2008年10月21日 (火) | Edit |
長くなりそうなので小出しにしていきますが、昨日のエントリを制度論的に補足してみます。

開発援助の世界ではファンジビリティ(fungibility)という言葉があって、ODAなんかで途上国に援助しても、本来援助しようとしたプロジェクト以外の分野に「流用」されてしまうという問題があります。もう少し複雑な話なんだけど、これについては開発援助が本業(のはず)の山形浩生氏が、去年の国会で自衛隊の給油先を巡ってもめた件を取り上げて説明されています。

 が……まず簡単な話としては、「学校作るから」と言ってお金を貸しても、相手はそのお金でミサイルを買ったりするかもしれない。まあこの程度なら簡単に見張れるし、対策もある。が、もうちょっと複雑な話がある。学校用の援助をしたら、途上国はちゃんと学校を作るかもしれない。でも援助してあげた分、自国の教育予算を減らして、その分を軍事費にまわすかもしれない。帳簿上は何も問題がない。援助のお金は、ちゃんと目的通りに使われている。でも全体としてみたら、援助のお金は結果的に軍事費の増加に寄与してしまうことになる。お金は使い回しが効くし流用もできる。これがファンジビリティだ

 とはいえ、これは考えてみればすぐわかる話だ。軍事国家にどんどん援助したら、その個別の目的がなんであれ、結局は全体としての軍事国家に貢献してしまうことになる。戦争している国に何らかの形で支援をすれば、それは結局のところその戦争に貢献することになる。ましてその戦争をしている軍隊に支援したら、それが何の名目で行われたにせよ、結局のところそれは大なり小なり戦争を支援していることになっちゃうでしょー。そしてそれがお金でなくても同じこと。燃料だって当然使い回しはきくから、話は同じことだ。そして同じ組織の中ならファンジビリティは疑問の余地なく存在する

ファンジビリティと給油反対論のあほらしさ(『Voice』2007 年 12 月 pp.112-3)」(YAMAGATA Hiroo: The Official Page


詳しくは山形浩生氏の本文をご覧いただきたいんですが、

 で、これを執筆している前後では、自衛隊による米軍の海上給油が実はアフガン行きではなくイラク行きだったとかなんとかで一部で紛糾しているんだが…… それが議論として実質的にはまったく意味がないことは、このファンジビリティの考え方から明らかだろう。アフガン行きの船に給油していたら、その分だけ米軍は力をイラクにまわす。イラク向けの船に直接給油したらイラク侵攻の提灯かつぎで大問題、してなかったら自分は(日本は)関与していない――そう考えるのがいかにおめでたいことか。距離の問題はあるだろう。ぼくがアメリカ製のDVDを買ったら、それはめぐりめぐって米軍のイラクでの活動を助けることにはなる。そこまで問題にはならないだろう。日本が米軍に基地を提供しているのも、まあそんなに近くはないだろう。でも、アフガン向けとイラク向け? 同じ組織がほぼ隣でやってることでしょうに。

「同」


というわけで、同じ組織の中での予算の流用というのは普通に起こりうることなわけです。ところが、補助金というお金に関しては、補助する事業以外に使ってはいけないという法律があるのです。その名も「補助金等にかかる予算の適正化に関する法律」(通称「適正化法」)という法律で、こう規定されています。

(関係者の責務)
第三条  各省各庁の長は、その所掌の補助金等に係る予算の執行に当つては、補助金等が国民から徴収された税金その他の貴重な財源でまかなわれるものであることに特に留意し、補助金等が法令及び予算で定めるところに従つて公正かつ効率的に使用されるように努めなければならない。
2  補助事業者等及び間接補助事業者等は、補助金等が国民から徴収された税金その他の貴重な財源でまかなわれるものであることに留意し、法令の定及び補助金等の交付の目的又は間接補助金等の交付若しくは融通の目的に従つて誠実に補助事業等又は間接補助事業等を行うように努めなければならない。

(略)

(補助事業等及び間接補助事業等の遂行)
第十一条  補助事業者等は、法令の定並びに補助金等の交付の決定の内容及びこれに附した条件その他法令に基く各省各庁の長の処分に従い、善良な管理者の注意をもつて補助事業等を行わなければならず、いやしくも補助金等の他の用途への使用(利子補給金にあつては、その交付の目的となつている融資又は利子の軽減をしないことにより、補助金等の交付の目的に反してその交付を受けたことになることをいう。以下同じ。)をしてはならない
2  間接補助事業者等は、法令の定及び間接補助金等の交付又は融通の目的に従い、善良な管理者の注意をもつて間接補助事業等を行わなければならず、いやしくも間接補助金等の他の用途への使用(利子の軽減を目的とする第二条第四項第一号の給付金にあつては、その交付の目的となつている融資又は利子の軽減をしないことにより間接補助金等の交付の目的に反してその交付を受けたことになることをいい、同項第二号の資金にあつては、その融通の目的に従つて使用しないことにより不当に利子の軽減を受けたことになることをいう。以下同じ。)をしてはならない


つまり、日本の法律は、補助金を交付する各省庁と(間接)補助事業者の責務として、同一組織内であれば普通に生じうるファンジビリティを原則として認めないと定めているために、実際に生じるべくして生じたファンジビリティが「不正経理」と呼ばれてしまう(※1)ことになります。

さらに、会計検査院というのは特別な立場の役所で、いわゆる霞ヶ関官僚とはまた違った身分として各省庁の会計事務を検査します。各省庁の補助金の使い道を調べるために会計検査院が自ら地方自治体の現地にもいくわけで、今回の「不正経理」という話も、「国の各省庁が地方自治体に交付した補助金の使い道が、初めに約束した使い道と違うじゃんか」という指摘を、各省庁と地方自治体に対して行ったということです。マスコミなんかで「けしからん!」とかお怒りのキャスターの方々なんかは、少なくともこういう構図はおわかりなんですよね?

この会計検査院というのが、政策の効果などお構いなしにとにかく法律に書いてあることしか認めないんでいろいろと批判があったり、その検査の態度もひどいもんなんですが、コームインどもを滅多斬りにしてくれるので、一般受けはいいんですよね。しかも、

 会計検査院は、このような重要な機能を他から制約を受けることなく厳正に果たせるよう、国会、裁判所に属さず、内閣に対し独立の地位を有する憲法上の会計検査機関となっています。

会計検査院の地位」(会計検査院


なわけで、誰も手出しできません。

では、会計検査院がそういったどんな組織でも生じうるファンジビリティを認めないことは正当化されるんでしょうか。長くなったので続きはまた後で。




※1 この「不正経理」という言い方も、会計検査院が実際にどういう言葉を使っているのかわかりませんので、マスコミによる「現実と背馳する恣意的な名付け」(香西秀信[2007]『論より詭弁 反論理的思考のすすめ』光文社新書、p46)である可能性が高いですけど。
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