2009年02月10日 (火) | Edit |
たいした話ではありませんが、コームインは使い物にならないヤツが多くて、アルバイトでももっとマシな仕事ができるんじゃないか、だったらコームインなんか全員クビにしてしまえ!という話がよくあります。昨今の経済情勢で雇用不安が拡大する中では、こういう主張がまたぞろ声高に叫ばれてしまうわけですが*1、そんな言われ方をしてしまうコームインの能力開発についてのカラクリをメモしておきます。なお、この議論は樋口『人事経済学』(生産性出版、2001)の第5章、第6章を基に勝手に解釈させていただいているので、関心のある方はそちらをご確認ください。
人事経済学人事経済学
(2001/07)
樋口 美雄

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一般企業で考えた場合、労働者の能力開発は投資の一種(人的投資)と考えられますが、労働者の能力といっても、ほかの企業でも通用する一般的な能力と、その企業でしか通用しない企業特殊的能力の二つがあります。まず一般的能力については、その企業に限らずどこでも通用するわけですから、労働者個人にとっては自分の生産性を向上させて給料を上げたり、あわよくば転職して待遇を改善させる可能性があるので、労働者個人には自らその能力開発をするインセンティブがあります。しかし、企業にとっては、その労働者が一般的能力を高めてしまうと、待遇のよいほかの企業に移ってしまうリスクがあるので、社内教育をしてまでその能力開発をするインセンティブはありません。

一方、企業特殊的能力については、労働者にとってみればその企業がつぶれてしまったりクビになってしまった場合はほとんど価値がなくなってしまうので、労働者個人が自ら能力開発する理由はありません。一方、企業にとっては、その能力がないとその企業が回らないわけですから、社内教育なりOJTによってその能力を開発する必要があり、さらに労働者にインセンティブを与えるため、その能力によって得られた収益を労働者に分配しなければなりません。したがって、企業特殊的能力は共同投資、共同回収の性格を持ちます。

というわけで、一般の企業においては、前者については労働者のインセンティブに従って就業前の学校教育や個人の自己啓発によって、後者については企業と労働者双方のインセンティブに従って社内教育によって能力開発されるというのが一般的な形態となるわけですが、これがコームインの場合は当てはまらないというのが問題なわけです。

まず、前者の一般的能力についていえば、入る前の学歴や成績は、特にキャリア官僚では一般の企業より高いですし、チホーコームインもそれなりの学歴だったりしますが、採用後は厳格な就職年次別の雇用管理のために、能力開発そのものに対するインセンティブが弱くなってしまいます。さらに、身分保障があることによって、少なくとも解雇に備えて一般的能力を高めようというインセンティブが削がれてしまいます*2

また、後者の企業特殊的能力についても、一般の企業であればその効果は業績に響くものの、行政体の場合はそれが直ちに税収などに反映されるわけではないため、人事当局がその能力開発の経費を負担するインセンティブはありません。さすがに仕事が回らなくなると困るので、その限りでの最低限のOJTは行われるでしょうけど。

ただし、企業特殊的能力について注意しなければならないのは、一般企業であれば倒産や解雇という将来の不確実性のために労働者の側のインセンティブが弱められるのに対し、身分保障のある行政体の場合はそれがありません。したがって、企業特殊的能力に対する労働者のインセンティブは一般企業に比べて行政体のほうが大きくなるため、役所に企業特殊的な能力に長けるコームインが量産されてしまうということになります。これを役所の外の人がご覧になれば「お役所仕事」と揶揄されてしまうわけですが。

確かにそう批判したくなる気持ちも分かりますし、俺自身もほかの役所に行けばそう思うこともあるんですが、忘れてはいけないのは、企業特殊的能力がなければその企業なり行政体はうまく回らないということです。逆に言えば、うまく回らせるための能力が企業特殊的能力なわけですから、それを全否定することは生産的な議論ではありません。企業特殊的能力を認めた上で、それが悪影響を及ぼしていないかをチェックすることが重要であって、さらにはその在り方に問題がある場合には、インセンティブを与える人事制度そのものから見直さなければ改善されないということは、上記の議論をご覧いただければ明らかでしょう。

かといって、「内閣人事局」なるものがその思惑どおりに人事制度を改善できるかというのは甚だ疑問であります。もちろん、企業特殊的能力を必要とする役所の仕事がなんの能力開発もない労働者で回るはずがないことは言うまでもありませんのであしからず。




*1 リンク先は古いブックマークを整理してて発見したブツです。管理人さんには申し訳ありませんが、ブックマークした当時からまともな議論がなくてほとんど見てませんでした。今見ても相変わらず香ばしい方々しかいらっしゃらないようです。
*2 これ自体を批判される方もいらっしゃいますが、高い水準での一般的能力と企業特殊的能力が求められる場合は、お互いがトレードオフの関係にありますので、どちらかに重点を置かざるを得ません。この後で議論するように、行政体において企業特殊的能力が優先されるのは自然な選択でしょう。
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