2009年04月29日 (水) | Edit |
anhedoniaさんのところの一連の林業関係のエントリを拝見して、林業という産業の危険さや処遇の割の合わなさを再確認しておりましたが、NHKの深夜枠でこんな番組があったので録画してみました。

山の声を聞け ~林業再生にかける80歳~
 大阪・千早赤阪村に、全国から注目されている山の達人がいる。林業を経営する大橋慶三郎さん、80歳だ。若手林業家に林業再生の切り札を伝授する大橋さんの活動を追った。
 大橋さんが考える林業再生の切り札とは、山の中に作る道だ。道さえあれば、簡単に山に登り、伐採した木を搬出することができる。コストはかからず利益が上がる。
 しかし、道は崩れやすい。そこで徹底的に観察し、危険な場所を避けて道を作るのが大橋流。「山は人間と同じ。異常があれば、必ず表に出る。」と言い、50年前に作った道も崩れはない。
 ダチョウ倶楽部の寺門ジモンさんが、道づくりの名人、大橋さんの「山」への思いに迫る。
かんさい特集 > 2月放送分」(NHK 大阪放送局


何か所か前の職場では担当の仕事の関係で山を切る現場に行く機会が多かったので、自分でも林業の現場はいろいろと見聞きしておりました。自分の知っている範囲ではありますが、anhedoniaさんのエントリ(「■[農]グリーン・ニューディールという愚策(2009-04-22)」)やそのトラバ先でも言われているように、林業のマーケットってのは建材と日用品がメインであって、その需要が落ち込んでいる中で副業的に木炭製造とか木質バイオマスなんかを細々とやっている程度で、しかも下刈りのような普段の作業は森林組合くらいしかやってませんでした。

伐採や搬出作業をするときに道が必要なのはそのとおりですが、山に道をつけるというのはとても難しいんですよね。自分が仕事で行く現場というのがそういう事故が起きたところばっかりだったからというのもあるんですが、役所の2WD車では通れないような道の先でユンボが傾きながら作業しているなんてのは日常茶飯事で、そこに行く道が崩れて保全区域が崩壊したとかはよくある話です。

もちろん、番組でやっていたように表土が動かないようなタナを見つけられればいいのかもしれませんが、地震があると突然水が出てきたり、いったん表土が動いてしまうといくら道をつけても後から崩れてしまいます。というか、なかなか安全な道が造れないから「道づくりの達人」と呼ばれるわけで、林業では伐採という作業そのものでさえ危険が伴うのに、その現場へ行く道ですら安全とはいえない状態で作業しなければならないわけですね。

ところが、相も変わらずマスコミは「効率優先のやり方には問題がある」というスタンス全開というのがいただけません。この番組でも、道づくりの達人から学んでいた若い林業家が、「自分の地元では、効率化を図るためにハーベスタと呼ばれる「伐倒,枝払い,玉切り,集積(伐倒木を集めて積んでおくこと)を1つの作業機で行える機械」を使ったり、「列状間伐」を導入していて、それに自分も合わせていいんだろうか?」と悩んでいる様子が映し出されます。実はこの悩んでいるご本人も、番組の紹介によれば「効率中心の仕事に疑問を感じて」脱サラして林業に就いた方だそうで、「効率」を悪者に仕立て上げなければ番組が成り立たないとでもいわんばかりの構成ですな。

この番組に出演していた寺門ジモンも「森林の仕事ガイダンス」とかで林業就業者を募集しているくらいなら、何のスキルも持たない就業者にとっても敷居が低くなるような効率化は積極的に進めるべきであって、それはなにより就業者の安全確保という最低限の労働環境整備はなずです。

いくらこの番組で「効率化」を批判したところで、危険な仕事に就きたがる人なんてそうそういないし、それで「林業再生」とか息巻かれても「所詮他人事なんだな」としか思えないんですよね。この点は上記のリンク先にも書いてあるので、改めて抜粋しておくと、

2 これからの間伐(効率的な間伐)

1 団地化
 一定森林区域の森林所有者が、共同で事業を実施することにより、路網の効率的な整備、機械による作業が実施しやすくなります。
2 高性能林業機械を活用した利用間伐
 プロセッサ、タワーヤーダ、スイングヤーダ、ハーベスタ、フォワーダといった高性能林業機械を活用した間伐を実施することにより、生産性をあげ、安全に作業することができます
3 間伐方法の工夫
 間伐材のコストを低減することにより、間伐を収益につなげる工夫をする必要があります。
 たとえば、一定間隔で列状に間伐する方法(列状間伐)では、作業の標準化が可能で、機械による低コストの間伐が期待できます


高性能林業機械による列状間伐」(福岡県森林林業技術センター
※ 強調は引用者による。


ということなわけで、そもそもいくら道をつけたってそこで働く人がいなければ林業再生どころではないんですから、anhedoniaさんがおっしゃるように、まずは労働環境の整備と十分な賃金を払えるだけの経営の効率化から進めるのが筋ではないかと。

最近、環境問題の関心から、林業が注目されるが、環境云々以前に、現に今、林業の現場で頑張っている労働者の待遇・労務の改善・安全衛生の向上が必要だと思う。
■[農]明日の環境より今日の命(2009-04-02)」(左思右想


おそらくそういうことを一番分かっているであろう道づくりの達人は、よく聞き取れなかったんですが、前述の方の悩みに対して、

「日本はそうやって叩き壊したらええんじゃ。情けない話や思うよ」

と応えてました。この発言の真意は測りかねるものの、「効率化を進めても就業者に対して十分な労働環境を与えられない林業に未来はない」とも聞こえた俺は、林業を悲観視しすぎているのでしょうかね。
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コメント
この記事へのコメント
 自分の家も山に植林してますから、有る程度はわかるんですが、昔と違って馬や人力で伐採した木材を運ぶことはできないのです。
 当然、車や重機類を使用することになり道路を造らなければならないので、林道を新設してもらうよう運動するわけです(効率化と安全のため)が、環境破壊だと都市部から文句が来るんですね。自分たちの所有権のある土地の有効利用をすることまかりならんと・・・。
 また地元でも、道路をつくる土地を提供するのを嫌がる人もいるのは事実です。そのような方に限って、道路ができると真っ先に伐採して売ってしまう。道路に土地を提供した者に対しては、金が入ったからどうのこうのと横やりも入ります。
 また農地の遊休地問題もそうですが、都市に移動した親族が都市の権利意識により財産分与を求めた結果、地方の農地、山林等を投機財としてしまったことにより、担保(人的、物的)を喪失することが起きた結果、地方からの派遣労働者が居住地を喪失するという、かっての炭鉱労働者移動では機能した担保が働かなくなった結果だと思うんですね。
2009/04/30(木) 09:31:57 | URL | gruza03 #XpXSwo/6[ 編集]
> gruza03さん

植林した山っていうのは植生が変わってしまっているので、人工的にしか維持できないんですよね。だからこそ道づくりが必要なのに、この番組の冒頭で寺門ジモンが「山は自然でいいですよね~」とか脳天気に言ってて、道づくりの達人がシラけてましたけど。

>  また農地の遊休地問題もそうですが、都市に移動した親族が都市の権利意識により財産分与を求めた結果、地方の農地、山林等を投機財としてしまった

登記簿と実際の地形とが全然違っているのに、親族の名前で何筆にも別れていて、どこに住んでいるかも分からない親族の土地で了解がもらえないから道がつけられないとかよくある話ですね。

耕作放棄地も同じような状態だから点在しているんであって、ブームに乗って就農しようと移住したのに、結局生活を支えられるだけの農地が見つからなくて困っている人が続出することになります。過疎だから人がいないといっても権利はしっかり地主一族に残っているという実態が、就農だの林業再生だの言っている方々にどれだけ見えているのか気になるところです。
2009/04/30(木) 21:34:00 | URL | マシナリ #-[ 編集]
HALTANさんのところで言及いただきました。
http://d.hatena.ne.jp/HALTAN/20090430/p1

私自身は直接林業の担当ではなかったので行政的なことは詳しくないんですが、「宮脇方式」というのは人口の植林をその前の状態に戻すということのようですね。それにしても200年かかりますか・・・before we are all deadどころの話ではないですねえ。

本文では明記しませんでしたが、私はもちろん「林業再生」が望ましい政策と考えているのではなく、現在林業に従事している方の安全確保が先決だろうという考えです。「ぐりーんにゅーでぃーる」とかいうのはそれからゆっくりその是非を考えても間に合うと思います。

それとは別の話として「森林再生」するためには宮脇方式ということになるんでしょうけど、「森林を再生して人の手がかからないようにする」=「山は就業の場でなくなる」ということですから、宮脇方式をとるということはむしろ林業にとどめを刺すことになるのではないかと。

その意味で、宮脇方式によって林業が安楽死に向かっていくことは望ましいことかもしれませんが、200年かかるということはその間は仕事があるぞとばかりに経産省が「就活バスツアー」とか言い出して、死に行く産業に人を囲い入れようとする構図は不気味ですらありますね。
2009/04/30(木) 21:59:35 | URL | マシナリ #-[ 編集]
2009/04/30(木) 21:34:00のコメントで寺門ジモンの発言として引用したんですが、いまたまたま番組を見直してたら、そういう発言ではありませんでしたね。

正しくは、たき火の音を聞いていた寺門ジモンが「この音をテープで録っておいて夜寝るとき聞いたらいいですね」と言って、道づくりの達人が苦笑いという場面でした。山については、別の場面で「空気がいいですよね~」といっていて、それとごっちゃになってしまったようです。大変失礼しました。
2009/05/01(金) 23:04:42 | URL | マシナリ #-[ 編集]
HALTANさんのところで再度言及いただきました。
http://d.hatena.ne.jp/HALTAN/20090502/p2

> 儲からないから放棄されている生産資源をフル稼働させても誰も得をする人はいないと思うんだけど、そんな採算面など吹っ飛ぶのが脳内妄想の昂進した「学者」やブンヤTV屋の怖いところです

19世紀までの古典派がセイの法則で「供給にはそれに見合う需要がある」という前提で議論していて、それが現実の不況を説明できなかったからケインズがマクロ経済学を考えたという歴史を踏まえてみれば、「生産すれば農業が再生する」とか「農業従事者を増やして成長産業に」というのは、一世紀前の古典派に回帰してるだけのように見えます。

製造業には「派遣切り」とか言って厳しい方々が「農業を成長産業に」と言っている時点で、ご自身が新自由主義的なサプライサイダーと同じ主張をしていることに気がつかないというのも不思議な光景ではありますね。

> ちなみにノンフィクションなどもパターンがあって、犯罪や社会矛盾のルーツを日本人の「故郷の喪失」に求める大ネタを使うことが多いみたいですね。

農業のように隣接した土地そのものが生産要素となる産業は他にはないわけで、だからこそ利水権を巡って血みどろの争いがあったりするんですよね。さらにそれを維持するためのしきたりが「しがらみ」であって、田舎の犯罪の背景には「しがらみ」がある場合が多いわけですから、「しがらみにとらわれない」らしいカイカク派知事がチホーブンケンとか農業再生とか言うのを聞くと、自分が何を言っているのかわかっているのかなあと余計な心配をしてしまいます。
2009/05/04(月) 17:21:23 | URL | マシナリ #-[ 編集]
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