2010年04月26日 (月) | Edit |
前回のエントリはとりあえずのメモではありますが、このメモの元ネタとなっているのがこの番組です。

創立1636年、アメリカ建国よりも古いハーバード大学の歴史上、履修学生の数が最高記録を更新した授業がある。政治哲学のマイケル・サンデル教授の授業「Justice(正義)」である。大学の劇場でもある大教室は、毎回1000人を超える学生がぎっしり埋まる。あまりの人気ぶりにハーバード大学では、授業非公開という原則を覆し、この授業の公開に踏み切った。ハーバード大学の授業が一般の目に触れるのは、史上初めてのことである。

ハーバード白熱教室」(NHKオンライン



個人的に政治学には懐疑的な思いがあるので、マイケル・サンデル教授の専門である政治哲学という分野もコミュニタリアンの第一人者であるという経歴もこの番組ではじめて知りましたが、ここでも所得再分配の是非についてまさに「白熱」した議論が展開されています。というのも、サンデル教授の講義が的確かつ簡潔であることはもちろんのこと、聴講している学生たちは常に手を挙げて発言しようとしていて、サンデル教授がさらに議論の要点を学生たちの発言の中から導き出していく過程がライブ感覚で伝わってきて、見ている側も思わずううむと唸ってしまいます。

前回の第3回放送と今日の第4回放送では、リバタリアニズムについてのノージックの「課税による所得再分配は奴隷制度と変わりがなく、自己の所有する資産を盗んでいるだけだ」との主張を取り上げながら、ベンサム、ミル、ロックといった功利主義の系譜の中で「自己の所有」をどう説明してきたかが議論されていました。意外だったのは、第3回放送でリバタリアニズムの立場から議論した「リバタリアンチーム」が、聴講生の中でも少数派だったということです。まあコミュニタリアンの第一人者の講義を履修している時点で、リバタリアニズムに反対の立場を取る学生が多いというセレクションバイアスはあるだろうと思いますが、議論が民主主義における多数決の原理との関係に及んだところで急激にリバタリアンチームの旗色が悪くなる辺りに、サンデル教授の巧みな講義運営を感じました。

さらに、講義の中でシェークスピアの映画(出典はわかりませんでした)と「Fear Factor」(スタント勝ち抜け、というより「お笑いウルトラクイズ」みたいな番組でした)と「シンプソンズ」の一場面を上映して、どれが好きかを学生に問います。これは、J.S.ミルが「高級な「喜び」と低級な「喜び」」のそれぞれを適切に評価することは、教育を受けた人間がそのどちらも経験することによって可能になるという議論についてどう考えるかという問いでもあったわけですが、多くの学生は、シェークスピアの映画の台詞が深い意味をもっていることは認めつつも、シンプソンズの「下らない」ジョークが好きだと答えてしまいます。ハーバード大学で講義を履修して鋭い議論を連発するような学生であっても「下らない」ジョークはおもしろいと思うわけで、それほど高等な教育を受けていない大多数の人々がどう判断するかは推して知るべしということなのでしょう。

というような番組を見てから権丈先生のサイトを拝見したら、ミルについての議論を交えた講演録がアップされていました(正確には昨年12月にアップされた講演録の再掲ですが)。

ところがジョン・スチュアート・ミルは、成人して、民主主義は本当に望ましいのか、多数決は本当に望ましいのだろうかという疑問を感じ始めます。
(略)
その頃の少数者とは、いったい誰だと思いますか。ミルが見た時の多数者に対する少数者とは、教育のある人なんですね。つまりは、ミルのような人たちです。教育のある人たちが圧倒的に少数派になってしまう。その人たちの意見をいかに代弁させるかという方法を考えていかないと、真の民主主義にはならないと、彼は言っているわけです。
(略)
ミルが何とか解決していかなければならないと思った問いかけは、おそらくどの社会、どの国でもいまだ解決できていないのではないかと思います。

講演抄録「転換期の社会保障・福祉政策」『月刊福祉』増刊号平成21年12月15日号(注:pdfファイルです)」(Kenjoh Seminar  Home Page 仕事のページ


この権丈先生の認識が権丈先生の静かな憤りの源泉となっているのではないかと思いますし、それについては私も大いに共感するところです。

また、第4回放送ではジョン・ロックの所有と多数派の同意(いわゆる社会契約論ですね)が議論されていますが、植民地の管理者であったロックがアメリカを想定して書いたのが『統治二論』であったというのは有名な話ですね。これについては以前読んだ稲葉先生の著書が参考になります。

無主の未開地が豊富にあるロックの自然状態では、人は他の誰にも割を食わせることなく、新しい土地を手に入れることができます。つまり他人からの社会的な承認なしに、所有権が形成されるのです。ロックの所有論といえば普通「労働による所有」論と紹介されることが多いのですが、「労働」ということばの響きにあまり惑わされないようにしましょう。ホッブズなどと比較した時のロックの所有論の肝は、「合意によらない・単独での所有」とでも言った方がよさそうです。
p.024

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(2005/09/06)
稲葉 振一郎

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番組は次回以降アメリカという国の成り立ちに立ち入って議論するそうですので、これからも目が離せませんね。

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