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2009年02月01日 (日) | Edit |
前回エントリの経費負担の割り当てというのがどれだけタフな議論を必要とするか、今話題の消費税率引き上げをネタにして書いてみます。といってもあくまで教科書レベルの話ですから、実際にはもっと複雑な要因を考えなければならないということに留意していただければ。

先週定額給付金を含む第二次補正予算案が成立したとのことで、次はその財源となる「埋蔵金」法案の審議に入るんだそうですが、これにも野党が反対するので給付金の給付が実現するのは早くて3月14日以降なんだそうです。

で、なかなか実現されない定額給付金以上に強く反発を食らっているのが、2011年以降の消費税率引き上げなわけでして、定額給付金には必ずしも反対ではない「リフレ派」の方々もこれには断固反対のようです。

いつも書いていることですが、個人的にはリフレ政策には賛同するとしても、「リフレ派」と呼ばれる方々はミクロの地方財政(税金徴収や給付の仕組み)といった制度面を軽視しているようにみえてしまいますし、税率の引き上げについても「どマクロ」の話しか出てこないので、やはりミクロの現場にいる者としては与しがたいといわざるを得ません。

直接的に「リフレ派」の主張というわけではありませんが、例えば、伝統的なIS-LMといったマクロ経済学のモデルを使った議論では、

 つまり、増税を財源に政府支出を拡大すると、IS曲線のシフトは政府支出の増加分X円に等しくなります。これを「均衡予算乗数(ΔY/ΔG+ΔY/ΔT)は1である」といいます。IS曲線のシフトが小さいため、名目利子率の上昇によるクラウディング・アウト効果を考慮すると、政府支出拡大の効果はその支出増大額を下回ってしまいます。
(略)
 より多くの資産を持つ人はより多く消費すると考えられます。すると、公債保有の増加による消費の拡大によって、政府支出によって右にシフトしたIS曲線(引用注:図は省略)はさらに右にシフトするでしょう(引用注:図は省略)。これを公債という資産保有の増加が消費を増やすという意味で「公債の消費に対する資産効果」(または「富効果」)といいます。  その一方で、より多くの資産を持った人たちは、より多くの貨幣を保有しようとするでしょう。これを、貨幣需要が公債という資産保有の増加に伴って増えるという意味で、公債の貨幣需要に対する資産効果といいます。この実質GDPや名目利子率の変化によらない(すなわち、資産保有の増加による)開閉需要の増大は、LM曲線を左にシフトさせます(引用注:図は省略)。
pp.268-269

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というようなことになるわですが、ミクロ経済学で税率を引き上げた場合に問題となるのは代替効果によってもたらされる死加重(deadweight loss)の大きさであって、死加重の大きい、すなわち非効率な課税方法(代替を促す課税標準の偏りや累進的な税率)はマクロのクラウディング・アウト効果とともに財政支出乗数や減税乗数を歪めてしまうことになります。

ただし、これを逆に考えると、効率的な課税方法とは、課税標準をできるだけ拡大して累進的ではない税率を設定することによって、死加重を軽減するものということができます。これがいわゆるラムゼー税という考え方ですが、このラムゼー税は必需品への課税強化が効率的であるとして、逆進性を正当化するという難点があるため、スティグリッツもこう指摘します。

 ラムゼーの分析には、非常に困惑させる特徴が一つある。政府が一括税ではなくてゆがみをもたらす税を用いることの主たる理由は、政府にはそうしなければ達成できない再分配面の目的があるということである。しかしながら、初期の最適課税の議論では、すべての人は同じであると仮定していた(その場合には自然な仮定として、政府が均一の一括税を採用するということになる)。
(略)
 所得税がうまく設計されているならば、差別的物品税を追加することは、たとえ所得再分配能力を強めるとしても、その力はほとんどなさそうである。課税目的は所得再分配か、または担税力の最も大きい人に租税負担を課すことであり、また結局のところ、この目的を達成する最善の方法は、われわれが本当に関心を持っているもの、すなわち所得への課税に焦点を当てることであることが明らかになる。
pp.723-725

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つまり、税率引き上げは経済成長に増税乗数として影響を与えるとともに、どの税目にするかによって所得再分配にも大きな影響を与えるのであって、特に後者については、その課税方法が重要だということになります。確かに全体のパイを大きくすることは最優先ではありますが、ミクロの段階でどのような人からどのような人にどのくらい再分配するかというのもそれと同じくらいに重要ではないかと、下っ端のチホーコームインとしては思わざるを得ないわけです。

具体的には、誰にどのような税を課すのか、その税が経済主体にとってどのようなインセンティブを与えるかという点から議論する必要があります。スティグリッツというと世銀批判とかインフレターゲット政策などマクロ経済政策のほうが注目されがちですが、公共経済学の教科書を書くくらいですからそういったミクロ経済政策もきちんと取り上げるべきではないかと。

そのスティグリッツがいう節税のための2大原理が、

租税の延期(貨幣の時間的価値を利用すること)
租税裁定(租税構造や税率の相違を利用すること)
スティグリッツ『同上』p.877


ということなわけですから、節税行動を通じた代替効果が発生することによって死加重が拡大すれば、それが再分配に影響を及ぼすことになります。その節税行動を防ぐという観点からいうと、長期的には生涯所得税と生涯消費税は等価である(スティグリッツ『同上』p.651)ことから、クロヨンと呼ばれる所得の捕捉問題が深刻な所得税より、付加価値税(消費税を含む)の引き上げは検討に値すると思います。

したがって、政府と日銀には全体のパイを拡大するためのマクロ経済政策をどんどん進めていただきながら、こういった税制や社会保障といった再分配政策も財務省*1や厚労省にはきちんと議論していただきたいと思います。現場ではそれに従って、できるだけ多くの方が安心して暮らせるよう実務をこなすだけです。

その意味で、再分配面を正面から議論しようとする麻生首相の消費税引き上げ策は、その心意気はよしとしましょう。ただし、上記の岩田・飯田本にもあるように、問題はどの程度の支出と増税のバランスとするかであって、3年後に消費税率を5%引き上げて10%にするというなら、たった2兆円の定額給付金では全然割に合いませんな。

一方で、租税回避が限界税率によって発生するという点に着目すれば、支出に対する租税構造を極限にまで単純化したいわゆるフラット・タックス*2を課せば、課税最低限を設けることによって限界税率を一定にしつつ平均税率を累進的にすることは可能だったりします。

言葉だけだとイメージしにくいかもしれませんが、縦軸に税額、横軸に所得額をとった二次元の座標上で、横軸切片(課税最低限)を通る右肩上がりの直線(=限界税率一定)を引けば、第一象限では課税が、第四象限では負の所得税が表現され、第一象限の直線上の点に対する原点からの角度(=平均税率)は所得が上がるにつれて上がっていくことになります*3。支出に対するフラット・タックスでは、この所得を支出に置き換えることによって、代替効果による租税回避や租税裁定がもたらす死加重を押さえようというわけです。

野党の方々も抜本的な税制改革とかおっしゃるんだったら、このくらいのことは議論してもらわないと「政権交代で国民第一」なんて眉唾だろうとしか思えないんですよねえ。




*1 こういったミクロの租税構造が税制改革の基本となるため、税制に関しては財務省のキャリアではなく国税庁のノンキャリが法案作成をしているはず。
*2 ただし、上記スティグリッツ本では、「それは誰が租税負担をするかに大きな変化をもたらし、富裕層は著しく負担が軽減されるのに対して、中間所得層は負担が増大することになる(p.712)」として、定率税(フラット・タックス)は政治的な思惑で論じられていると切り捨ててますが。
*3 岩田・飯田本のp.368にも、フリードマンの負の所得税の説明として同様の図がありますが、平均税率より限界税率の方が低く設定されており、45度線による分析となっており、主に労働のインセンティブの説明となっています。
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