で、その裏では「情報7daysニュースキャスター」とかで相変わらずビートたけしが霞ヶ関・官僚叩きに勤しんでいるわけで、今日は石破茂農水相が出演して「食料自給率が向上すればすべてが良くなる」とかいってるんです。
もうね、ワケがわかりません。
マスコミがその無責任な報道なんかを批判されると、「社会の木鐸」とか「国民が政府を監視する必要がある」とかたいそうなことをいって、その批判自体を批判し返す割に、なんで「食料自給率が向上すればすべてが良くなる」とかいう大ボラを批判するどころか賞賛してしまえるんですか?
経産省みたいに、自らの産業政策が存在意義を失ったことを取り繕うために日本を解体したがるのもはた迷惑ですが、農水省の場合は、比較優位を失った「産業としての農業」を安楽死させつつ、「公共財としての農業」をいかに維持するかという自らの使命を否定しようとするからタチが悪い。農業と一口に言っても、保水機能やら景観美化やらの環境保全機能と、そこから得られる果実を市場において取引するための生産機能とがあって、それらを一緒くたに論じることはできません。身も蓋もなくいってしまえば、フリーライドによって過小供給に陥る「公共財としての農業」を、比較優位を失った「産業としての農業」で維持することはできないわけです。
結局、「公共財としての農業」を維持するために外部性を内部化すると割り切ることができれば、補助金を与えたり関税を高くしたりして「公共財としての農業」を保護するしかないことは明白です。である以上、「産業としての農業」が比較優位を失っているにもかかわらず、そこに「産業としての農業」によるビジネスモデルという幻想を持ち込むのは明らかにミスリーディングでしょう。
もちろん、高級食材への特化(*1)や大規模経営によって農業という産業内での比較優位を作り出すことは可能でしょうが、それは農業という産業自体が比較優位を持つこととはまったく別の話です。「情報7daysニュースキャスター」でも大規模経営で儲かってウハウハのビジネスモデルが紹介されてましたけど、そんな大々的に紹介したらフリーランチはなくなってしまうんじゃないかとこっちがハラハラします。もとより、大規模経営によって生産性を向上させるということは、利益を増やす一方で農業従事者を減らして一人あたりの利益を増加させることにほかなりませんから、農村地帯の過疎はより一層促進されてしまう(*2)んですが、それも食料自給率向上でオールオッケーですかそうですか。
食糧自給率については飯田先生のご指摘がコンパクトにまとまっているので、要点のみ引用させていただきます。詳細は本文をご確認いただければ(というより、悪いこといわないのでこの本は読んでおくべきですね)。
外食で1000円の天ぷらそばを食べたとします。このとき、私たちが購入したのは何でしょう。奇妙な質問かもしれませんが、落ち着いて考えてみてください。そば屋さんに行って、そば粉と冷凍えびと揚げ油を渡されるということはありません−当然ですね。私たちが購入したのは原材料ではなく、完成品としての「天ぷらそば」です。そば屋で天ぷらそばを食べるということは、「店の人が原材料を調理してくれたものを、清潔な店内で食べ、店の人が後片付けをしてくれる」という一連の行為を購入することを意味します。
(略)
天ぷらそばを使って輸入品の多さを説明する授業は、今もなお小学校などでは定番のひとつだそうです。しかし、そのような授業によって、日本の経済活動に占める輸入の割合が非常に高いかのような誤解が生まれているならば、これは問題です。
pp.143-145
ダメな議論―論理思考で見抜く (ちくま新書)
(2006/11)
飯田 泰之
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そういえば、食料自給率が向上しないのは農水省のせいだと批判していた旧自治官僚氏が現首相の統括秘書官でしたねえ。
(12月1日追記)
すなふきんさんのエントリにTBされたanhedoniaさんのエントリでの、
でも、日本の農地の広さと、日本人が食に投じるお金には上限があって、今後も減ることはあっても増えることはないのだから、補助金を出すのでなければ所得が増えることはない。
「■[農][地方]農業は再生しない(2008-11-30 曇り)」(左思右想)
というご指摘は、カロリーベースの食料自給率の矛盾を突くのに有効ですね。
上記の「情報7daysニュースキャスター」でも石破農水相が、
「ご飯一膳食べるだけで食糧自給率が8%上がるんです。ダイエットにもいいし、朝ご飯を食べると成績が良くなる(*3)から、ご飯を食べましょう!」
なんてことを何度も連呼してましたが、それって結局、カロリーベースの食糧自給率が下がったといっても、日本人が日本産の食材よりも外国産の食材を好むようになったことを示しているというだけのことですね。いくら食糧安保のために米を作れって言ったって、日本人がそれを食べないから米も余るしカロリーベースの食糧自給率も低くなっているんでしょ。
現代の日本人の好みに合う食材をすべて国内で賄うなんてことは予算制約上も生産可能フロンティア上も不可能なわけで、だからこそ外国産の食材が輸入されていて、しかもそれはあくまでエンゲル係数の範囲内での代替でしかない。そのエンゲル係数内に占める国産食材のシェアを拡大できたところでそもそも予算制約を超えることはできないし、そういう現状で農業所得が低くなっている農家の一人あたり所得を増やすということが、補助金なしで可能かどうか冷静に考えてみるべきでしょう。
さらに、そうやって先進国である日本との取引によって貴重な外貨を稼いでいる途上国のことを考えれば、「地産地消」なんて鎖国政策を「リベラル」な方々が支持する理由がわかりませんね。
*1 この比較優位は、高所得者の選好を利用していることになるので、総需要の増加による経済成長が前提であることはいうまでもないですね。
*2 個人的には過疎化が進むのはやむをえないと思いますが、自給率向上マンセーの方々は一方では地方分権教だったりするので、理解できません。
*3 これもよく出されるデータですが、朝ご飯をしっかり食べている子供は、規則正しい生活ができる家庭に暮らしている可能性が高く、そのような家庭では教育への投資も大きいだろうと予想されるので、「朝ご飯を食べる」というパラメータは成績と家庭環境の相関を示す代理変数にはなり得ても、それ自体が成績にどれだけ影響しているかはかなり微妙な問題でしょう。


