2010年04月11日 (日) | Edit |
ほかにも書いておこうと思うことがあるものの、なかなか時間がとれないので、とりあえず最近気になったブログエントリを拝見して思ったことをつらつらと。といっても、なんとなく以前の騒ぎを再燃しそうで怖いのですが・・・

世の中小企業のオヤジさんには、「ワシのかわいい社員たちは、心から喜んで夜中まで働いてくれとるんじゃ、強要なんてしとるはずなかろうが」と、心の底からそう思っていて、その「かわいい社員」が労働相談に駆け込んだりすると、信じられない裏切りにあったように感じる方もいるわけですが、その方の主観的真理がそのようであることは全く否定のしようがないからといって、それがその「かわいい社員」と寸分違わぬ共同主観性を構築しているかどうかは保証の限りではないわけです。
といいますか、指揮命令する側と指揮命令される側が寸分違わぬ共同主観を共有していれば、そもそも労使関係なるものをわざわざ言挙げする必要などというものは存在しないわけで、「ミヤタ」氏のご意見は、「べんちゃあ」な企業においては労使関係なんて野暮なものは存在しないという御主張なのでしょう。それは、多くの中小企業のオヤジさんの感覚と全く同じであるわけですが。
いずれにしても、問題は、
>ベンチャーの場合、そのような会社機能の整備にはあまり興味が無いという事になるのでしょうか。
と、そういう問題が存在することに無感覚になってしまうことにあるのでしょう。
この辺は、先日、わたくしが呼ばれた東京都の産業労働懇談会で、労働法教育の問題を取り上げて議論された際、労働者を使用する使用者が一番労働法を知っていなければならないのに、使用者になるのに何の資格も要らない云々と論じられた点でもありますね。

ホリエモン氏が自分でそのように行動することを労働法は何ら規制していません。ただし・・・(2010年4月 7日 (水))」コメント欄 投稿: hamachan | 2010年4月 8日 (木) 08時12分(EU労働法政策雑記帳
※ 以下強調は引用者による。


ここでhamachan先生が論じられていることが実体験として理解されていないことが、日本の労働問題を考えるときに一番のネックなのではないかと思います。実際、このコメントに対して「さすが机の上の世界しか知らない人の集まりって感じですね。「現場」のことを知らない人らしい論じられ方です。公務員的っていうか。この公務員的な発想が今のぼろぼろの日本を創ってきたような気がします。」といようなコメントがついていますし。

確かに「東京都の産業労働懇談会」でググってもヒットしないので、この役所用語になじみのない方には「机の上の世界」に思えるのかもしれません。私もその内実を知らないのであくまで推測の域を出ませんが、行政用語的な「懇談会」というのは、関係団体や有識者が一堂に会して、結論を得るまでもなく率直な意見交換をする場という性格のものと思われます。「産業労働」という名目であればおそらく、連合とか経営者協会・商工会議所といった労使団体と、東京都といった公的機関が意見交換の場をもたれたのではないでしょうか。この推測が実態に近いという前提の下ではありますが、そういった現場に近い方々の話し合いの場を指して「机の上の世界」といえるかという点に、労働問題に対する距離感が表れるのかもしれません。

まあこれは枝葉末節の話で、行政用語的な「懇談会」の持ち方を知らない方のほうが一般的でしょうし、知っておく必要もないでしょう。それよりも、「中小企業のオヤジさん」の心情を引用したhamachan先生のコメントに対する反応をみると、それにはあまり言及されることもなく、六本木で働いていた元社長の個人的な見解のほうにシンパシーが集まっているという状況のほうが、より深刻な問題に思われます。

確かに、小さな会社では経営者も従業員も「家族のような」共同体となって日々の仕事に打ち込んでいるわけで、家族経営の自営業の場合は実際に従業員の中に家族がいたりましますが、それはあくまで「家族のような」ものであって、それぞれの従業員には現実の家族があります。端的に言えば、そうした経営者が従業員に「家族」であることを強要することはもちろんのこと、家族に配慮しない(長時間拘束することはもちろん、過労によって従業員の健康を害することも家族に対する配慮が欠ける行為です)ような勤務形態を「好きでやっているだけ」とか「家族同然の経営だから朝から晩まで働いているだけ」という理屈で、特に従業員の「自発的」な行為として正当化することが問題なわけです。

言うまでもなく長時間労働は身体に悪影響を及ぼしますし、過剰なノルマや無理のある納期のために強烈なストレスにさらされていれば、精神的な疾患に罹患する可能性も高くなります。それを「好きでやっているから」、「自発的にやっていることだから」といって片付けられるのかという問題が一方にあって、その一方でそれを認めてしまったとき、従業員の「自発的」な労働供給に頼れば低コスト経営ができることになるので、そういう事態が望ましいことなのかという問題にも向き合う必要があります。というか、実はこれが現在の日本の労働を取り巻く環境であって、だからこそ六本木で働いていた元社長の個別的な見解が当然のことと受け止められるのでしょう。

さらに、上のhamachan先生のコメントで「労働者を使用する使用者が一番労働法を知っていなければならないのに、使用者になるのに何の資格も要らない」という点についていえば、それなりに人事労務管理体制がしっかりした会社であれば、労務管理一筋の労働法のプロもいるかもしれませんが、そもそも「雇用契約」ではなく「行政処分」として公務員を任用している役所に労働法を知っている人は存在しません。「民間感覚を取り入れる」という公約でカイカク派首長になった方々が、だからといって民間と同様に適用される労働法規を遵守するどころか、むしろ「民間でも労働法の保護がないんだから文句言うな」というようなことをいってしまったりするわけです。「自発的」というそれだけをとらえれば「美しいリクツ」が波及していくと、結果として誰も救われない事態を招いてしまいかねないという好例ですね。

こういう労働環境を踏まえてみるにつけ、いちチホーコームインとしては「自発的」にサービス残業をさせていただくしかないのだなと観念しております。たまにこういうおもしろ判決もありますが、

 まぁ残業していないのに残業代を請求するのも、残業させたのに残業代を支払わないのも共に問題があるわけですが、世間的には前者ばかりが問題にされそうな気がします。サービス残業/残業代の不払いが当たり前のように日常化している一方で、残業代の不当請求は僅か1万8千円程度ですら裁判沙汰になるようですから。仮に全面勝訴しても裁判費用の方が高く付きますけれど、それほど不当請求は重い罪なのでしょう。被告は公務員ということで市側のパフォーマンスもあったと思われますが(市職員に厳しい態度をとることで、市民の望みを満たしてやるわけです)、残業代の不払いがあるにもかかわらず雇用者をカラ残業の疑いで訴える、これこそ盗っ人猛々しいと言うものです。しかるに世間一般の感覚はどうでしょうか。残業代の不払いは「仕方がないこと」とばかりに納得してしまう一方で、カラ残業は許せない行為として糾弾したがるとしたら、たぶん世論とは経営者目線、雇用者目線に近いものなのかも知れません。

盗っ人猛々しい(2010-04-10 23:00:20)」(非国民通信


「ワシのかわいい公僕たちは、心から喜んで夜中まで働いてくれとるんじゃ、強要なんてしとるはずなかろうが」という「民意」がある限りは、いつの日かこの判決も否定されることになるのでしょうからね。

(追記)
「ワシのかわいい公僕」とかいう言い方が気に入らないという向きには、「うちの使い物にならない公僕でも、好きで人様のために仕事させてもろとるんじゃ、給料がもらえるだけありがたい思わな罰当たるで」と言い換えても構いませんが、その意図するところは本エントリで指摘していることと変わるところがないことにご留意ください。

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コメント
この記事へのコメント
hamachan先生に取り上げていただきました。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-e2c4.html

> たぶん、その方々の脳裏においては、最先端のかっこいい「ベンチャー企業」と、「中小企業のオヤジさん」とは全然別の領域を占めていて、なんでかっこいいベンチャーを「オヤジ」扱いするのだ、と感じているのではないかと思われます。
>
> でもね、「ベンチャー」と褒め称えられる企業のかなりの部分は、こういう業界のベンチャーなんですよ。社長の年齢が「オヤジ」であるかどうかは本質的な問題ではありません。

この部分、本エントリで書き漏らしていておりました。中小企業のオヤジさんとベンチャー企業の創業者の差なんてあってないようなものなんですよね。

老舗の(?)中小企業と創業間もないベンチャー企業では特に信用力に差があるのでしょうが、それを獲得するために経営者も従業員も滅私奉公しなければならないというのであれば、それがベンチャー企業だろうがオヤジの経営する中小企業だろうが関係なく、会社そのものが自転車操業で何とか持っている状態ではないかと思われます。そうなると、財務会計上もゴーイングコンサーンに対する評価は低くなるでしょうから、そもそも経営が成り立っているのかという疑問が生じます。

経営の観点からいっても、ベンチャー企業が安定した経営を獲得するということは、人事労務管理体制を含めた経営体制が整備されてゴーイングコンサーンを確立することと表裏一体だろうと思いますので、ベンチャー企業の経営者には特に、財務管理でも人事労務管理でもベンチャー企業という免罪符を捨て去る覚悟が求められるのだろうと思います。

この点は、前日のエントリで取り上げさせていただいた海老原さんの『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと - 会場に行く電車の中でも「挽回」できる!』でもベンチャー企業を見分けるポイントとして挙げられていますしね。http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-382.html
2010/04/13(火) 00:56:29 | URL | マシナリ #-[ 編集]
公務員の体質
> チホーコームインとしては「自発的」にサービス残業をさせていただくしかない

まずは「自らがサビ残を拒否りなさい」な。サビ残をしている民間に文句を言う前にね。そういう態度が、公務員体質なんだよ。分かった?w

------

それから

「残業代の不当請求」の公務員さんと「サビ残をようけしてくれてはる頭が弱い」公務員さんは同一人物なんですかね?
2010/04/20(火) 16:05:49 | URL | ugiuhiuhiuiu #-[ 編集]
> ugiuhiuhiuiuさん

> まずは「自らがサビ残を拒否りなさい」な。

大変心強いお言葉ありがとうございます。私の地元の住民の皆様も同じことをおっしゃってくれるなら、これほどありがたいことはありません。ぜひその声を全国に広げていただきたいと思います。

> 「残業代の不当請求」の公務員さんと「サビ残をようけしてくれてはる頭が弱い」公務員さんは同一人物なんですかね?

私のような頭の弱い公務員にはわかりかねるところですが、新聞記事の

>  残業していないのに超過勤務手当を受給する「カラ残業」をしたとして、大阪市が男性職員(52)に約1万8千円の返還を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は8日、全額の支払いを命じた一審判決を取り消し、大阪市側の請求を棄却した。大和陽一郎裁判長は書類上の残業時間と勤務実態が異なっていたとした上、あらためて残業時間を算出し、未払いの超過勤務手当が約7万円あることを認定。相殺により市の請求権は消滅。
「大阪市職員がカラ残業逆転勝訴 市側の請求を棄却」(共同通信)
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/nation/CO2010040801000634.html

という記述からすると、額面上は「カラ残業」<「未払い超過勤務手当」が成り立つようですから、同一人物であり、かつ「サビ残をようけしてくれてはる頭が弱い」である面の方が強い公務員なのではないかと思われます。
2010/04/20(火) 23:16:14 | URL | マシナリ #-[ 編集]
自発的な選択
>不当請求は重い罪なのでしょう。

と書いてあったから、「刑事事件」と思いました。1万8千円くらいさっさと支払って、今後はサビ残はしないという選択の方がよろしいのではないかと。逆に、被告勝訴によって曖昧な状態が続きます。この公務員様は曖昧な状態を「自発的に選択」しておられます。

>大変心強いお言葉ありがとうございます。

それ以前に法律が貴方の味方ではありませんの?そうしないのは、やはり「貴方自身が(その言葉とは裏腹に)社蓄=公務員体質」なのではないか、と疑いますけど。
2010/04/23(金) 02:47:21 | URL | ノビーノビー #-[ 編集]
> ノビーノビーさん

> 逆に、被告勝訴によって曖昧な状態が続きます。この公務員様は曖昧な状態を「自発的に選択」しておられます。

ここで「この公務員様は曖昧な状態を「自発的に選択」しておられます」というのが、引用した判決の被告を指していらっしゃるのであれば、市から不当請求とされたカラ残業の支払いを拒否して、裁判に持ち込まれて勝訴したわけですから、「自発的に選択」した結果というよりは、司法の場で主張が認められたという方が的確ではないかと思います。もしかしたら、この判決を受けてから、この職員の方は「今後はサビ残をしないという選択」をしているのかもしれません。

> それ以前に法律が貴方の味方ではありませんの?そうしないのは、やはり「貴方自身が(その言葉とは裏腹に)社蓄=公務員体質」なのではないか、と疑いますけど。

「社畜=公務員体質」というのは大変的を射た表現ですね。おっしゃるとおり私は「社畜」的な働き方をしております。政治的な観点からいえば、民意に基づく政治主導の下では、財政民主主義が他のどんな法律にも優先する効力を持ってしまいます。例えば、「住民の代表である議会の議決によって公務員の人件費が決まっている/決めるべきなのだから、公務員が勝手に残業したからといって残業代を払う必要はない」というようなことは、住民感情としては理解されやすいのではないかと思います。

また、現実問題として限られた予算の中で行政サービスを遂行するためには、サービス残業をいとわない仕事の仕方をしなければ仕事にならないという場面が多々あります。それでもいいからやれとサービス需要サイドの方が要求される限りは、それに応じなければなりません。

善し悪しは別にして、例えばヨーロッパではこんな光景があるそうです。

> ズバリ、欧州官僚が忙しくない3つの理由!
>
> 理由1:自分に甘く他人にも甘い
>
> ワタシが仕事で追いかけていたEUのある法律に「○年○月までに見直しをすべし」と規定されていました。にもかかわらず担当部局からドラフトも出てこないし、待てど暮らせど何の反応もない。聞いても要領を得ない。結局、何もしないまま期限が過ぎてしまいました。日本だったら担当局長はクビですね。国会で大騒ぎになって新聞は書き立てる。でも彼の地では...
> 欧州委員会は説明しました。「担当がバカンスもあり忙しかったため」!
> 議会はこう反応しました。「じゃ、仕方ないですな」!!
「ヨーロッパ人が忙しくない3つの理由(2008年2月25日)」(藤井敏彦の「CSRの本質」)
http://wiredvision.jp/blog/fujii/200802/200802251000.html

労働者個人で行動を起こすことも必要ですが、集団的な労使関係において職場のルールを形成することと、それを社会的な規範に接続する作業も同時に必要なのではないかと思うところです。
2010/04/25(日) 00:06:54 | URL | マシナリ #-[ 編集]
どもども
>この職員の方は「今後はサビ残をしないという選択」をしているのかもしれません。

確かに、そうかも

>公務員が勝手に残業したからといって

それはそうでしょう。でも、勝手に残業するのは、別に止めてもいいのでは…

>サービス需要サイドの方が要求される限りは、それに応じなければなりません。

ここは分かりませんが。というか、これも公務員=社蓄体質でしょうか…
2010/04/27(火) 10:44:58 | URL | ノビーノビー #-[ 編集]
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