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2008年10月21日 (火) | Edit |
前回の続きですので、そちらも併せてご覧いただければ)

ファンジビリティと地方財政についての経済学的な説明としては、ネットで入手できるものだとあまりありませんね。

アメリカにおいて、地方政府の支出行動に与える補助金の効果に関する研究が数多くなされてきたが、理論から導き出される結果と実証分析から導き出される結果とに、しばしば食い違いがみられる。とりわけ問題とされているのが、ファンジビリティー仮説(fungibility hypothesis)とフライペーパー効果(flypaper effect)である。ファンジビリティー仮説とは、条件付補助金の一部が代替可能な財源(fungible resource:使途を特定化されない財源)に転換されているという仮説であり、フライペーパー効果とは、地方政府の支出に与える無条件補助金の効果が、地方政府の支出に与える地方の私的所得の効果よりも大きいという現象のことである。

塚原康博[1988]「ファンジビリティ仮説とフライペーパー効果」『一橋論叢, 99(6)』p860(注:pdfファイルです)

というような議論が20年前からあるわけですが、日本でこの分野の研究が実証的に行われるようになるのは、地方分権とかが声高に叫ばれてきた90年代後半からではないかと思います。なので、あまり実証的な研究の積み重ねがあるわけではありませんが、政府間財政移転の問題は、こうした計量的な分析が不可欠だろうと思います。

塚原論文の図1では無差別曲線が描かれていないのでちょっとわかりにくいんですが、予算制約線の相対価格(傾き)が変わると、無差別曲線と予算制約線の接点で示される最適消費点が移動します。もし、予算制約線が右上方へ平行移動すれば所得効果のみが発生して歪みは生じませんが、相対価格が変化する場合は代替効果が発生して歪みが生じます。という初級ミクロの議論を踏まえると、ファンジビリティが生じている場合には、補助金による相対価格の変更時の最適消費点を軸にして、さらに無差別曲線が移動することになり、歪みが生じてしまうことになります。これが、経済学的に考えた際のファンジビリティの問題点となります。

ところが、この公共経済学で発展した理論というのは基本的にアメリカやカナダという連邦国家の学者によって提唱されたものが多く、このファンジビリティも課税自主権を有する州を対象とした分析となっているため、このままでは日本の地方自治体に適用することはできません。塚原論文では、図2で課税自主権のない日本型の修正モデルを定義して実証分析しており、補助金が想定する以上に支出するために自己負担が生じるという「逆ファンジビリティ仮説」が確認される結果が得られています。

まあ、現場の地方公務員としても修正モデルの方がしっくりくるわけで、今回の補助金騒動でも明らかなように、ほかに財源を得る手段がない(課税自主権がない)ために、逆ファンジビリティの財源として他の事業の補助金の残額を流用せざるを得ないというのが、補助金を使い切るという行動の背景となっていると思います。

拙ブログでは小西砂千夫関西学院大教授の言葉をしょっちゅう引用させていただいておりますが、こういう財源不足が生じるのは、自主財源を超えた範囲まで何でもかんでも地方自治体にやらせるという「三倍自治」があるからであって、自主財源が足りないという「三割自治」になっているのではないと考えた方が実態を捉えることができるでしょう。でも、これまでの流れは市町村合併によって規模を大きくしてさらに仕事を増やし、道州制と称して同じことを都道府県にも適用しようとしているんですよねえ。「市町村合併で地域が自分のことを決めるべきだ!」とか「道州制で地域主権を!」とかいう方々は、ホントにそうなったらこういう問題が噴出することを覚悟する必要がありますよ。

さらに、補助金の使い切りという行動の問題点としては、塚原論文で取り上げているフライペーパー効果が大きな意味を持つと思います。上で塚原論文の冒頭部分を引用していますが、もう少しわかりやすくいえば、フライペーパーとは「ハエ取り紙」のことで、本来なら補助金額が増えればその分自主財源による裏負担が減って、ほかの事業の予算に充当できるはずなのに、実際には補助金が増えただけで(ハエ取り紙のように張り付いて)他の予算に自主財源が充当されないという地方政府の行動を指します。

ところが、前回エントリで示したとおり、たとえ補助金が増えたところでファンジビリティの発生は「適正化法」で禁止されているわけで、そうなると、必然的に裏負担である自主財源も補助金に張り付かざるを得ません。こう考えると、ファンジビリティそのものはコンプライアンスの観点から是正すべきかもしれませんけれども、それがフライペーパー効果を生んで、補助金の使い切りに地方政府の行動を誘導しているのであれば、コンプライアンスの観点からのみ今回の補助金騒動を考えることは適切ではないように思います。

ここで注意しなければいけないのは、ファンジビリティが生じた場合でも、無差別曲線が移動することで最適な供給量がもたらされうる(住民の厚生が改善されうる)のに対して、フライペーパー効果があれば、無差別曲線が移動しない、つまり、住民の厚生は変化しないまま歳出だけが増えることになります。ファンジビリティの撲滅みたいなことに血眼になって、「適正な」補助金執行が達成されたとしても、それによるフライペーパー効果で歳出がムダに膨れ上がってしまう可能性もあるということです。念のため釘を刺しておくと、フライペーパー効果は国税減税による地方自治体の自主財源増(いわゆる税源移譲)でも生じるわけで、「だから補助金行政はけしからん!税源移譲だ」といっても解決策にはなり得ませんよ。

というわけで、ファンジビリティの排除というようなコンプライアンスの徹底によって、結果的に住民の厚生が損なわれていたり、最適な地方公共財供給が行われていないのであれば、それはそれで検討しなければならない問題ではないんでしょうか。とはいえ、会計検査院というのは法律しか見てませんから、「法律が認めない流用(ファンジビリティ)なんか許さないぞ」といい、その会計検査院の言い分だけ見て「無駄遣いっぽいからけしからん」と煽るマスコミしかいない状況で、そんな検討が進むわけはないんですよね。うちの政治家議員も政治家首長も「あってはならないことで許されない」とかいってるし、どんな辻褄合わせが始まるのやら。まあ、せいぜい「職員の意識改革」とかいってお茶を濁すしかできないでしょうけど。

なお、実証的な研究では、塚原論文ではフライペーパー効果は存在しないという結果が得られているのに対して、土居論文では存在するという結果が得られていたりして、実はそれほど頑健な結論が出されているわけではありません。

 地方交付税の交付額が少額ならば,地方税を(意図するか否かは問わず)実質的に減税することで最適な地方公共財供給が実現できれば,Bradford-Oatesの等価定理が成り立つ(つまりフライペーパー効果が生じない)状況が考えられ得る。地方交付税の交付額が大きければ、地方税を(意図するか否かは問わず)実質的に減税できても,地方交付税を相殺するほどには至らず,その分だけ地方公共財供給が過大になる可能性がある。つまり,フライペーパー効果が生じうる。(p13)

ここで,議論の混乱を避けるためにまとめておく。これまでのフライペーパー効果の検定結果は表12のようにまとめられる。フライペーパー効果が生じる要因として,日本の地方財政制度の下では地方税(特に固定資産税)の減税に制約があることが示された。ただ,地方政府に課税自主権がほとんどない日本の地方財政制度の下において,フライペーパー効果が生じることの政策的含意は,地方交付税の交付と(それ相当額の定額の)国税減税とは異なった経済的効果をもたらす(等価でない)ということである。フライペーパー効果が認められた都市では,地方交付税の交付が国税減税よりも地方歳出を大きくするといえるのである。(p20)

フライペーパー効果の大きさが10前後であるとは,国税を減税するときに比べて地方交付税を交付するときの地方公共財供給量(地方歳出)の増加が約10倍であることを意味する。この政策的含意は、今後の地方分権に向けた改革で、従来の地方交付税の交付に代わり,国税を減税して地方公共団体に課税自主権を与えることを行ったならば,地方歳出に対する両者の効果はフライペーパー効果の大きさの分だけ異なるということである。両者を等価と見て地方分権を進めれば,地方公共財は現在よりも少なく供給されることになる(ただしこの時点で,その供給量が最適供給量より過大か過小かは判断できない)。(p22)

土居丈朗[1996]「日本の都市財政におけるフライペーパー効果」, 『フィナンシャル・レビュー』, 第40号, 95-119頁(注:pdfファイルです)

現実問題として、三位一体の改革による所得税から住民税の税源移譲ってのが、フライペーパー効果による地方歳出の削減を引き起こしているように感覚的には思うんですが、誰か分析してませんかねえ。
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