2010年05月01日 (土) | Edit |
経済成長と社会保障の関係についての公的な機関での議論が始まったようですね。
委員名簿によると、

赤井伸郎 国立大学法人大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授
井伊雅子 国立大学法人一橋大学国際・公共政策大学院教授
井堀利宏 国立大学法人東京大学大学院経済学研究科教授
碓井光明 明治大学大学院法務研究科教授
田近栄治 国立大学法人一橋大学副学長
田中弥生 (独)大学評価・学位授与機構評価研究部准教授
土居丈朗 慶應義塾大学経済学部教授
富田俊基 中央大学法学部教授
中里透  上智大学経済学部准教授
吉川洋  国立大学法人東京大学大学院経済学研究科長

資料1委員名簿 [65kb,PDF]」(財政制度等審議会 財政制度分科会 平成22年4月26日(月)


だそうで、このメンツを見ると、マクロ的な部分は吉川先生が中心になって中里先生(土居先生も?)がフォローするのでしょうか。早速第一回会合では中里先生がそのものずばりの「社会保障支出のマクロ経済効果に関する論点整理」という資料を提出されています。論点整理というだけあって論点は多岐にわたりますが、全般的な論点として

社会保障関連支出と景気回復・経済成長(4)
その他全般にわたって留意すべき事項
・社会保障の機能強化(医療・介護サービスの充実、雇用保険制度の拡充等)は、将来不安の解消を通じて家計消費の増加につながる可能性があるが、その効果はどの程度大きなものなのか?
・適切な財源の確保により、社会保障制度の持続可能性を担保することは、それ自体が将来不安の解消につながり、景気回復や経済成長に寄与するのではないか?

社会保障支出のマクロ経済効果に関する論点整理(注:pdfファイルです)」(財政制度等審議会 財政制度分科会 平成22年4月26日(月))p.9
※ 以下、強調は引用者による。


という「期待(予想)」に与える効果が重要だろうと思います。この点において、社会保障制度に代表される政府の所得再分配機能はリフレーション政策と親和的であろうと個人的には考えております。

ただし、いわゆる「リフレ派」の方々の主張とのもっとも大きな違いは、資料では小さな文字で書かれていますが、

雇用創出と景気回復・経済成長
政府支出を通じた雇用創出の提案について(続き)
〇コメント(続き)
・このような形で雇用を創出することがどの程度妥当なものであるかは、社会的なニーズの変化に対応し、成長のシーズとなるような事業に的確に資源を投入するという点における政府の能力のいかんに依存するのではないか?
(個別分野に対する産業政策の是非とも関連)
・不況期に増税によって財源調達を行うことは、景気にマイナスの影響をもたらすことはないか?*1

*1 もっとも、1997年から98年にかけて生じた景気の急速な悪化は、97年秋(11月)に生じた金融システムの不安定化が主要因であり、消費税の増税等が景気に与える影響については過大評価がなされないよう留意が必要である(中里(2010))。

「同」p.11


という増税が景気に与える効果に対する見積りでしょうから、結局のところ、拠出と給付の差し引きというネットの所得再分配機能の評価が重要になるわけです。まさに中里先生の資料の冒頭に出てくる「経済財政運営におけるナローパス」を慎重に求めることが必要であって、リフレと地方分権と雇用流動化を一緒くたに論じるような乱暴な議論では、そのナローパスをとらえることは難しいのではないかと思うところです。

ちなみに、ここで「受益と負担」という言葉を使わずに「拠出と給付」という保険用語を使ったのは、実はこれこそがビスマルクが社会保障制度を創設した理念だったろうと考えているからですが、まあこの辺は権丈先生の議論に多大な影響を受けております。最近では東洋経済にこのようなコメントをされていますね。

社会保障とは、ミクロには貢献原則に基づいて分配された所得を、医療・介護や保育・教育などの必要原則に基づいて修正する再分配制度であり、マクロには基礎的消費部分を社会化することにより、社会全体の消費性向を調整しつつ、広く全国に有効需要を分配するための経済政策手段でもある。
p.66

「成長のための負担増」は日本でも定着するのか?『週刊東洋経済』2010年4月24日号 (注:pdfファイルです)」(Kenjoh Seminar  Home Page 仕事のページ


中里先生のペーパーに話を戻すと、中里先生ご自身は飯田先生から「中里師匠」と呼ばれ、共著もある方ですね。

●これからの金融政策
 インフレ目標政策は,目標とするインフレ率を発表し,その達成に責任を負う制度です。このようなルール型の政策の利点は,政策に関する予想の不確実性が低下するところにあります。たとえば,インフレ率が上昇し始めたとき,インフレ目標政策がとられている国では近々金融引締が行われることを容易に予想できるためインフレの加速が生じにくくなります。市場関係者に将来の政策プランを説得的に示すことができること自体が市場を安定化させるのです(コミュニケーション機能)。これまでのインフレ目標政策の導入は効率のインフレを抑制することに成功してきました。
p.180

●財政赤字の問題点
 財政赤字の拡大に伴う国債の累増は,その持続可能性(財政破綻の可能性)や将来負担(増税)に対する懸念を生じさせ,家計の消費にマイナスの影響をもたらす可能性があります。
 たとえば,家計がライフサイクル・恒常所得税仮説に従って消費を行っている場合,国債発行によって調達した資金をもとに減税を行っても,減税のために発行された国債の償還が将来の増税によってファイナンスされることを家計が合理的に予想している場合には,減税が消費の増加につながらず,財政政策が無効になる可能性があります(リカード=バローの等価定理(中立命題))。
 また,景気対策として公共事業の追加が行われても,その事業が非効率で将来の生産性の向上に寄与しないと予想される場合には,公共事業の追加が景気対策として有効でなかったり,場合によってはむしろマイナスの効果を持つ(財政支出の増加が家計消費にマイナスの効果を与えてしまう)可能性があります(非ケインズ効果)。
p.184
※ 青太字強調は原文。

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おそらく「これからの金融政策」の部分は飯田先生、「財政赤字の問題点」は中里先生が執筆されたのではないかと思いますが、中里先生は非ケインズ効果に関する論文を多数発表されている方でもあります。一般に読めるものとしては、ドラエモンさんこと故岡田靖氏と飯田先生の共同論文も掲載されている浜田ほか・内閣府経済社会総合研究所編(2004)の第4章が、実証分析を交えた論文として参考になります。
論争 日本の経済危機―長期停滞の真因を解明する論争 日本の経済危機―長期停滞の真因を解明する
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ネットでは、同じくESRIの
財政再建と景気回復の両立可能性:第2章 財政政策の非ケインズ効果をめぐる論定整理」『経済分析』第163号、内閣府社会総合研究所(2002)
が読めます。

経済成長重視のスタンスと社会保障を通じた所得再分配機能強化のスタンスは全く矛盾するものではないとの認識が共有され、実のある議論が深まることを期待せずにはおられません。

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