2009年02月26日 (木) | Edit |
支持率が低下したと騒いでは内閣改造だのという話まで出ているようですが、黒い猫でも白い猫でもネズミを捕るのがいい猫(by小平)なわけで、誰でもいいからはやいところマクロ経済政策をやってください。

というわけで、前回エントリに引き続きアリエリー『予想どおりに不合理』から、この点を指摘した第8章を引用させていただきます。
予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
(2008/11/21)
ダン アリエリーDan Ariely

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この章は、冒頭で項羽が背水の陣を敷いて秦軍を壊滅させた正確には敵であった韓信の戦法をパクったんだそうですが)*1というエピソードからはじまって、選択肢があることがかえって判断を難しくするということを数々の実験結果から導き出します。そこで、選択肢を絞っていけばいいのではないかということも考えられますが、選択肢を二つだけにしたとしても結局は判断は難しいとのこと。

 たくさんの扉を閉じて、あとふたつだけ残っているとしよう。こうなれば選ぶのは簡単だと言いたいところだが、そうでない場合も多い。というより、同じくらい魅力のあるふたつの選択肢のどちらを選ぶか決めるのは、もっともむずかしい決断の部類に入る。これは、選択肢の扉を長い間開きっぱなしにしておくというだけでなく、最後に報いを受ける事態になるまで優柔不断でいるという状況だ。
p.207
※ 強調は引用者による。


ここで、腹を空かせたロバが納屋に行ったらまったく同じ大きさの干し草の山があって、どちらの山を選ぼうかと迷っているうちに飢え死にしたというたとえ話が挿入されます。政権交代が自己目的化して景気対策に反対しているどこぞの国の野党とダブって見えますね。アリエリーも皮肉たっぷりにこう続けます。

 もちろんこれは架空の話で、ロバの知性を不当に中傷している。もっといい例は連邦議会だろう。連邦議会はよく膠着する。法律の全体像――老朽化するハイウェーの修復、移民、絶滅危惧種保護対策など――にかかわるものばかりとはかぎらず、細かい部分の意見の相違が原因のこともある。こうした問題に対する両党の方針が、ふたつの干し草の山に相当するように見えることも少なくない。にもかかわらず、あるいは、だからこそ、議会はちょくちょくふたつの干し草の真ん中でとりのこされる。すばやく決めてくれるほうがだれにとってもいいと思うのだが、どうだろうか
pp.207-208
※ 強調は引用者による。


ここでさらに、同じような性能のデジカメを買うのに3か月迷ったという友人の話を紹介して、こう続けます。

 ふたつのものごとの類似点とわずかな相違点に注目していたとき、私の友人が(それに、ロバと議会も)忘れていたのは、「決断しないことによる影響」を考えに入れることだ。ロバは飢えることを考えていなかった。議会はハイウェー法について議論しているあいだに失われる人命のことを考えていなかった。私の友人は撮れずに終わったすばらしい写真のことを考えていなかった。家電量販店で費やした時間は言うまでもない。さらに重要なのは、三者とも、どちらかに決めることで生じるちがいがほんのわずかだという点を考えに入れていなかったことだ。
p.208
※ 強調は引用者による。


「決断しないことによる影響」を考えたとき、バブル崩壊後の日銀の引き締めに始まるデフレ不況についての「失われた○○年」という表現は、まさに言い得て妙というしかありません。金融引き締め以外何もしない日銀と、家計貯蓄を切り崩すために財投を通じた財政出動を繰り返した政府の対比という構図でとらえると、1990年代後半における日本のマクロ政策の無策ぶりによって失われたものが、より一層際だちます。

そしてアリエリーは、本書のタイトルでもある絶望的な言葉で8章を締めくくります。

 私の友人はどちらのカメラを選んでも同じように満足したことだろう。ロバはどちらの干し草を食べてもよかったはずだ。議会の議員たちは、法案のわずかなちがいには目をつぶって、自分たちの成果を勝ちほこって地元に帰れたはずだ。つまり、三者とも、これを簡単な決断だと考えればよかったのだ。
(略)
 たぶんあなたは、この本に書かれたわたしの知恵を買うために、なんらかのお金(読む時間と、そのあいだにできたかもしれないほかの活動については言うまでもなく)を投資してくれたのだろう。だから、わたしも結局はあのロバのように、ふたつの非常に似かよった干し草の山のちがいを見きわめようとしたことなどと、あっさり認めるべきではないかもしれない。だがそれが事実だ。
 決断をくだす過程のむずかしさはもともと知っているはずなのに、わたしもほかのみんなと同じように予想どおりに不合理な行動をしてしまったわけだ。
pp.209-.210
※ 強調は引用者による。


拙ブログでもさんざんマクロ経済政策をやれと書いてきてはいますが、所詮不合理なマクロ経済政策しか実行されないということであれば、思わず「反マクロ経済」とか言ってしまいそうになります。

はっ、そうか。もしかして「反貧困」の方々こそがマクロ経済政策に対する期待が大きすぎて、現状に絶望した反動で「反市場主義」とかおっしゃっているのかも・・・

んなこたぁない。




*1 項羽が反秦軍として鉅鹿包囲軍を壊滅させたときにこの戦法を使ったのが先で、韓信はその項羽を井陘の戦いで同様の戦法で破り、これが「背水の陣」の語源となったとのことでした。大変失礼しました。
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コメント
この記事へのコメント
ご指摘いただいて「項羽がパクった」という記述を訂正いたしました。大変申し訳ありませんでした。
2009/02/28(土) 18:15:13 | URL | マシナリ #-[ 編集]
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