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2008年12月17日 (水) | Edit |
HALTANさん経由で、大学の法学部のセンセイに基本的なことを指摘するのは心苦しいのですけれども、

この秋以降の急速な景気の悪化によって、雇用情勢も厳しくなっている。特に気になるのは、大学生に対する就職内定の取り消しが相次いでいることである。内定は正式の雇用契約ではないので、取り消しても企業の側には罰則はない。景気の停滞が続く可能性が高まれば、企業の側は遠慮会釈もなしに内定を取り消せるという感覚なのだろう。
雇用の危機(2008.12.02 Tuesday)」(YamaguchiJiro.com
※強調は引用者による。


ええと、雇用契約ってのは民法に規定のある典型契約であって、あくまで私的自治において締結されるものでして、その特別法である労働基準法は契約内容たる労働条件についての最低基準を定めて、それに違反した使用者に対する罰則を設けています。つまり、雇用契約の成立に関しては強行法規による規制は及ばないので、雇用契約が実現されない場合は契約不履行による損害賠償が認められるのみです。今年3月の労働契約法の施行によってこの点はさらに明確に法定されることになりました。

ただし、内定については大日本印刷事件(昭和54年 最高裁第二小法廷判決)において「解約権留保付労働契約」とする判断が示されております。この判例では、内定とは始期の到来するまでの間は使用者側に解約権が留保されている労働契約であるとされ、現在ではこれが通説となっております。つまり、内定は正式な労働契約であって、その取り消しは解雇と同様に「合理的な理由」がなければ解約権の濫用とされ、民法709条の不法行為に基づく民事上の賠償責任が生じる可能性があります。

というわけで、労働者の味方であるはずの左派陣営から使用者の賠償責任を免責する(*1)ような見解が示されるとは、世の中も変わったものです。もちろん、大学の法学部のセンセイが断言されているわけですから、俺の記憶違いとか解釈の間違いがあれば上記の説明を訂正するにやぶさかではありません。

でもまあ、このセンセイが支持されている民主党からして、

 民主党は五日、「内定取り消し規制法案」など緊急雇用対策の原案をまとめた。来週の「次の内閣」で正式決定し、今国会に提出する。政府・与党に先行して具体策を講じる姿勢を見せることで、政権担当能力をアピールする。野党各党に共同提出を呼び掛ける。

 法案は、企業が学生らに内定を通知した時点で労働契約が成立することを明確化するのが目的で(1)内定取り消しは社会通念上相当と認められる場合以外は無効(2)取り消し理由は書面で明示(3)内定者が取り消し理由の証明書を請求した場合は、七日以内に交付-と規定。悪質なケースは企業名の公表を政府に求める。

東京新聞「内定取り消しを規制 雇用対策 民主、今国会に法案提出(2008年12月6日 朝刊)」


とか言っているわけで、「悪質なケース」ってのがたとえば「合理的な理由を欠く解約権の濫用」を想定しているのかもしれないけど、賠償責任って当事者の挙証に基づいて裁判所が判断するものであって、実務上誰がどうやって判断するんでしょうかねえ。




*1 厳密に言えば、強行法規による規制がない以上「罰則がない」というのは間違いではありませんが、せめて賠償責任くらいは言及していただきたいところ。
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コメント
この記事へのコメント
HALTANさんのところで言及いただきました。

> 要するに既存の法規や判例の範囲内でも即座に戦えるものを、わざわざ訳の分からない新法を作って遠回りする必要はない、ということなのでしょうか? それで「具体策を講じる」「政権担当能力」とは・・・民主党政権成立の暁には人気取り優先で実務的な詰めや実効性の検証を怠った政策の連発で国民生活がズタズタになりそうですねえ・・・orz

前段については、損害賠償を確定するために裁判手続きを取らなければならないので「即座に」とはいきませんが、新たな立法がなくても保護されるという点では、おっしゃるとおりです。

後段については、使用者側にも私的自治の原則に基づいて採用の自由が認められているので、内定取り消しを食らった学生の利益との権衡についてはプロの法曹によって慎重に判断されるわけで、それを行政庁が判断できるはずもないんですよね。
小沢氏なんかは「官僚なんかいなくても政治主導でムダを排除!」とか言いますけど、こういう面倒くさいところは平気で役人にブン投げるというお気楽な方ですし、民主党政権になったときは・・・想像したくないですねえ。
2008/12/18(木) 22:33:15 | URL | マシナリ #-[ 編集]
HALTANさんに再び言及いただきました。

> こういう「『行政』学」の先生や民主党の放言を労働法の先生方や弁護士さんたちはどう思っておられるのですかねえ? みなさん御自分の仕事で忙しくてそんなのいちいち突っ込んでられないよ(そもそもそういうコラムが書かれたり法案が出されたりしていることも知らない)、ということなんでしょうか・・・。ただ左派の労働法の先生や労働関係の弁護士さんの場合は無理筋を承知で放置orわざと乗っかっておられるようにも思えて・・・。

好意的に解釈すれば、それぞれの主張にはやはり立場というものがあって、たとえば日本労働弁護団のような労働者の利益代弁者(代表者性の問題はありますが)としての法曹団もあるわけで、そのような立場の方からすればこの機に乗じない手はないのでしょう。

さらにいえば、行政の世界は多かれ少なかれそうですが、特に労働法の世界は理論と実務(の帰結)との乖離が大きくなりがちな領域で、理論的な反論が事前的に成り立ちにくいという事情もあります。「派遣切り」の批判の矛先が雇用契約の当事者である派遣元ではなく派遣先に向かってしまうのも、ある意味でその現れといえます。

労働契約が文字通り私的契約であるか、集団的労使関係を誰が規定するかという難問は避けては通れないんですが、そこは今回も華麗にスルーされそうな気配ですね。
2008/12/21(日) 02:02:08 | URL | マシナリ #-[ 編集]
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