2008年06月27日 (金) | Edit |
遅ればせながら、労務屋@保守おやじさんのところで「公務員」さんの方のコメントを巡っていろいろと議論があったことにさっき気がついたので、前回エントリを補足しつつ、若干コメントさせていただきます。

前回エントリではミスリーディングな書き方になってしまったんですが、労使対等の団体交渉というのは民間企業の労働組合の話であって、公務員には基本的に「労使対等」の関係は認められません。というのも、公務員の勤務関係については「特別権力関係」というのがあって、事実無根なり著しい濫用がない限り、懲戒処分なんかは人事権者がかなりの裁量をもって行い得ます(以前は公務員の労働権の制約も特別権力関係で説明されてたけど、今は指揮命令の正統性とか人事権に限定されているはず。たぶん。)

実は、大阪府知事が「いやなら職を変えろ」といったという報道を見たとき、公務員的には「職」というのはその人が就いている身分を指すことが多い(公務員世界で「職」といえば部長とか課長とか主査とかいう「役職」を指します)のと、こういった特別権力関係があることから、この府知事さんはその職員を降格処分をするつもりなんだろうかと思ってしまいました。まあ、前後の発言を見るとこの弁護士知事さんが関係法令(特に行政法や労働法)をきちんと押さえているとは到底思えませんし、当然そんなはずもなく、単に「転職しろ」という意味だったのはみなさんがご指摘のとおりですね。

というわけで、前回エントリで「労使対等じゃないの?」と書いたのは、特別権力関係にある公務員の人事について全権的な権限を持つ知事が民間感覚で団体交渉するというなら、そこは当然「労使対等」で交渉するんでしょ? という意味でした。そもそも公務員には争議権も協定締結に至る交渉権もなく、労組法も労調法も適用がありませんしね。しかし、公務員の仕事ってのが法令に基づいて行われる以上、上司が法令に基づいて指示したことに対して異を唱えることは通常許されません。もう少し具体的にいえば、行政組織法(条例)なり代決専決規定なりで上司には法令が授権しているわけで、上司の指示そのものが法令と同等の効果を持ちうるわけです。

官僚制組織での指揮命令系統の正統性をめぐって、いちいち上司と部下が法令の解釈とか運用で論争していたら、莫大な労力がかかってしょうがありません。というより、官僚制組織の中でも典型的な役所においては、決裁者に上意下達の権限を与える一方でボトムアップ式の稟議制をとることによって、効率的でムダのない法執行を担保しているわけですね(という意味では、「役所のムダ」を叩いている方々は官僚制組織の効率性を褒めていただいてもいいはずなんですがねえ)。

極端な例でいえば、「会社が倒産しそうだから明日までに一人1000件ずつ契約を取ってこい!」という上司に対して「それはムリです」と意見をいうのと、「全然債務超過でもないけど、これ以上地方債を発行するのは大変だし、議会の議決も経たことだから、××条例第△条の規定に基づいてこの事業は廃止する」という上司(のトップである知事)に対して「そんな議決はおかしい」とか「あなたの権限でそんなことしていいのか」なんて楯突くのとでは、その無謀っぷりは全然違うわけです。

というわけで前置きが長くなりましたが、労務屋@保守おやじさんと「公務員」さんのやりとりで気になった点というのが、

労務屋@保守おやじ 2008/06/23 23:10
>「公務員」さん
 同じことを何度も書くのは気が進まないのですが、この議論は要するに「公務員」さんは「自治体の首長が議会と選挙民の支持を得て、職員の理解活動を進めつつ財政再建のために職員の給料を切り下げる」ことが「経営トップが牛肉の産地などを偽ることを指示する」ことと同程度に犯罪的なこととお考えになっておられるのに対し、私はそうは思っていない、という価値観の相違なのです。
また、「いやだったらやめろ」がよほどお気に召さないようですが、「やり方が合わないならやめてもらいたい」と言われたところで、不満タラタラ言いながらやめずに働き続けることはできるのですから、「トップが「いやだったらやめろ」といった瞬間、その組織は死に絶えたと同然」とか言いながら働き続ければいいのでは?

公務員 2008/06/23 23:41
(略)
「改革派」で名を馳せたものの逮捕された元和歌山県知事、あの人も違法行為を指示したわけではなかったかもしれません(逮捕された職員は逆らえなかった、と)
また、同じく逮捕された元宮崎県知事。あの人にも職員は逆らえなかった・・・残念ながら(両知事とも身近で見たことあっただけにショックだった)。

行政のトップに逆らえない雰囲気が出来たときの恐ろしさ、これを知っているからしつこく書き込みさせていただきました(今後しません)
(略)

労務屋@保守おやじ 2008/06/24 22:49
>「公務員」さん
 またしても同じことを繰り返し書くことに強い徒労感を覚えますが、私は「自治体の首長が議会と選挙民の支持を得て、職員の理解活動を進めつつ財政再建のために職員の給料を切り下げる」ことに対して、理解活動の場で「士気が低下するから給料は従来どおりよこせ」(とか「庁舎内で喫煙させろ」とか)という「諫言」(?)をする職員に対して首長が「やり方が合わないならやめてもらいたい」と注意するのは人事管理上ありうる、と申し上げているだけです。それがただちに官製談合や政府調達における親族企業の優遇(でしたっけ?)にも逆らえない雰囲気につながるというわけではないでしょう。
(略)
民間じゃないんでその2(2008-06-17)コメント欄より」(吐息の日々~労働日誌~


という辺りですが、上記の特別権力関係を踏まえてこのやりとりを見てみると、やっぱり下っ端の地方公務員としては労務屋@保守おやじさんのおっしゃることに賛同できません。発言のシチュエーションにもよりますが、「上司の指示に従えないなら辞めてくれ」と人事権をもった公務員(この場合でいえば、知事という特別職の公務員)が配下の公務員に対していうのは、単なる人事管理上の注意にとどまらない可能性があるのです。役人の組織があれだけ小回りのきかない手続主義になっているのは、こういった特別権力関係の中で与えられた権限を恣意的に行使する公務員の行動を抑制する仕組みでもあるのではないかと思います。

もちろん、労務屋@保守おやじさんが「現実には「職をかえて」と言われたところで、不満タラタラ述べながら働き続けることはできるのでしょうから。」とおっしゃるとおり、単に「辞めてくれ」といわれただけでその職員が解雇されるわけではありません。しかし、「俺の指示に従わない奴には、職務命令違反として懲戒処分もあり得る」というメッセージとして受け取った職員は多いでしょうね。この知事は人事権に限らず特別権力関係にある公務員組織のトップとして、(それが違法だろうと適法だろうと、人事管理上職員のモチベーションを下げようと、経済学的に負の外部性をもたらそうと)自らの意向に反した職員の将来の不利益な状況にコミットメントしたわけですから、知事の意向に沿った形に職員の行動が変わるのは容易に想像できます。その点に「公務員」さんは反応したのだろうと思います。

個人的には、この件以外についての労務屋@保守おやじさんの見解には賛同することが多かっただけに、それでもやっぱり民間と公務員の労務管理には越えられない壁があるんだなあと、お互いの理解が難しい問題だということを改めて認識しました。
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コメント
この記事へのコメント
>kumakuma1967さん
ブログでとりあげていただき(でいいですよね?)ありがとうございます。

地方公務員の団結権はかなりややこしい構成になっていてさらっと説明しにくいんですが、地方公務員法の第52条以降で職員団体についての規定があって、55条では、
「第五十五条  地方公共団体の当局は、登録を受けた職員団体から、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、及びこれに附帯して、社交的又は厚生的活動を含む適法な活動に係る事項に関し、適法な交渉の申入れがあつた場合においては、その申入れに応ずべき地位に立つものとする。
2  職員団体と地方公共団体の当局との交渉は、団体協約を締結する権利を含まないものとする。 」
とされています。何のことやらわかりにくいんですが、形式上の交渉はしなければならないけど、その成果としての(労組法でいう)労働協約は締結できないことになっています。結局、形式上の交渉さえ行われれば、決裂したって議会の議決や決裁権限者(のトップである知事)が決めてしまったら四の五の言えないのです。

なお、地方公務員の中でも特別職とか現業職には労基法から労組法、労調法までフルに認められますが、大多数の一般職には労基法以外適用されず(国家公務員は労基法すら適用されませんが)上記のような制約が課せられることになります。そのため、36協定は労基法上の規定なので過半数の職員代表の合意がなければ地方公務員に残業させることはできませんけど、それは団体交渉権や協約締結権とは別物です。

この点の混乱ぶりは、濱口先生の言葉を借りれば、
「憲法28条に基づく労働組合法の世界と憲法27条に基づく労働基準法等の世界を分断することによって、この当然湧いてくる疑いを封じ込めていたように思われる。しかし、その封印は既に破れている。 」
http://homepage3.nifty.com/hamachan/roujunkahansuu.html
ということになるのですね。
2008/06/29(日) 22:20:57 | URL | マシナリ #-[ 編集]
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