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2009年03月15日 (日) | Edit |
前々回エントリに引き続いて、湯浅氏の出世作を題材に官僚叩きの見当違いを考えてみます。

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)
(2008/04)
湯浅 誠

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再びお断りしておくと、個人的には湯浅氏の行動は一定の評価は可能だと考えております。ただし、その方向性や方法論には同調できない部分が多々ありますので、今回はその部分を中心に。

まず、湯浅氏の問題意識があらぬ方向へ向かっていくポイントとなるのが、この辺からのようです。

実際問題として中卒や高校中退の人たちが、そう簡単に正社員になれるような雇用状況にあるだろうか。
(略)
本来ならば、その人たちには、少しでも安定的な雇用環境に就けるよう、支援を先行させるしかない。「就けそうだから支援する」という順番を入れ替えて、「支援して(たとえ正規雇用でなくても)就けるようにする」しかない。そのときに利用できる制度は、日本の前制度を見回してみて、現行では生活保護制度しかない。現に、これまで〈もやい〉に相談に来た人たちの大半は、生活保護を利用して就労自立に向けた条件整備をしてきた。
湯浅『同上』p.120


政府の就労支援を受けるためには「就業できること」が要件となっていることを批判した部分なんですが、ここだけ読むとなにやら政府が支援しないから就職できないということになりそうですが、それこそ本末転倒というものでしょう。「実際問題として中卒や高校中退の人たちが、そう簡単に正社員になれるような雇用状況にあるだろうか」とおっしゃるなら、まずは景気回復しなければ何をしてもゼロサムになるだけで効果はありません。

「(職に)就けそうだから支援する」か、「支援して就けるようにする」かという順番が問題なのではなく、そもそもの就職先のパイが減少していることが問題なわけです。現に、急激に売上げが落ち込んでいる製造業では非正規社員の雇い止めや新規採用の抑制が広がっていますが、その一方で、これまで人手不足が深刻だった建設業、小売業、サービス業などでは、全産業の平均以上に新規採用を増加させていますし、製造業や金融業であっても増加させると回答した企業も少なからず存在します。

企業からは、「現在の経済情勢下で、正社員の新規雇用はリスクが大きすぎる」(書籍・映像サービス、北海道)や「業績見通しが立たない段階での新規採用は考えられない」(鉄鋼・同加工品卸、東京都)など、急激な景気悪化で業績の先行きが見えないことにより採用を抑制しているという声が多く挙がった。他方、正社員雇用を増加させる企業からは、「こういう時こそ即戦力の経験者を中途採用するチャンス」(建設、栃木県)や「正社員を募集しても来ない地域でも、現況では補充が可能になった」(食料飲料卸、長崎県)といった意見も多く、地方圏や中小企業などこれまで採用が困難であった企業において、優秀な人材を確保する機会と捉えている
TDB景気動向調査(特別企画):2009年度の雇用動向に関する企業の意識調査 正社員採用、約5割の企業で「予定なし」 ~ ワークシェアリングは約4割の企業が「推進すべき」、課題は「従業員の士気低下」 ~(2009年3月4日)」(帝国データバンク


雇用不安という言い方をされるとすべての産業ですべての求人が減ってしまうように思ってしまいますが、その中にはマッチングの問題で生じた人手不足を解消する方向で作用する部分もあります。典型的にはよく農業とか福祉が雇用の受け皿になるなんていう話が出てきますが、それはただ単にこれまで働きやリスクに見合った所得が得られないとして敬遠されて人手不足が深刻だった産業に人が流れざるをえなくなっただけのこと。景気の低迷によって職を失い、生活のために背に腹は代えられない人がそういう産業に流れるとしても、その論理によるならば、景気が回復してほかに高い所得が得られるようになれば、その方々は元に戻ってしまうことになります。それは流入した労働者にとっても、受け入れた産業の側にとってもいいことばかりではないでしょう。

さらに農業に関していえば、もともと大部分をしめる個人営農の実態は兼業農家であって、その兼業先が建設業だったり製造業だったわけで、兼業農家ですら製造業で就業できずに所得が減っている状況で、その製造業からの労働力を受け入れる余裕なんてありません。結局経済全体のパイが増えなければすべての産業が縮小するというのは当たり前のことなんですがね。

しかし、他に方法がない。目の前にいる人に「残念だけど、もう死ぬしかないね」とは言えない以上、残るは生活保護制度の活用しかない。それを「ケシカラン」という人に対しては、だったら生活保護を使わなくても人々が生きていける社会を一緒に作りましょう、と呼びかけたい。そのためには雇用のセーフティネット、社会保険のセーフティネットをもっと強化する必要がある
湯浅『同上』pp.132-133


話が二段か三段くらい飛んでしまっていて、「セーフティネット」と呼ばれる制度さえあればいいと思っているのかもしれませんが、セーフティネットがきちんと機能するためには、その制度を隅々まで行き渡らせるためのマンパワーが必要だということは、「活動家」である湯浅氏こそが一番分かっているはず。その制度を担うためのマンパワーを擁する組織が行政であって、その組織を維持しつつ給付をまかなう財源を徴収するのもの行政なわけですから、そうおっしゃる湯浅氏なら厚生労働行政を担う厚労省の味方かと思いきや、こんな発言をするからワケが分かりません。

徐々に慣れさせていけば、どれだけ切り下げても死にはしない、と言っているようなものだった。江戸時代の統治者が言ったという「生かさぬよう、殺さぬよう」を思い浮かべた。すべて厚生労働省のシナリオ通りだった
検討会は、厚生労働省に対する歯止めにならなかった。この日から、私たちの活動の舞台は厚生労働省から国会に移った。検討会のお墨付きを得た厚生労働省を止められるのは、もはや国会しかなかったからだ
湯浅『同上』pp.196-197


逆だよ、逆!厚労省が必死に抵抗したのに、国民の熱烈な支持を背景に小泉内閣がそれを「抵抗勢力」として社会保障の切り下げを進めたんです。国会の与党も野党も厚労省をやり玉に挙げているからこそ厚労省のそういった正論が通らなかったんであって、湯浅氏の行動はその国会の流れに棹さすことにしかなりません。この点は、後期高齢者医療制度を巡る騒動のときに現役官僚のbewaadさんが的確に指摘しているとおり。

仮に後期高齢者医療制度が批判されるべきものであるとして、であるならばそれが向けられるべきは小泉元総理であり、竹中元経済財政担当大臣であり、経済財政諮問会議でしょう。厚生労働省に対しては批判よりもむしろ、「あなたたちの見通しが正しかった。あのときに抵抗勢力扱いして、あなたたちの声に耳を傾けなかった自分たちが間違っていた」といった謝罪があってしかるべきです(後期高齢者医療制度が批判されるべきならば、という前提に立っています。為念)。しかるに現実は反対で、小泉元総理や竹中元大臣には依然として改革の推進者として賛辞が寄せられ、批判の矢面に立つのは厚生労働省なのですから、やってられなくなるのも無理はありません。
厚生労働官僚のモラールが崩壊しかかっている件(2008-06-25)」(BI@K accelerated: hatena annex, bewaad.com


実は、こうおっしゃるbewaadさんご自身は本書について「著者の立ち位置を考えれば中立的であろうと心がけていることがよくわかり、許容範囲内というにwebmasterはためらいません(湯浅誠「反貧困」2008-09-14)」とされていますが、個人的にはだからこそ、もう一歩進めてマクロ政策の必要性にまで言及しようとしない湯浅氏に幻滅するのです。

先駆けて警告を発する者たちを自己責任論で切り捨てているうちに、日本社会には貧困がまん延してしまった。最近になってようやく、切りつけていたのが、他人ではなく自分の手足だったことが明らかになってきた。野宿者が次々に生み出されるような社会状況を放置しておくと、自分たち自身の生活も苦しくなっていく。労働者の非正規化を放置し続ければ正規労働者自身の立場が危うくなる、と気づき始めた。しかし同時に、今度は「生活保護受給者がもらいすぎている」「給食費を払わない親がいる」と、依然として新たな悪人捜し、犯人捜しに奔走してもいる。
手近に悪者を仕立て上げて、末端で割り食った者同士が対立し、結果的にはどちらの利益にもならない「底辺への競争」を行う。もうこうした現象はたくさんだ。また同じことを繰り返すのだとしたら、私たちはこの一〇年でいったい何を学んだのか
湯浅『同上』pp206-207


そのお言葉にのしをつけてお返しいたします。
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