010/05/10(月) 19:10:33 | URL | ゆうか #-[ 編集]
> ゆうかさん

> 日本の自衛隊員は他国と比べて極端に少ないです。

この部分は何かの資料をご覧になったのでしょうか? たとえば、「公務員 人件費 国際比較」でググってみると大和総研や野村総研の研究レポートがヒットします。

大和総研のレポートでは、図表3で国際比較を行っていて、日本の防衛関係の公務員数はOECD諸国の中でも低位に位置しますが、ルクセンブルクに次いでアイルランドと同程度となっています。むしろ、「保健」、「娯楽・文化・宗教」、「社会保護」の国際平均との乖離ぶりは、「防衛」の比ではありません。
http://www.dir.co.jp/souken/research/report/capital-mkt/capmkt/05093001capmkt.pdf
なお、大和総研のレポートでは、「コア公務員1人当たり雇用者報酬の国際比較」(図表7)で、ニュージーランドに次いで2番目となっていますが、これは極端に少ない公務員数で人件費を割っているからです。日本の公務員は、特に地方公務員の学歴が高いという特徴があるため、一人当たりの報酬は国際比較でも、国内の民間との比較でも高くなる傾向があることに留意が必要です。

また、野村総研のレポートでは、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツとの比較が載っていますが、人口千人当たりの「国防省・軍人」の公務員数ではアメリカ、ドイツと同水準となっています。
http://www.esri.go.jp/jp/archive/hou/hou030/hou21-1.pdf

ちなみに、公務員人件費削減論の火付け役であった経済財政諮問会議資料によれば、国家公務員事件費の2割以上は自衛官の人件費に割り当てられています。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/minutes/2005/1021/item3.pdf
この図でもわかるように、いわゆる役所にいてカタカタと事務作業している私のような行政職というのは、人件費に占める割合でいえば、国で約 38%、地方で約20%に過ぎません。特に地方公務員の大多数を占める警察、消防、教育、福祉は今拡充が求められているわけで、少数派の行政職を削減してもその効果はたかがしれています。この辺の事情は5年前に書いたエントリの当時と変わっていませんね。
http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-13.html
2010/05/11(火) 02:00:55 | URL | マシナリ #-[ 編集]
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