2008年10月22日 (水) | Edit |
前回前々回と理論的な面から「不正経理」騒動について考えてみましたので、今回は実務的な面から考えてみます。

インフラ整備を主な業務とする国交省、農水省や環境省といったいわゆる「事業官庁」が地方自治体へ補助金を交付する場合、地方自治体がその事業を実施するのに必要な非常勤・臨時職員を雇ったり、事務用品を買ったりという日常の業務に要する経費を補助対象とすることがよくあります。今回の会計検査院の実地検査が補助金を中心に進められたのは、そういった補助金にファンジビリティが生じているのではないかという想定によるものと思われます。

このような日常の業務に要する経費が補助対象となるのは、地方自治法にこういう規程があるから。

(経費の支弁等)
第二百三十二条  普通地方公共団体は、当該普通地方公共団体の事務を処理するために必要な経費その他法律又はこれに基づく政令により当該普通地方公共団体の負担に属する経費を支弁するものとする。
2  法律又はこれに基づく政令により普通地方公共団体に対し事務の処理を義務付ける場合においては、国は、そのために要する経費の財源につき必要な措置を講じなければならない
※ 強調は引用者による。

事業官庁が地方自治体の地方交付税交付金で算定されない事業に対して補助する場合は、それに必要な事務費まで財源を措置しなければならなくなるというわけです。

たとえば、環境省の補助事業だとこういう規定があります(これを一読して理解できる方はかなりの補助金通ではありますが、まあファンジビリティを一切認めない「適正化法」の下では、このような詳細な規定を置く必要があるんですよね)。

 「事務費」とは、補助事業者が事業実施に伴う事務処理に直接必要とする旅費庁費及び工事現場事務所又は出先機関において必要とする旅費庁費(間接補助事業において、都道府県が市町村を指導監督するために必要な旅費、庁費を含む。)、並びに、これらに対応する消費税相当額の合計額をいい、庁費とは需用費(消耗品費、燃料費、印刷製本費、光熱水費、修繕費、食料費)、役務費(通信運搬費、手数料)、賃金、共済費、委託料、使用料及賃借料、備品購入費等をいう。

自然公園等整備費国庫補助金取扱要領」(環境省)別表
※ 強調は引用者による。

国と地方自治体で用語が違うところもあるんですが、ここで太字下線にした「事務費」というのが大項目、「旅費」と「庁費」が中項目となります。

この「庁費」がさらに需用費、役務費、賃金、共済費、委託料、使用料及賃借料、備品購入費等の細項目に分類され、需用費や役務費はさらに諸々の細目に分類されるわけですが、ここで「なぜ庁費に賃金が入っているんだろう?」と思われた方はかなりの補助金t(ry。実は、「事務費」と同じ大項目の「人件費」として計上されるのは、特別職(首長や議員)と一般職(いわゆる公務員)の職員のうち期限の定めのない任用となっている職員分だけです。非常勤職員(の一部)とか期限付き臨時職員とか呼ばれる職員の賃金は事務費(物件費)扱いとなるわけです。

という予算構成の中で、「小さな政府」とかいうコーゾーカイカクのために公務員人件費を削減した場合、そのために削減されたマンパワーを確保するためには、人件費から事務費へ振り替えて、減った正職員を非常勤職員で補うしかありません。という状況では、事業費に人件費が含まれるような補助事業を持っているのが事業官庁なわけで、地方政府としてはこれを活用しないわけにはいきません。つまり、地方政府は、なんとかその事業の採択を取り付けて補助金を確保し、そこから補助金のない(貧弱な)事業を抱える部署へ流用する「はり付け」という行動を取るように誘因づけられることになります。

 検査院によると、旅費やアルバイト賃金など、道府県で負担すべき予算を国の補助金で充当する「はり付け」という手口が多くみつかった。例えば、国の補助金が出ている道路建設事業で、完工式に幹部らが出向く旅費は県の予算で支払うべきだが、補助金を使っていたという。

 年度末に事務用品などを業者に大量発注したように装い、業者に公金をプールしておく「預け」が年度内の予算使い切りを動機としているなら、「はり付け」は国庫補助金をできるだけ使おうとする意図が見え隠れする。「道府県の予算を残し、補助金を使い切ろうとしている」(検査院幹部)という。

asahi.com「国の補助、使わにゃ損 12道府県「はり付け」横行(1/2ページ)」(2008年10月22日3時2分)
※ 強調は引用者による。


また、今回各地方自治体で問題とされている「不正経理」のうち、「預け」と呼ばれる手法は、

「『預け』は私が生まれる前からあった」。ある中年の業者は語った。国の補助金の一部を県が不正に経理処理していた問題で、県と取引のある複数の業者が21日、朝日新聞の取材に対し、県が支払代金を使い切ったように偽装して業者にカネをプールさせる「預け」などの存在を認めた。不正処理は長期間にわたっていた可能性が高い。
(略)
 カネを「預かる」際は、まず名目上の納品書を作成し、県に渡す。実際に納める商品が本来の納品書と異なる「差し替え」発注を受けた場合は、発注品に合わせた納品書を改めて作り、県に渡していた。

 県に2種類の納品書が存在することになるが、県農林水産企画室の担当者は「当初の名目で作ってもらった納品書しか(存在を)確認できない。もう一枚の実際に納められた品の納品書は、担当者の手元には渡っているはずだが、どうなっているのか分からない」という。

 業者によると、預けや差し替えで発注を受ける物品はコピー用紙などの消耗品がほとんどだという。

asahi.com「県の不正経理 預け「ずっと昔から」(2008年10月22日)
※ 強調は引用者による。

というもの。消耗品で発注するのは、単価が安いことと証拠が残らないことが主な理由でしょう。「預け」の場合は、補助金を名目上使い切ることによって、事業費が余って翌年度の補助金が削減されるというリスクを減らすとともに、他の補助金への「逆ファンジビリティ」をヘッジするという動機があったものと考えられます。

俺自身は古い時代のことは知らないんだけど、これらの行為は結構前からとられていたらしいです。その当時はまさに「補助金の使い切り」が求められていて、使い切れない分を「預け」という形でプールしたり、他部署へ「はり付け」たりしていたんだろうけど、デフレ不況のさなかのコーゾーカイカクとやらによる2004年度予算の「交付税ショック」は、別の意味で「はり付け」や「預け」の重要性を高めたんではないかと思います。

この「交付税ショック」については、今回「不正経理」が指摘された岩手県でもこんな資料をつくってますな。

(左下)
しかし、平成16年度予算編成において・・・
交付税ショック!地方交付税の大幅削減(⑮→⑯決算:△9.9%)など
【平成16年2月推計:17~18年度(2年間)】財源不足が443~~681億円まで拡大
(右上)
交付税ショックを乗り越え、平成18年度にプライマリーバランスの均衡(黒字化)を達成するとともに、40の政策の取組みを強力に下支え!
安定した行財政基盤の構築
◎財政構造
地方交付税が大幅に削減されたことなどから、目標を上回る歳出削減などの取組みを推進
歳出削減については、総人件費の一層の抑制などに取り組んだ結果、目標の613億円を1,697億円上回る2,310億円を削減しました。

岩手県行財政構造改革プログラムの取組状況【4年間の総括】(注:pdfファイルです)
※ 強調は引用者による。

えーと、一応岩手県では目標を上回る歳出削減を達成しているわけで、会計検査院が指摘した「不正経理」が1億5,000万円だったのに対して、削減額は2,310億円と桁違いです。だから許されるということではなくて、「不正経理のために無駄遣いが増えて財政が悪化した」のではなく、「過度の歳出削減がファンジビリティを強化した」という因果関係があったと理解したほうが素直でしょう。

ところが、この機に乗じて悪のりするのが地方分権教の皆さんなわけで、

 地方分権改革推進委員会(委員長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)は二十一日の会合で、地方自治体の不正経理を防ぐ仕組みを新たに提言し、政府に提出する勧告に盛り込む方針を決めた。会計検査院の調査で、全国十二の道府県の不正経理が発覚したことを受けたもの。十一月以降、会計検査院を分権委に呼び、不正経理の仕組みを聞き取り調査する。丹羽委員長は会合で「不正経理の問題を解決するには、議会の監視制度を整えるなど分権の観点からも対応が必要」と指摘猪瀬直樹委員は「国からの補助金を翌年度に繰り越せないといったことも、不正経理の根本にある」との認識を示した

日経新聞「自治体不正経理 分権委が防止策 政府に提言へ(2008年10月22日)」
※ 強調は引用者による。

って、だから税源移譲なんかしたって「三倍自治」をさらにゆがめることにしかならないし、ファンジビリティとかフライペーパー効果の抑制には意味なさげなんだけど。実務家抜きで実務上の問題を検討するのが流行らしいから、そんなことにはお構いなしなんでしょうね。
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コメント
この記事へのコメント
お取り上げ頂き・・・orz。
今回の道府県が知事、「カイカク」等で賑やかなところだったり、事故米報道も消えたりと、この時期の担当官レベルでの折衝も大変だろうなと思っております。
>猪瀬直樹委員は「国からの補助金を翌年度に繰り越せないといったことも、不正経理の根本にある」との認識を示した。
地方分権推進のため、財政法の改正を主計局が認める用意がある?
今夜のNHKクローズアップ現代も結局は、上下水道事業の民間開放という流れ作りなんだね。
2008/10/23(木) 23:13:55 | URL | gruza03 #DgdRcaA.[ 編集]
> gruza03さん

> 今回の道府県が知事、「カイカク」等で賑やかなところだったり、

彼らがいかに外向きのパフォーマンス集団だったかというのが如実に表れているのではないかと。

>>猪瀬直樹委員は「国からの補助金を翌年度に繰り越せないといったことも、不正経理の根本にある」との認識を示した。
>地方分権推進のため、財政法の改正を主計局が認める用意がある?

実は、「骨太の方針2003」で予算制度改革という項目があって、年度を繰り越すような弾力的な予算執行の仕組みとして、「モデル事業」というのが導入された経緯があります。
「骨太の方針2005」からは「成果重視事業」と名前が変わって、その後はよくわかりませんけど。
2008/10/24(金) 21:48:12 | URL | マシナリ #-[ 編集]
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