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2014年02月25日 (火) | Edit |
これも書きかけの記事ですが、人事制度の実務などを掲載している民間の人事担当者向けの『労政時報』という雑誌がありまして、そのWeb版である『Web労政時報』に主に人事コンサルや学者の方々が連載するコーナーがあります。hamachan先生もそのお一人なのですが、先月のコラムで人と組織のマネジメント研究所・株式会社 道(タオ) 代表取締役の河合太介氏が大変興味深い記事を書いていらっしゃいました。

といっても、Web労政時報は『労政時報』購読者向けの会員サイトのためまるっと引用することはできませんので、ごく大雑把にまとめてしまうと、タイトルは「人事マン、現地現物してますか?」という記事で、河合氏はパリの食べ物がとても高い(1ユーロ140円台のレートで、街中のスタンドで売っているサンドウィッチが5ユーロ、カフェでコーヒーをつけると10ユーロ)ことに驚きます。そこでビジネスマンがこれで食べていけるのかと聞いてみると、会社からチケ・レストランという食券が支給されていて、半額程度は会社負担になるとのことで、その理由について現地の人の見解がすばらしいのです。

「フランス、特にパリでは『食のブランド』を守るために安易にディスカウントはしない。それは国や街としてのブランド戦略だ。その代わり、仕組みと税制で市民をサポートする」

「それよりも、東京が世界で異常だ。パリ、ロンドン、ニューヨーク…世界の先進国の一等地で、デザートやコーヒーまで付いて1000円以下のランチが普通で、よくできたサンドイッチが100円~200円も出せば買えて、300円程度でお腹いっぱいになる丼が食べられる。こんな場所はない。どうやって儲けるんだ?」

キセーカンワ好きな有識者の方々からはグローバル人材とか威勢のいい言葉が聞こえてくるわけですが、東京の異常さは別に一般の日本人が英語をしゃべれないことではないのですよ。「仕組みと税制で市民をサポートする」なんて言葉は「経済学の教義に忠実なあまり増税忌避という思考停止に陥」りがちなこの国の経済学方面の方々にはちんぷんかんぷんなのでしょうけれども、高い物価に対して高負担の「仕組み(社会保障制度)と税制で市民をサポートする」のがフランス流なのです。ちなみに、2010年の国民負担率を比較すると、日本の租税負担率は22.1%、社会保険料を合わせた国民負担率は38.5%で、フランスの租税負担率は35.2%、社会保険料を合わせた国民負担率はスウェーデンを超える60.0%となっています。
国民負担率の内訳の国際比較(日米英独仏瑞)

さらにいえば、上記引用の前半は「『食のブランド』を守るため」としていますが、後半と合わせて読めば、『食のブランド』は適正な利潤を確保するために必要であることが理解できます。バブル崩壊後に「価格破壊」と「規制緩和」がもてはやされたこの国において、総需要の低下と長期不況が生じたのも宜なるかなと。ちょっと前に古市氏が、

【古市】なるほど、すき家はいいですよね。牛丼やファストフードのチェーンは、じつは日本型の福祉の1つだと思います。北欧は高い税金を払って学費無料や低料金の医療を実現しています。ただ、労働規制が強く最低賃金が高いから、中華のランチを2人で食べて1万円くらいかかっちゃう。一方、日本は北欧型の福祉社会ではないけれど、すごく安いランチや洋服があって、あまりお金をかけずに暮らしていけます。つまり日本では企業がサービスという形で福祉を実現しているともいえる。
「ネット新時代は銀行不要」の現実味【2】 -対談:津田大介×古市憲寿×田原総一朗 新しい日本のチカラ PRESIDENT 2013年12月16日号

と発言したことが問題とされていましたが、「少ししか負担しない仕組みと税制」しかないこの国では、平家さんが指摘されているように、安い牛丼は劣等財として需要が高まっていると理解すべきではないかと思います。

パートタイム労働投入の時給弾力性」で示した表からわかるように、200年代初頭やリーマンショック後の時期には賃金をほとんど上げなくても、あるいは引き下げてもパートタイム労働を中心とする非正規労働力を容易に調達できるという環境が整っていました。労働力の量の面では企業は恵まれていたわけです。また、この豊富な労働力は高度成長期に見られたような学校を卒業して、初めて職に就く人ではなく、リストラなどが行われていたこともあって、ある程度職業経験のある人たちでした。一から職業訓練、教育指導をしなくてもいい労働量です。質の面でも恵まれていたのです。

今後、パートタイム労働の時給弾力性が小さくなり、賃金が上昇していくことになると、質、量の面での好条件もなくなりますし、徐々に低級品への需要も減っていく可能性がでてきます。もしそうなれば、低賃金ビジネスモデルからの脱却が必要になります。企業家精神を生かして、新しいビジネス環境への対応を進めてもらいたいものです

一方、不景気ゆえに所得が低下し、高級品、中級品は売れにくくなり、低級品への需要が増えました。経済学の用語を使えば、所得が増える(減る)と需要が増える(減る)正常財の需要が減少し、所得が増える(減る)と需要が減る(増える)劣等財の需要が増加したわけです。

ここで、一つのビジネスモデルが成立しました。質、量ともに豊かな労働力を非正規労働者として雇用し、低級品を製造販売するモデルです。これを低賃金ビジネスモデルと呼ぶことができるでしょう。LCCなどその典型ではないかと思います。

このビジネスモデルは、当時の環境にうまく適応したものであり、チャンスをつかんで、このモデルに従って起業なり、新事業への進出を進めた方々は、かなりの割合で成功を収めたのではないかと思います。

低賃金ビジネスモデルからの脱却(2014/02/10 11:47)

この後に示される平家さんのご提言は引用したエントリをじっくりと読んでいただきたいのですが、語彙に乏しくて口の悪い私が書くと「キセーカンワやら新規形態の外食産業やらIT企業などのベンチャービジネスへの礼賛によってもたらされたのは、ブラック企業が易々と労働者を使い捨てることができるという現実だった」などとなってしまうところですが、冷静に経済学のツールを使って説明されると説得力が違いますね。劣等財の供給競争で利潤をすり減らし、低賃金ビジネスで成功を収めたブラック企業が礼賛される世の中と、高負担の「仕組み(社会保障制度)と税制で市民をサポートする」のがフランス流のどちらが望ましいのか、じっくりと考えてみてはいかがでしょうか。河合氏のおっしゃる「現地現物してますか?」という言葉は、人事マンに限らず問いかけてみたいところです。
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2014年02月23日 (日) | Edit |
書きかけのエントリがたまっておりましたので手短に(といいながらいつも長くなるわけですが)。政治家が「日本の諸悪の元凶であるコームイン制度を改革しなければならない!」とことあるごとに叫んでいるのにはそれなりに理由がありまして、公務員の労働契約では触れていなかったその辺の議論を塙『自民党と公務員制度改革』からピックアップしておきます。

その前に、チホーコームインとして印象的な言葉が本書で取り上げられています。

 そもそもこの問題は、各省幹部の人事権が首相または官邸のリーダーシップの下にあるべきなのか、それとも各省大臣の独立性が尊重されるべきなのか、政府内で統一的な解釈がないことに端を発していた。明治憲法下の各省大臣は首相や内閣に対してではなく、天皇にのみ責を負っていた「単独輔弼制」であったことは周知の事実である。
 「同輩中の首席」と呼ばれた首相の権限の弱さが政党政治の崩壊や軍部の台頭の一因になったという反省を踏まえ、現在では首相の各大臣に対する任免権や指揮監督権は憲法により確固として保障されている。その一方、すでに指摘されていることではあるが、国家行政組織法はその第5条に「各省の長は、それぞれ各省大臣とし、内閣法にいう主任の大臣として、それぞれ行政事務を分担管理する」と明記しており、逆に各省による国務の「分担管理」の原則を謳っていた。
 町村が渡辺に繰り返し述べた「内閣人事庁不要論」は、各省の幹部官僚の人事はこの「分担管理」原則の範疇に入るという発想だった。ただ、現行憲法下では各省大臣は首相により任命されるものであり、その手足となる各省幹部についても首相(官邸)の関与を認めることはむしろ当然の論理に思える。だが、この議論の整理が福田内閣において共有されていなかったのは、前述の閣僚らによる意見交換会で明らかになった。
pp.36-37

 ちなみにこの時、懇談会の報告書で打ち出された改革案に関して霞が関で流行した言葉があった。霞が関の「県庁化」である。
 この流行語の発端は、内閣人事庁による一括採用構想だった。内閣官房行政改革推進本部が非公式に事務レベルで各省の幹部ヒアリングを行った際、この一括採用も批判の矢面に立った。
 ある省の官僚が言い放った。「これをやってしまうと、霞が関が県庁化する。県庁職員のレベルの低さは一括採用をやっているからでしょう。それでもいいんですか」。
 この「県庁化」という言葉は「共通のマニュアルでも出回っているのか」と行政改革推進本部のスタッフが勘違いするほど、霞が関の人事担当者が口にした言葉だった。
 そもそも、県庁職員のレベルは低いのか、仮に低いとしても、それが一括採用に起因しているかは、何の検証もない主張ではあった。当時、「県庁の星」という映画が上映されていたこともあり、公務員改革による「県庁化」という言葉は、官僚同士の飲み会の場や各省庁の人事担当者の会議の場では流行語のようになっていた。
p.42

自民党と公務員制度改革自民党と公務員制度改革
(2013/07/17)
塙 和也

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※ 以下、強調は引用者による。

念のため補足しておきますと、前半の引用部の「町村」というのは町村信孝官房長官(当時)で、「渡辺」というのは渡辺喜美内閣府特命担当大臣(規制改革)(当時)のことです。で、そもそもなんですが、「法律による行政の原理」は行政法の基本中の基本とされておりまして、「公務員の人事権」も当然のことながら法律に事細かく規定されています。しかも、採用、昇任、給与などの人事に関する事務が複雑怪奇に各機関に分担されていて、「戦後の鬼っ子」と呼ばれた人事院制度がその典型ですね。こうして複雑に分散した「公務員の人事権」が縦割りの弊害を生んでいるとして、常にやり玉に挙げあられるのが各省庁ごとの採用ということになるわけです。

その採用などの「任命」を行う根拠は、国家公務員の場合は国家公務員法55条1項に規定されていまして、「内閣、各大臣(内閣総理大臣及び各省大臣をいう。以下同じ。)」と外局の長が「任命権者」とされています(地方公務員の場合は地方公務員法6条1項の「地方公共団体の長、議会の議長、選挙管理委員会、代表監査委員、教育委員会、人事委員会及び公平委員会並びに警視総監、道府県警察本部長」などです)。この条文を素直に読むと、上記引用部にあるような「「内閣人事庁不要論」は、各省の幹部官僚の人事はこの「分担管理」原則の範疇に入るという発想」が出てくるわけでして、これを一括採用すれば万事解決するというのが、改革論者の方々のシンプルマインデッドな主張になるわけですね。

でまあ、中の人とすれば一括採用したところで縦割りの弊害が万事解決するはずはないと思うのは当然だろうと思うのですが、その理由としては、「利害調整の過程においてそのような膨大な当事者の利害をとりまとめて調整しつつ代替案を示すという作業」を遂行するために、各利害対立の当事者の立場に立って代替案を提案するべく、その分野の制度や事情に精通した専門家集団が必要となるという理屈で十分だったはずです。ただし、政権交代に至る前からすでに「「官僚内閣制」とか「省庁代表制」と呼ばれるような利害関係調整のシステムが霞ヶ関に組み込まれていて、官僚が好き勝手に決めているのではなく、各省庁の背後にある関係団体の力関係が調整されて政策決定ににじみ出ていく」仕組みが否定されるようになり、その流れが「一括採用」へのカイカクを推し進めているというのが実態でしょう。bewaadさんは9年も前にそのことを指摘されていましたね。

以上のような岡本課長の縦割りを弱めた後に彼が理想とする政策運営や、昨年の某主計官の騒動、最近の経済財政諮問会議の人間力の議論、官僚ではできることに限界があるとして政界に転身する人間の主張などを見るに、出身省庁にとらわれない国全体の見地というのは、単に確たる現実基盤を持たない空理空論に流れたものがその過半を占めているようにしかwebmasterには思えません。
■ [government]内閣強化への疑問(2005-06-21)」(archives of BI@K


それに対する中央官僚の抗弁が「霞が関の県庁化」というのはあまりに迫力に欠けますね。世は「チホーブンケン教」または「チーキシュケン教」が栄華を極めていますので、「チホーブンケンを強力に推進するために○○法案が不可欠です」と主張すればあっさりと法案が通るような現状で、「霞が関の県庁化」というのはむしろ歓迎されるのではないでしょうか。

本書では「県庁職員のレベルは低いのか、仮に低いとしても、それが一括採用に起因しているかは、何の検証もない主張」とされていますが、何をもってレベルが高い・低いというのかによって検証の仕方は変わってきます。県庁職員のようなチホーコームインは、さまざまなセクションを掛け持ちしたり異動することによって「広く薄く」専門性や経験を得ますが、その程度では上記のような利害当事者の立場に立った代替案を示すことはほぼ不可能でしょう。国レベルの利害調整に求められる専門性や経験は、とても県庁レベルの職員には期待すべくもないわけで、専門性も経験ないジェネラリストの官僚によって、「民意」なるものを振り回す政治家が掲げた荒唐無稽な素人考えの政策が推進されていくというのは悪い冗談にしか思えないのですが、まあそれを望むのが「民意」が「民意」たる理由なのかもしれません。

公務員なんかに任せているからそんなことになるんだという声も聞こえそうですが、公務員制度改革を担当する事務局で生じていたことは次のような事態でした。

 公務員事務局が発足してまもなく、興味深い文書が民間スタッフの間で出回った。大手電機メーカーから、2001年に公務員改革を担う内閣官房の担当室に企画官として派遣された民間職員が書き残した「公務員制度改革放浪記」という回顧録である。
 「放浪記」はこのメーカー出身の企画官が、経済産業省から派遣されていた上司に喫茶店に呼び出され、いきなり「この話は墓場まで持って行って欲しい」と語りかけられる場面から始まる。
 放浪記の内容をかいつまでみると、以下のようになる。
 公務員改革は内閣官房の担当室の所管であったものの、実際は内閣官房ではなく、経産省にいる経産官僚の「裏部隊」が素案を描き、当時の行革相だった元首相、橋本龍太郎に報告する仕組みになっていた。前述の上司が「墓場まで持って行けと言ったのはこの裏部隊の存在のことであった。
 このメーカー派遣の企画官は、経産省の裏部隊と、その跋扈を快く思わない他省庁出身の担当室の同僚らとの板挟みにあう。
 そして、その狭間で悩み、翻弄されながらもなんとか職務を遂行していく。
 しかし、公務員改革の方向性をめぐる経産省と人事院の対立が激しくなっていくと、企画官は徐々に情熱を失っていく。省庁間の縄張り争いを「戦争」と表現し、最後には「私には公務員の相応しい人事制度とはどのようなものなのかついに分からなかった。しかし、もう時間が尽きてしまった」という言葉で回顧録を締めくくる。
 「これからどんなことが起こるのか、背筋が凍るような思いがした」。回顧録を読んだある民間職員は振り返った。

スーパーキャリア

 放浪記と同様、民間職員たちが驚く「事件」が早速起こった。経済産業省が公務員事務局の頭越しで、「国家公務員制度改革の考え方について」というペーパーを作成、各省や関係議員に配布を始めたのである。ペーパーはA4用紙で計20枚にも上るれっきとした政策素案だった。
(略)
 経済産業省は公務員改革を担当する官庁ではない。今後の幹部候補育成課程や再就職寄生に関する企画立案は当然、そのためにわざわざ「10森」に新設した公務員事務局に課せられていると思っていた民間職員らが、このような突然の横槍に驚くのは当然であった。
 さらに、事務局内の幹部官僚の間ではすぐに内紛が起こった。事務局次長で前総務省事務次官の松田隆利と、経産省から派遣された審議官の古賀茂明の二人だ。松田は小泉政権時代に行政改革本部事務局長を務めた経歴の持ち主であり、古賀も渡辺にその実績と手腕を高く買われて、事務局に引っ張られた経緯があった。
 二人の対立は当時の複数の事務局職員の証言によれば、古賀がまとめた内閣人事局による幹部人事の草案を巡って、松田が批判したことに始まったという。ただ、実態は分からないし、それを明らかにすることが本書の目的でもない。
 重要な事実は、事務局の発足早々、本来作業の中核になるはずだった官僚出身の次長、審議官という事務局のナンバー2、3の間に重大な亀裂が走り、互いの連携が事実上なくなったことである。そして、なにより民間職員が「腰が抜ける思いをした」ことである。
塙『同』pp.97-99

まあ、改めて「農水省に根回しなしに農商工連携とか言い出すあたりに経産省特有のお行儀の悪さが全開で、だから経産省不要論が絶えないんだろうな」という思いを強くする記述なのですが、これを「縄張り争い」とか「縦割りの弊害」というのはちょっと的外れですね。

世の中の利害当事者の立場を代弁するのが国家公務員ではあるのですが、その国家公務員自身が利害当事者となる公務員制度改革について、公務員なら当事者だから何でも言えるということではありません。業界なら業界団体が、消費者なら消費者団体が、民間の労働なら労働団体(労働組合)がそれぞれの立場を取りまとめるという過程が必要なのと同様に、国家公務員という労働者の利害をとりまとめるのは国家公務員の労働組合であるべきでしょう。そこに割って入ったのが、法律によって設置された事務局でもなく労働組合でもない一省庁の「裏部隊」であったら、その政策提案なるものが何を目指しているのか不審に思うのは当然のことだろうと思います。そういうことを平然とやってのける経産省の作法の悪さには辟易とするところですが、まあ集団的労使関係の再構築が課題とすらされないようなこの国の状況では、むしろ「民間感覚のカイカク!」を気取る経産省のやり方の方が好意を持って受け止められるのでしょう。引用部で事務局の対立を生んだとされる古賀氏が、一時メディアでもてはやされていた状況がそれを物語っていると思います。

でまあ、本書で記述されているような状況を踏まえると、真に必要な改革を阻んでいるのは人事院をはじめとする複雑怪奇に入り組んだ公務員の人事制度であることは言を俟たないと思うのですが、この点においても重要なのは、この国の集団的労使関係の再構築と並行して公務員の労働基本権を回復させることにあるはずです。人事院の言い分の不自然さは本書で指摘されているとおりであるとして、そうであればこそ、人事院の設置根拠となっている公務員の労働基本権の制約を取っ払うことが人事院の息の根を止めるクリティカルな方法です。そこには手をつけずに「カイカク」ばかり叫んでいるから実現すべきことも実現できないのではないかと思うところです。

2014年02月17日 (月) | Edit |
岩手県山田町の緊急雇用創出事業で先週大きな動きがありました。

使途不明金問題、岩手・山田町がNPO告訴へ

 東日本大震災で被災した岩手県山田町から、被災者の緊急雇用創出事業を受託したNPO法人「大雪(だいせつ)りばぁねっと」(北海道旭川市、破産手続き中)で多額の使途不明金が見つかった問題で、同町は近く、県警に業務上横領容疑で告訴する方針を固めた。

 県警は告訴を受理し、強制捜査に乗り出す。

 関係者によると、法人の2012年度事業費約7億9000万円のうち少なくとも3000万円が、岡田栄悟・元代表理事の親族が代表取締役となっているリース会社に振り込まれており、岡田氏が私的に流用した疑いが持たれている。

 法人を巡っては、県が調査を行い、11、12年度の事業費計約12億2000万円のうち、約6億7000万円が不適切な支出だったと指摘している。

 法人側はこれまでの取材に対し、「不正な支出や私的な流用はない」と説明している。

(2014年2月3日11時51分 読売新聞)

この報道が出た直後に、このNPO代表は実際に逮捕されました。

「大雪」元代表ら5人逮捕 3000万円横領の疑い(河北新報2014年02月05日水曜日)


岩手県警に逮捕され、捜査車両に乗り込む岡田容疑者=4日午前10時30分ごろ、旭川市

 東日本大震災の緊急雇用創出事業の事業費を私的に流用したとして、岩手県警捜査2課と宮古署は4日、業務上横領の疑いで、事業を岩手県山田町から受託したNPO法人「大雪りばぁねっと。」(北海道旭川市、破産手続き中)の元代表理事の無職岡田栄悟容疑者(35)=旭川市=ら5人を逮捕した。

 県警は5人の認否を明らかにしていない。県警は同日、5人を旭川市などから盛岡市に移送。宮古署に捜査本部を設置し、役割分担や巨額の事業費の流れ、使途などを調べる。
 5人の逮捕容疑は2012年10月上旬、12年度事業の事業費約7億9000万円の前払い金3000万円を横領した疑い。山田町が3日、県警に告訴状を提出し、受理されていた。
 捜査関係者によると、5人は前払い金をリース会社「タレスシステムアンドファシリティーズ」(旭川市)の口座に移し、私的に流用した疑いがある。同社社長は岡田容疑者の義弟で、同じく逮捕された会社員大柳彰久容疑者(30)=旭川市=が務めていた。
 町の内部資料や河北新報社の取材によると、町は法人の請求により、12年8月28日に3000万円の支出命令票を稟議(りんぎ)し、9月4日に支出した。
 タレス社が設立されたのは翌5日。法人は振り込まれた金をいったん別口座に移した上で、10月9日にタレス社の口座に移した疑いが持たれている。
 タレス社は直後の10月10日、旭川市内に土地やマンションの一室を相次いで購入。関係者によると、マンションには岡田容疑者の母で、同じく逮捕された自称法人元職員岡田かおり容疑者(53)=旭川市=が住んでいるという。土地、マンションともに金融機関から融資を受けたことを示す抵当権は設定されていない。
 町総務課によると、法人は当時、前払い金の請求理由を「事業費が足りなくなった」とだけ述べ、具体な使途は明らかにしなかった。前払いは法人が請求する都度、請求通り払っていたという。
 町は11、12両年度に法人に事業を委託し、2年間の総事業費は12億2000万円に上った。
 3人のほかに逮捕されたのは、岡田容疑者の妻で無職岡田光世(32)=旭川市=、法人の現地団体元幹部の派遣社員橋川大輔(35)=千葉県市川市=の両容疑者。

◎問われる町の責任

 東日本大震災の巨額の復興資金が不明朗に使われた問題は4日、岩手県警の捜査のメスが入り刑事事件に発展した。NPO法人が被災地の混乱に付け込んだ事件は、全容解明へ一歩前進した。一方で、法人に事業を委託した岩手県山田町も、ずさんな運営を許した責任を厳しく問われそうだ。
 業務上横領容疑で逮捕されたNPO法人「大雪りばぁねっと。」(北海道旭川市)の元代表理事岡田栄悟容疑者らは震災直後の2011年3月下旬、山田町で活動を開始。水難救助技術の普及に取り組んだ経験を生かし、行方不明者の捜索や支援物資の配分などをした。
 同年5月に町から事業を委託され、無料入浴施設の運営も始めるなど事業費は膨らんだ。被災者約140人を雇用するまでになった。
 しかし、12年度の事業費を途中で使い切り、法人は破産。その後、橋川大輔容疑者が代表を務めるリース会社を通した無計画な備品調達や使途不明金が次々明らかになった。
 元従業員の中には「震災後の苦しい中、給料を払ってくれた」と法人に感謝する声もあるが、結局はつけを町に残した。ボランティアのイメージを悪くした罪も大きい。
 山田町の佐藤信逸町長は同日記者会見し「補助金を被災者以外に使った。言語道断だ」と怒りをあらわにした。
 ただ、町は岡田容疑者の経歴も確認せずに事業を委託。震災で混乱していたとはいえ、その後、対応を再考する機会はあった。町の危機管理の検証も求められている。

この事件については、昨年のエントリで

実務なんぞやったこともない有識者とかいう連中が高邁な提言をしようが、政治家連中が「新しい公共」なんてほざこうが、緊急雇用創出事業は委託事業であって、都道府県や市町村が実施すべき内容でなければ事業立案できないし、事業立案しても委託先が想定されなければまともな積算もできず予算要求は通らないし、運良く予算要求を通っても、委託先を決定するにはよっぽどの理由がなければ随意契約なんかできないし、総合評価方式による入札やら企画競争による選考委員会を開催しなければならないし、そのために膨大な量の資料と関係者の日程調整をして会場を確保してホームページにアップして、説明会やら問い合わせに対応して委託先を決定して、委託先が決定したら契約書を作成して事業の進行管理やら労働者の従事状況の確認をして、年度末にはすべての事業の書類をチェックして完了確認しなければならないんですよ。それをどうやって現存の職員でこなせというのでしょうか?

「古い公共」の手続(2011年08月21日 (日))

というような委託事業*2のノウハウや人員が不足していた役場とそれにつけいるNPOが震災後のドタバタの中で不幸にも手を組んでしまい、その問題が資金繰りの行き詰まりと従業員の解雇という最悪の形で顕在化したものといえそうです。結局は、「実務なんぞやったこともない有識者とかいう連中が高邁な提言をしようが、政治家連中が「新しい公共」なんてほざこうが」現実に問題は起きるわけで、震災後に膨大な緊急雇用創出事業を押しつけられたツケを被災地が後始末させられるしかないのでしょうか。
補助事業と委託事業(2013年01月06日 (日))


と書いておりまして、そのツケの後始末として地元県警が業務上横領の容疑でNPO代表を逮捕したということになります。「非常時だから柔軟に制度を運用すべき」とかおっしゃっていた方々に、このような問題が起きた場合の対処法についても小一時間ほどお伺いしたいものです。

「業務上横領という犯罪を犯したんだから、しょっぴけばいいだろ」という方もいらっしゃるかもしれませんが、罪刑法定主義をとる日本の刑法では「疑わしきは罰せず」ということになりますので、業務上横領の罪が立証されなければ何もお咎めはありません。実際に逮捕されたNPO代表の弁護士は

岡田元代表「マンションは融資の担保」と弁護士を通じて主張 (2014年02月08日 17:55 更新)

山田町のNPOの復興事業費を巡る横領事件で逮捕された岡田元代表が購入したマンションと土地は、「リース料金を得るための融資の担保の予定だった」と話していることが分かりました。
これは岡田元代表の弁護人がきょう県庁で開かれた記者会見で明らかにしたものです。岡田栄悟容疑者の弁護人によりますと岡田容疑者は町から振り込まれた3000万円を使ってマンションなどを購入した事実を認めているということです。しかし、購入したマンションなどは密漁監視機材のリース料金として、金融機関からの融資を受ける担保にする予定でだったと話していてます。その上で弁護人は岡田容疑者に横領の意思がなければ、マンション購入などに違法性はないと主張しています。

ということで、容疑を全面的に否定する主張をしているわけで、有罪となるかはこれからの捜査の行方によります。そもそも、有罪となっても別途民事訴訟で求められている損害賠償がそのまま認められるわけではなく、実際に使い込まれたお金が戻ってくるわけではありません。「現場の裁量に任せた柔軟な制度運用」などという絵空事が、復興構想会議などという高尚なお立場から震災対応のために激増した業務に加えて現場に押しつけられ、その結果生じた犯罪まがいの行為については結局現場の責任が問われるという、まあはじめから予想されていた事態が粛々と進行しているというところでしょうか。

この事態について、CFWの提唱者でもある永松先生がコメントをされています。

緊急雇用に疑問の声/補助対象外事業費 町が穴埋め(2014年2月7日 読売新聞)

 関西大学の永松伸吾准教授(災害経済学)は、「緊急雇用創出事業がなければ、被災地の人口流出は今以上に進んでいただろう」と事業の効果を認めた上で、「消化しきれない予算が付く中で、国が『復興を急げ、急げ』と突きあげてくる。どうしてもチェックが甘くなってそこにつけ込まれる」と話す。多くの職員が犠牲となり、膨大な復興事業の事務に追われる被災自治体にあわせた運用の必要性を指摘する。

 県から補助対象外とされた結果、町が穴埋めするなどした法人の不適切支出6億7000万円、元従業員と他の町民の間に生まれた「溝」――。被災者の生活を支えた同事業を巡り、重過ぎる負の遺産が残る。 (この連載は、NPO事件取材班が担当しました)

(2014年2月7日 読売新聞)

マクロの評価として「緊急雇用創出事業がなければ、被災地の人口流出は今以上に進んでいただろう」というのはその通りだと思うのですが、「膨大な復興事業の事務に追われる被災自治体にあわせた運用の必要性」はちょっと一般論に過ぎるのではないかと思います。いやだから、その「被災自治体にあわせえた運用」はどうあるべきかという点を何も考慮しないまま、リーマン・ショックの際に導入された緊急雇用の枠組みをそのままあてはめたことが、事務の繁雑さに起因する不正経理を招いてしまったわけですから。

永松先生がこのコメントについて補足するtweetをされているのですが、

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
この記事に自分のコメントが引用されているが、若干ミスリーディングなので以下補足する。〈下〉重すぎる負の遺産 : 地域 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/iwate/feature/morioka1391524094431_02/news/20140206-OYT8T01441.htm?from=tw …
https://twitter.com/shingon72/status/432159565430280192

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
(承前)緊急雇用創出事業があたかも無理矢理雇用を作るために実施されているかのような記述だが、それは必ずしも正しくない。多くの地域では、被災地機の復興に向けてなくてはならない活動をしている。まずはそのことを知ってほしい。
https://twitter.com/shingon72/status/432160133360017409

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
(承前)本当か?と疑う向きは、3月7日、17日に雇用創出に関するシンポジウムを実施するので、ぜひ聞きに来てほしい。http://cashforwork.disasterpolicy.com/event.html  良い仕事いっぱいあります。これがなければ被災地の復興は進まないです。
https://twitter.com/shingon72/status/432161044211834881

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
(承前)そもそも、被災地の人材不足感は本当に緊急雇用のせいなのでしょうか?実は被災地の求人倍率の上昇は、求人数の増加よりも、求職数の減少によってもたらされている部分が多いのです。緊急雇用が労働者を奪っているというのは、かなり誤解されています。
https://twitter.com/shingon72/status/432161909417054209

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
(承前)その原因のひとつには、アベノミクスによる景気改善が大きいと思います。沿岸自治体では今もなお、人口流出が、速度は落ち着いてきたとはいえ、続いています。去年の今頃は宮城・福島が求人倍率全国一位、二位でしたが、今は東京など他地域に取って代わられています。
https://twitter.com/shingon72/status/432162342197927936

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
(承前)そもそも、さっきの読売新聞の記事は、緊急雇用創出事業だから、りばあねっとのような不正を生んだということを何一つ論証していません。被災地には膨大な資金が国から投入されて、緊急事態につけ込んで不正経理を許したということが問題なのであって、緊急雇用の問題ではないはずです。
https://twitter.com/shingon72/status/432163193041862656

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
(承前)そういうことを記者には伝えたし、緊急雇用が問題という記事にはコメントしないと伝えたはずでしたが、こうやって読むと、なんとなく読売の記事のスタンスを擁護しているように読めるよなあ。
https://twitter.com/shingon72/status/432163926092943360

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
(承前)でも、私には抗議する気もない。別にこの記事がそれほど自分の仕事に大きな影響を及ぼすとは思っていない。そもそもりばあねっとを今更叩いてどうするのか。経験上、ネタに困って書いた記事だなと思うし、その程度の読まれ方しかされないことの方が問題だと思うけどな。
https://twitter.com/shingon72/status/432164789142302721

うーむ、いろいろな論点が混乱しているような気がするのですが、まず、CFWは被災して仕事を失った方に雇用の機会を提供しつつ、その労働力を災害復旧や生活支援などの復興につなげるというものであったはずで、それは緊急雇用創出事業とは全く別の事業フレームです。震災発生時にたまたまリーマン・ショックで導入された緊急雇用創出事業があったからCFWに活用しただけであって、だからといって緊急雇用創出事業がCFWを実施するために適切な事業形態だったとはいえないでしょう。

個人的にはむしろ、失対事業の夢魔を避けるために設計された緊急雇用創出事業などという(民間に対しては)委託以外の事業形態を認めない事業でCFWを実施したことが、この事件の小さからぬ原因となっていると考えます。つまり、受託先が確保されない被災地で委託事業による雇用創出を事業化した結果として、震災対応の業務に忙殺された被災自治体が素性も分からない受託先に頼らざるを得ない状況をもたらし、そのNPOがまさに悪質だったからこそ不正経理が行われたわけです。

もちろん、不正経理が行われる経緯を把握できなかった地元自治体や交付金を交付した国、補助金を交付した県の責任が皆無ということではありません。その過程では何度か是正のチャンスがあったはずです。しかし、ほかの受託先がない自治体では、怪しいと思っていてもその受託先を頼る以外の選択肢はなかったというのが実態だろうと思います。傍から見ればいくらでも批判はできますが、だからといって現に雇用されている住民がいて、不正を働きながらもそれなりに活動をしている状況では、その受託先を切って捨てたところで、そこには失業した住民と活動がなくなって放置される現場が残るだけです。その代替手段が見つからないような震災後の非常事態にあって、多少の不正には目をつぶるという判断をせざるを得なかった状況があったとしたら、やはり制度の問題を看過することはできないと考えます。

今回事件となったNPOは震災直後からトラブルが絶えなかった団体でもあって、その意味では巨額の委託契約を締結した被災自治体の不手際は責められてしかるべきだと思います。しかし、軽重の差こそあれ、震災後はさまざまな団体がしでかしたトラブルには枚挙に暇がありませんでした。震災からまもなく3年を経過する現在になって、そのようなトラブルが表面化しないとも限りません。実際に事件として問題が発生した現状においても、震災直後のトラブルの後始末はあちこちで行われているはずです。災害復旧や復興事業だけが震災対応の業務ではなく、いつ会計検査院とオンブズマン(とそれを大々的に報じるマスコミ)に責められるかと戦々恐々としながらそうした後始末に追われるのが、変わらぬ被災地の現場なのだと思います。

ついでに、緊急雇用が「被災地の人材不足感」の原因となっていることはほぼ事実だろうと思います。緊急雇用は期限の定めのある「非正規雇用」ですので、日本の場合は家計補助的な女性や若者が主に就労することになりますが、被災地で人材不足が深刻なのは水産加工業などの震災前には女性が主に就労していた業種です。アベノミクスの影響で景況感が回復しているはいわゆる機械の製造業であって、食料品の製造業は今も昔も海外との熾烈な原価競争のために低賃金であって、ほかに時給のいい緊急雇用のような雇用があればそちらに流れるのは当然でしょう。被災地の雇用情勢を議論するためには、もう少し丁寧な分析が必要ではないかと思います。

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