2008年09月21日 (日) | Edit |
前回のエントリは例によってわかりにくい書き方になってしまったのではっきり書いておきますが、政策法務とか騒いで嬉々としている自治体職員とか議会議員とか首長に俺はうんざりしているのです。

以前すなふきんさんのところでコメントさせていただいたときに、その辺の鬱陶しさをかなり凝縮して書いてみたものの、こういう苛立ちってまさに地方自治体の中の人には理解されなさそうなんですよねえ。

マシナリ 2007/12/23 01:58
私も、東京から遠くの寒いところのいち地方公務員として、sunafukin99さんのおっしゃる「改革原理主義と同様「現状打破」を所与の動機として持っているために、「分権」を理想化し自己目的化する傾向」には危惧を抱いています。特に税収のある東京などの大都市以外の地方自治体が「地方分権!」というときには、そうなっていると考えた方が自然です。ジェイン・ジェイコブスが『都市の経済学』で指摘したように、地方は都市部の周辺でモノカルチャー化することによって比較優位を保持しているに過ぎないと思いますので、少なくとも経済的には地方分権は成り立たないはずなんですよね。

ただし、その文脈と同根になってしまうんですが、私の知る限りの(特別職である首長や議員を含む)地方公務員は法律の執行にモノカルチャー化していて、法律学者や行政学者のいうことはありがたがっても、経済学者のいうことはほとんど耳を貸しません、というか理解できません(神野先生や金子先生は例外)。そもそも「地方財政の自立を目指して」なんていう時点でアウトなんであって、ポービッツのいうように、少なくとも財政上は「自治と集権は、一方が強いことがもう一方が強いための条件である」というのが正確なのでしょう。
■[ぼやき]支離滅裂な地方分権主義者(2007-12-18)」(すなふきんの雑感日記)コメント欄


官僚とか役人の世界ってのは、良くも悪くも採用時点の属性と試験結果に基づく学歴社会なわけで、言うまでもなく役人の世界の最上層部はキャリア官僚によって独占されていて、その主な任務は各方面の利益代表者(政治家とか業界団体とか市民団体とか)との調整を踏まえた政策の立案です。これがサブですね。

ここでサラッと「調整」なんて書きましたが、まったく正反対のことを言う利益代表者(典型的には消費者団体と業界団体とか)の意見を聞きながら政策をつくらなければならないとき、最終的には理論なりデータなり判例なりといったできるだけ客観的な根拠で押すしかないわけで、それらの理論とかデータとか判例のリテラシーというのは相当なレベルのものが要求されます。キャリア官僚に日本の学歴のトップ層が多いのは、第一義的にこのリテラシーをもちながら、利益代表者との交渉をするだけの身体的・能力的にタフな人材が求められるからです。

中野雅至さんが指摘されているように、これってものすごく大変なことなんですけど。

まず、市町村に、地域社会の課題を解決できるだけの政策の企画立案能力や利害調整能力は本当にあるだろうか? 筆者は特に、利害調整能力を重視している。どれだけ優れた企画も複雑な利害調整を経ないと、本物にならないからだ。
(略)
まず、利害調整能力から考えてみよう。多くの識者は「政策の企画立案能力」の重要性を指摘する。確かに、地域問題を解決するためのプロジェクトなどを企画する能力は大切だ。条例をつくったりする法務能力も重要だろう。
ただ、現場の行政官なら誰でもわかるが、利害調整能力がなければ、どんな優れたプロジェクトも「絵に描いた餅」だ。関連した業界、NPOなどの利害をちゃんと調整して、効果的な政策を実施することが最も重要だ。どれだけ優れた企画でも、それをきちんと実行に移さなければ意味がない。
(略)
例えば、高齢者や障害者の雇用を増やすための政策なら、労働組合や経営者団体や個々の企業が利害関係者になるのだが、「高齢者や障害者の雇用を増やせ!」と強制するような政策は決して成功するものではない。何カ月・何年間と時間をかけて、労働組合や経営者団体を説得して回るという作業が必要になる。何度も説明し、そのための資料を無数につくる。そんな作業を地道に繰り返して相手を説得していく。一言で言えば、利害調整能力って「粘る力」みたいなものだ。
(略)
この時、問題になってくるのは、知事や市長以下の職員を中心とした地方自治体の利害調整能力である。地域経済を振興し、地域雇用を創出するだけでなく、地域再生まで地方自治体の責任で行う仕事だということになると、地方自治体には「有効な政策を企画立案するという知性の求められる仕事」と「様々な利害団体の利害調整をするという泥臭い仕事」をする能力が求められるが、現在の市町村にそんな能力があるのだろうか?
特に、利害調整能力を本当に培ってきたのかは疑問だ
中野雅至(2005)『はめられた公務員 内側から見た「役人天国」の瓦解』光文社pp142-145
(※挿入されている英単語は面倒なので引用しませんでした)


断っておくと、この本で述べられている中野さんの見解にはあまり賛同しませんが、この部分はおそらくチホーブンケンとか叫んでいる人にはほどんど意識されていないことなので引用させていただきました。

結局、政策法務とか言っている方々ってのは、

また、戦前以来、自治体は法律解釈・自治立法を自治体政策の展開とむすびつけて取り組んでいなかった。ここにきて、自治体も自治立法権を通して国から独立した政策主体としての位置付けが漸次明確になって、自治体政策による公共課題の解決というかたちで表現できるようになってきた。
(略)
 1969年の地方自治法の改正により、市町村が地域社会の経営について基礎的な責任を有する行政主体であることから行政の計画的、総合的な運営をはかっていくべきである、として市町村に基本構想・長期計画の考え方が導入された。ここから、あらためて市町村は、地域における政策主体として法律上再確認されることになった。自治体が政策主体であるには、自己完結的に政策を立案、展開することを意味するが、これらの政策過程で重要な要素として、自治体政策の立案、展開で自治体からの視点による自治立法と法令解釈が不可欠となってくる。
 自治体計画の導入により先進自治体を中心に自治体の政策立案・展開過程での市民参加が定着してきた。さらに市民のコンセンサスを得る手法の開発と政策の実現にむけての手段の検討が必要になってきた。自治体の総合計画は、市民合意を前提としており、政策の立案過程すべてが利害・意見の対立の調整として成り立っている。このことから、自治体は、市民などによる政策の提案に対する政策実施主体として「調整者」の位置付けを有する。それだけに新たな制度・政策の開発に対する法的分析、検討内容についても行政の透明性が進むなか公開化にむけた手続き、手法の検討が必要となる。
天野巡一「政策法務」の現状と課題」日本公共政策学会1999、12~17枚目(注:pdfファイルです)


という発言に要約されるような、条例として表現すること、つまりコーディングに意識が集中しているんですよね。手続きとか手法とかのコーディングのスキルも重要ですが、アルゴリズムとしてのそこに至る理論なりデータなり判例なりも同程度に重要なんですけど、政策法務ではそこまで議論が進みません。

ここでいつものように、「そんなことも考えていない地方公務員に地方分権なんかしたって…」という話になるわけですが、なんでそうなるかというと、結局は冒頭のコメントにあるような、「地方」在住者のキャリア官僚に代表される「中央」に対する学歴コンプレックスのルサンチマンなんだろうと思われます。

役人の世界では、キャリア官僚以下の役人は、たとえば国家2種とか専門官とかの枠で採用された国家公務員であっても、キャリア官僚の立案した政策を実行する実働部隊であって、その意味で、地方自治体の職員も政策の実働部隊であることには変わりありません。このことは、憲法92条では「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める」となっていることからも明らかですね。「法律で定める」んだから、地方公共団体の組織と運営については国が決めることになっているのです。

この「地方自治の本旨」には住民自治と団体自治の二つの要素があるとされます(芦部憲法など参照)が、最近の地方分権教は「地方自治の本旨が尊重されてない」とか言い出して、「やっぱり国が決めるのではなく地方が決めるべきだ」という話に持ち込むわけです。しかし、言うまでもなくだからといって、上記のようなタフなキャリア官僚の仕事の成果として決められた法律以上のクオリティものを、地方分権すれば地方公務員がつくれるということにはなりませんね。というか、今までやってなかったし、できないからこそ政策法務なんていう話になるわけで、しかもその政策法務ですら、アルゴリズムの作成を含めた利害調整の具体的な手法がすっぽり抜けています。これでどうやって政策を立案して実行するつもりなのでしょうか。

ところが、キャリア官僚の出身大学に比べれば一段下がる大学の法学部卒が大多数を占める事務系地方公務員は、政策法務の考え方をとることで「キャリアに独占されていた法律策定が俺たちにもできる!」とはしゃいでいるわけです。たとえば「俺は○○大(地元駅弁とかが多い)卒だけど、いままで東大とかの奴らに勝手に決められたことを俺たちが自分で決めてやるんだ」という、アンタも勝手に決めないで(気分の方が乗って参りましたので、どーでもいい歌を歌いました)。
さらにいえば、企画立案から実行までを自治体が自前でやるなら、地方公務員もサブとロジに分けて分業しなければならなくなりますが、地方公務員の側にキャリアと実働部隊に人員を分断するだけの覚悟はないでしょう。

逐条解説とか通達だけみて「官僚の仕事は法律をつくることなんだ、だから地方公務員の本懐は条例をつくることなんだ」としか考えていない法学部卒地方公務員が、タフな利害調整とかさせられる段階になって「こんなはずじゃなかった」とか言い出さないか、それをみて住民が「地方分権したのに役人がやっていることは利害調整ばっかりで、国と同じじゃないか」とか言い出さないか、まあ見物ではありますね。


※ ちなみに2007/12/23のコメントの最後で引用したポービッツの理論は中井(2007)からの孫引き(p66)なんですが、実はその中で中井先生も、

社会制度の構図を決める補完性(subsidiarity)の原理では、ノートンが指摘するように、個人ができないことは家族が提供し、家族が成しえないことをコミュニティやボランタリー組織などの私的プロバイダー(private provider)が保管する(Norton, 1994: 28-31)。こうして、公共財の提供者(provider)は、図3-6のように、小さな集団(group)から大きな集団に拡大する。これらの私的プロバイダーが対処できないとき、公共財は、社会契約のプロセスを経て、初めて政府部門が提供者になる。これが「公民連携」(PPP: public-private partnership)の原理である。
中井英雄(2007)『地方財政学 公民連携の限界責任』(有斐閣)pp75-76


とか「補完性の原理」を前提に議論してしまっていて、こんなこともおっしゃっているし、こういう公共経済学側の混乱も一因ではあると思います。

※ 修正しているうちに若干追記してしまいました。
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コメント
この記事へのコメント
HALTANさんやすなふきんんのところから来て、拝見させて頂いております。よろしくお願いします。
地方分権を「行政の効率化」「地方(自分たち)で法律を策定できる」だけで捉えている人達が多いですね。
自分は「霞ヶ関解体」は地獄への一里塚と見てます。
一般人の国家公務員批判の目線は接している「地方公務員」を見てるイメージによりますから、幻想が醒めたときの住民の地方公務員への反動は大変だろうなと。
自治体法務担当者の能力により、行政格差は拡大するでしょうから、「地方分権」は国家公務員削減→地方自治体の上級職占有→大量の地方公務員解雇が規定の路線なのかと考えています。
労働三権付与→公共事業削減で退職金確保→「ムダ(職員)を無くせばよくなる」→民意である。ロジは民間委託。を迫られたらどうするのだろう。
民間でムダを無くすって、いの一番はそれでしょう。
2008/09/21(日) 13:39:03 | URL | gruza03 #V76W3knM[ 編集]
> gruza03さん
コメントありがとうございます。

> 一般人の国家公務員批判の目線は接している「地方公務員」を見てるイメージによりますから、幻想が醒めたときの住民の地方公務員への反動は大変だろうなと。

住民がそういう幻想を抱いているというより、改革バカ政党とか首長といった政治家がそういう幻想を振りまいて、マスコミも批判することなくそれに追随して幻想が増強されるという悪循環があるように思います。権丈先生がおっしゃるように、政治家にしてもマスコミしてもそれが最適な行動でしょうから、どうにも現状は打開できそうにないですね。

その反動はとりあえずは地方公務員へ及ぶんでしょうけど、回り回って住民自身に返ってくるというのは、そろそろ大阪府あたりでは実感されてくるのではないかと。それがもしかすると状況が変わる契機になるのかも、というのは淡い希望ですかね。
2008/09/21(日) 22:18:30 | URL | マシナリ #-[ 編集]
ご返事ありがとうございます。
淡い希望に託さなくてはならないというのも辛い所です。
「自治基本条例」等にしても、結局は地方公務員と住民のためにはならない、むしろ自分達の存在そのものを危うくする気がするんですよね。自治労(中央)は確信犯でしょうけど自治労(地方)の地方公務員の方達は「バラマキ批判」の一次産業や建設産業がたどった道を歩きたいのだろうか。
2008/09/23(火) 02:33:54 | URL | gruza03 #V76W3knM[ 編集]
> gruza03さん

私自身は自治基本条例の現状がよくわからないんですが、関連して経済学の扱いについてのエントリを登録したので、そちらもご高覧いただけると幸いです。
2008/09/23(火) 10:46:59 | URL | マシナリ #-[ 編集]
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