2010年04月25日 (日) | Edit |
雑食気味にいろいろ書き散らしている拙ブログではありますが、最近のエントリがつながりそうでつながらないもどかしさがあるので、備忘録的にメモしておきたいと思います。

まず現在の経済政策を巡る議論については、チホーブンケンをはじめとする改革バカによる構造改革には、それがミクロの資源配分の効率化のみを目標としているものであって、同じくミクロの所得再分配に対する配慮が欠けている限りにおいて批判的にとらえています。したがって、所得再分配について考慮しない政策論議については、拙ブログでは、たとえそれがリフレーション的な政策であっても支持する気にはなりません。もちろん、経済情勢の現況を鑑みれば景気回復がまずは必要だという点について異論はありませんが、当然のことながら、ミクロレベルでの資源配分と所得再分配が機能不全に陥っていれば、景気回復によってもたらされた成果が、それを真に必要としている方々に届かないことが十分に想定されるわけで、景気回復と資源配分の効率化、所得再分配の公平性の確保は同時並行で進めなければならないものと考えます。

たとえとして適切ではないかもしれませんが、医者が足りないから医学部の定員を増員して医師免許取得者を増やすというのは、医療サービスの総供給を増やすためのマクロな政策として必要ではありますが、だからといって医師不足が深刻化している小児科や産科に人員が配置されるとは限らないわけで、小児科医や産科医の長時間勤務の実態を改善し、医療訴訟のリスクを分散するようなミクロの政策も同時に必要となります。これと同様に、(4/27訂正しました)デフレ不況を脱するために総需要を増やすのは景気回復の前提条件ではありますが、景気が回復したからといって正社員の長時間労働が常態化していたり、非正規労働者が不安定・低所得就労にとどまっているのであれば、その恩恵にあずかる層はごく一部に限られてしまいます。

これを所得再分配の公平性確保という観点から見れば、OECDでもきわめて低い国民負担率を維持したまま所得再分配機能を確保することが不可能であることは明白であって、ではどうやって長時間労働を強いられる正社員と不安定就労にとどまる非正規労働者に所得を再分配するかという点を考える必要があります。正社員が長時間労働を強いられるのは、企業特殊技能による年功賃金で生活給を保障されているためにホールドアップ問題に直面している面もありますし、非正規労働者が低所得で暮らしていけないのは社会保障が貧弱であることの裏返しでもあります。つまりは、どちらも社会保障による所得再分配機能が貧弱であることの帰結に過ぎないということもできます。

これを貨幣現象であるデフレにつなげていえば、所得再分配機能が貧弱だからこそ個人は貯蓄によって不測の事態に備えなければならないわけで、一見消費性向が低下しているように見えるとしても、流動性選好の高まりによって貨幣需要が増加しているというよりは、将来不安により貯蓄性向が高まっているという方が適切なのかもしれません。バブル崩壊後の財政赤字の増大も投資-貯蓄恒等式(Wikipedia:投資-貯蓄恒等式)をバランスさせるための措置であったわけですから、マクロ経済運営に当たっては、投資と貯蓄、あるいは輸出と輸入をバランスさせることと同時に、政府支出と税収もバランスさせなければならなかったのではないかと思います。

しかし、90年代後半には非ケインズ効果が実証されてしまい、(4/27訂正しました)リベサヨな方々からは政府支出を増加させる議論がタブー視されるようになるとともに、「リフレ派」な方々から増税は景気後退を招くという理由のみを持って退けられています。こうして政府支出といえば公共事業しか念頭にないような議論が中心となり、政府支出の不透明さも相俟って、もともと貧弱であった所得再分配機能をさらに不安定化させるような年金改革や診療報酬引き下げが政局の争点とされる一方で、霞ヶ関が天下りして既得権益を握っているからムダが生じるのであって、チホーブンケンすればさらに政府支出を削ることができるという議論が「民意」の支持を得るようになりました。

・・・というような状況で、結局いつも書いていることの繰り返しにしかなりませんでしたが、つまりは、日本における働き方と社会保障による所得再分配機能は密接に関連していて、それは政府支出と税収(保険料収入も含む)のバランスのあり方を規定するものだろうと思います。この点を踏まえてみれば、増税=財政再建と短絡的に批判するのではなく、ストック面においては資産面も負債面も巨大でありながら、フロー面ではOECD各国と比較しても低すぎる政府支出と国民負担率で運営されているこの国で、現状の所得再分配機能をどこまで維持できるのか、さらには所得再分配機能を拡充することによって労働環境を改善することが可能ではないのかという視点からの議論が必要なのではないかと思うところです。

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コメント
この記事へのコメント
これは前エントリーのコメント欄への回答でしょうか?
違ったら申し訳ありませんが、幾つか。

リフレと所得再分配機能強化は両立可能です。僕は所得再分配機能の強化としては、高額所得者増税を考えています。具体的には所得税の上限税率を以前の状態に戻すと。

ここがいつも不思議なのですが、リフレに反対する人というのは、その人が市場原理主義者であれ、地方分権主義者であれ、財政再建論者であれ、所得再分配論者であれ、必ず「両立不可能な二択問題である」と根拠なく思い込まれていることです。何故なんでしょう。
僕は勝手に、「ああ、所得階層間での金の奪い合いがしたいだけなんだな」と思って、全部ひっくるめて「我田引水型改革派」と名づけています。machineryさんは、我田引水型ですか?皆でハッピーになる方法は考えないのですか?

それと医者の話はマクロの例としては大変に不適切です。この例はミクロの部分均衡分析です。それはさておき、医者の問題って何かよくわからないんです。ニュースで聞くのは、大抵が市民病院の産科・小児科の診療中止です。僕の住んでる都市では問題はおきていません。大病院が存在しない地方都市における、地方自治体の財源問題なんじゃないかと思ってしまう面もあります。

あと、非ケインズ効果については、「観測されたこともある」レベルの話で、普遍的な事実ではありません。つまり、強いて言うなら「運がよければ非ケインズ効果が発動して、増税しても景気は悪化しないかも知れません」程度の話です。僕は、その運に賭ける勇気はありませんし、大上段に「非ケインズ効果があるから増税しても大丈夫!」って言う人が理解できません。
金融と財政は経済政策の両輪ですので、普通は、「増税して景気が悪化する可能性があるので、金融緩和して景気の下支えで相殺する手立てを用意しておこう」と考えるものだと思います。

他にも、フローとストックの話とか「???」なところが幾つかありますが、この辺で。
2010/04/26(月) 02:40:07 | URL | 通行人 #JalddpaA[ 編集]
再びHALTANさんに取り上げていただきました。
http://d.hatena.ne.jp/HALTAN/20100426/p1

> ・・・仰りたい事は分かるのですが、
> (略)
> という国でそんな繊細な議論が可能なのか? とも思うのですが・・・。

おっしゃるとおり、まあ不可能でしょう。本エントリは備忘録的なメモですので、論拠もなく思うところを書き連ねた以上の意味はありません。そのため引用も最低限になっています。それ自体が現状に対する絶望感の表れでもあるわけですが。。

> 通行人さん

そういったわけで、このメモには論拠といえるものはほとんどありません。テレビで見たサンデル教授の議論には影響されていますが、経済学の議論からは一歩引いて考えてみたものです。医者のたとえや非ケインズ効果の引用の仕方に不備があった点はお詫びして訂正いたします。

なお、私が我田引水型かどうかは、私が弁明するよりも読者の皆様のご判断にお任せした方がいいのではないかと思いますので、コメントは控えさせていただきます。
2010/04/27(火) 01:36:27 | URL | マシナリ #-[ 編集]
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