2008年12月17日 (水) | Edit |
これすごい。

まさに90年代以来の市場原理主義のイデオローグの中心的存在であったのが中谷巌氏であってみれば、その当人が、

>新自由主義に基づく単純な「構造改革」路線で我々が幸せになれるなどというのは妄想に過ぎないということを痛感させられる。

>新自由主義の思想は、私たちが暮らす社会を個人単位に細分化し、その「アトム」化された一人一人の自由を最大限尊重するという思想だから、安心・安全、信頼、平等、連帯などの共同体価値には何の重きもおかない。つまりは人間同士の社会的つながりなど、利益追求という大義の前には解体されてもしょうがないという「危険思想」なのである。

とまで断言するに至っているというのは、知識社会学的観点からも大変興味深いものがあるといえましょう。

中谷巌氏の転向と回心(2008年12月15日 (月))」(EU労働法政策雑記帳


後出しジャンケンみたいでなんだけど、俺自身は定番と言われる『中谷マクロ』があまり好きではなくて主に『マンキューマクロ』にお世話になったので、今になって考えてみると中谷氏に何か違和感を感じていたんだろうと思う。いわれてみれば確かに「転向」組のニオイは若干していたような気もするけど、そういう出自だったとは・・・

まあ、60~70年代に学生時代を過ごした人の大半は多かれ少なかれマルクス経済学の洗礼を受けているんだろうし、特に驚くほどのことでもないかもしれないが、組合活動について論文を書いていたというのはかなり意外。そういえば、実務家から学者に転身して、それほど顕著な学術的な業績があるわけでもなく、政府の重要な諮問機関で積極的に政策提言を行っていたというのは、ご自身も認めているように後の竹中平蔵氏のさきがけだったわけですね。二人とも一橋大学経済学部卒だし。

となると、両者の決定的な差異というのが労働組合に対する思い入れなのかもしれません。

ただ、その前に、中谷巌氏個人のやや特殊な思想環境に言及しておく必要があるように思われます。彼は、1965年に一橋大学経済学部を卒業して、日産自動車に入社し、4年勤めたあと、ハーバード大学に留学しています。この時期の日産は、塩路一郎氏が絶大な権勢を誇っていた時代です。塩路天皇とまでいわれたその権勢は、ある種の企業別組合との労使協調体制に対する違和感を若き中谷氏に刻印した可能性があるように思われます。

「仕事場における民主主義」という言葉に彼が塩路体制下の日産への批判を込めていたかどうかはもちろん知るよしもありませんが、どこかの時点で、そういうミクロに陣地を構築する方向に向かう社会民主主義的な志向こそが結局塩路体制を作り上げたのではないか、いっそそんなものはことごとく投げ捨て、きれいさっぱり市場原理で行く方がいいのじゃないか、という「回心」が訪れたとしても不思議ではないように思います。

同上



hamachan先生の推測にはある程度蓋然性があると思われるので、仮にこのような中谷氏の心情を前提にするなら、当時の労働組合活動に対する違和感があったからこそ新自由主義への転向につながったといえそうです。そしてそれはhamachan先生が指摘されるように、中谷氏の同世代には共通体験として共有される心情だったんだろうと。一周回って元に戻るというのもかなり共有されていそうだし。

それに対して、8年後輩で日本開発銀行(当時)に入行した竹中氏は労働組合活動そのものをどこかで突き放して考えていたのかもしれません。そんな竹中氏からすれば、先輩に当たる中谷氏が新自由主義的な主張するのを見ても特に違和感を覚えるでもなく、「それ見たことか」くらいに思ってむしろご自身の新自由主義への傾倒を強めたというところでしょうか。さらにこれも、竹中氏以降の世代にとっては共通認識となっていたように思われます。

中谷氏と竹中氏だけを取り上げてみればミクロな事例ではありますが、お二方の心情が広く一般に共有されていたからこそのコーゾーカイカクに対する熱狂的な支持と考えると、彼らだけを責めるのは酷でしょう。

世代的にはお二人のちょうど中間に位置して中谷氏と同じく日産の社員から学者に転身した神野直彦氏を含めて、これら3人のその後の思想的変遷を眺めてみると、見事なほどに世代や属する組織の影響を受けているように見えるわけで、なんというか、結局経済学なんてその人が属する世代の中での「空気」に逆らうことはできないのかもしれません。

まあ俺自身はただの実務家ですが、自戒の意味も込めて一般の方の経済学者に対する不信感がよくわかるような気もしますねえ。
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