2012年02月26日 (日) | Edit |
大阪府知事から大阪市長になった弁護士の方が労働組合攻撃を強めている件でいろいろと盛り上がっているようですが、まあこの弁護士先生は労働法方面にはあまり詳しくないと思われる方ですので今さら何をという気もするところで、さらにいえば弁護士というのはそもそもそういう職業なんだよなあという印象です。

司法試験は最難関国家試験の一つですから、その合格者である法曹関係者が高い知的能力を有していることはほぼ間違いはないとは思いますが、だからといってその主張や認識が高い知的能力に裏付けられていることまで担保するものではありません。それはともかく、特に弁護士という職業は、(民事事件でいえば)弁護すべき対象者がいかに法的な保護を勝ち得るかを現行法令の枠組みの中で立証することが仕事であって、その技術こそが弁護士に求められるものですが、ここで注意しなければならないのは「現行法令の枠組み」という条件は原告も被告も同じだということです。

当たり前のことのように思われるかもしれませんが、原告側弁護士の弁護すべき対象者は原告ですし、被告側弁護士の弁護すべき対象者は被告であって、それぞれが相反する法益を巡って抗弁・再抗弁・再々抗弁…と応酬することになります。ところが、法益は相反するとしても、それぞれの主張の根拠となるのは同じ現行法令であって、あくまでそれに基づいて原告・被告の双方が要件事実を挙証して抗弁を繰り広げるのが法廷という場です。つまり、同じ現行法令に基づきながらも、真っ向対立する主張を繰り広げながらいかに自身の主張を説得的に立論するかというのが弁護士の腕の見せ所であって、それで裁判官の心証を得た方が勝つというのが「裁判に勝つ」ということの実際なわけです。

でまあ、大阪市の話に戻すと、この弁護士市長さんが狙っているのは違法すれすれの組合攻撃であって、それは(実質的な)使用者の立場にある市長として現行法令の枠内で「違法ではない」という主張をしていることと同じことということになります。結局それが違法かどうかは裁判の場でしか決着は付かないものですし、その裁判においても(どちらが原告・被告になるか分かりませんが)使用者側と労働者側がそれぞれの立場から要件事実を挙証していって抗弁の応酬を繰り返しながら裁判官の心証を形成するというプロセスを経てやっと判断されるものであって、現時点でその行為が違法かどうかという議論は事実上できません。このあたりはさすが弁護士市長さんだなと思うところでして、そりゃ判例とか労委命令例なんかで不当労働行為を類型化して、その事例に類似している点があるから違法だろうくらいの議論はできますが、明確に違法かどうかという判断を下せるものではないわけです。

という観点からすれば、労務屋さんのご指摘にほぼ同意するところでして、職員組合が不当労申し立てをして大阪府労働委員会が勧告を出したからといって即座に不当労働行為に該当するはずもなく、別途正式な手続を経て決められるものですし、現時点で調査は凍結しているとのこと(このあたりの対応の早さはさすが弁護士ですな)ですので、あとは府労委の審査手続に委ねられることになります。

府労委が一時停止勧告 政治活動巡る大阪市職員調査 (日本経済新聞 2012/2/23 1:59)

 大阪市が全職員を対象に政治活動への関与を問うアンケート調査を実施したことについて、最大労組の市労働組合連合会(市労連)が不当労働行為だとして大阪府労働委員会に救済を申し立てていた問題で、府労委は22日、市に対して最終決定が出るまでアンケート調査の続行を差し控えるよう勧告した。

 府労委は勧告書のなかで、組合加入の有無を問う項目など「支配介入に該当するおそれがある」と指摘。アンケートが続行されれば「仮に本案事件において救済命令を発すべき場合、もはや救済の基礎が失われているおそれがある」と調査続行を控えるよう求めた理由を説明した。

 市労連は同日夜、会見を開き、中村義男執行委員長が府労委の措置について「組合に対しいわれのない反感をあおって不当な攻撃を加えてきた橋下徹市長の姿勢にブレーキをかけることができた」と話した。

 アンケート調査は、橋下市長の指示を受けた市特別顧問の野村修也弁護士を中心とした第三者調査チームが10日から実施。市労連が13日に府労委に救済を申し立てたことを受け、17日に「法的手続きを見守るため」(野村弁護士)との理由でアンケートの凍結を発表した。

 橋下市長は22日、「既にアンケートは控えている。(内容も)何ら問題はない」と話した。

ちなみに、今回の府労委の勧告は、報道によると公益委員会議によって出されたようですので、労組法上の審査手続ではなく、労委規則40条に規定のある審査の実効確保の措置として行われたものですね。

労働委員会規則(昭和二十四年八月四日中央労働委員会規則第一号)

(審査の実効確保の措置)
第四十条  委員会は、当事者から申立てがあつたとき、又は会長が必要があると認めるときは、公益委員会議の決定により、当事者に対し、審査中であつても、審査の実効を確保するため必要な措置を執ることを勧告することができる。

「勧告に法的拘束力はない」とか報道している記事もありましたが、労働委員会の不当労働行為の審査の手続で行われる勧告ですから、これを無視したりすれば不当労の心証形成に大きく寄与することが予想されるわけで、勧告に先立って調査を凍結したのも、弁護士市長として不当労の実績を作ってしまうことはマズイという判断があったのだろうと思います。いやまあ、さすが弁護士としかいいようのないスキのない対応です。

ついでに、日弁連会長とか京都市長候補者からも「違法だ」との指摘があるようですが、どちらも全労連系の組合とつながりの深い弁護士さんですので、中立な立場からの発言とは考えにくいと思います。まあ、このこと自体が、弁護士というのは同じ現行法令の枠組みの中で正反対のことを主張する職業なのだということの証左でもあるわけですが、さらに大阪弁護士会の会長声明に至ってはこんなことを言われる始末。

大阪弁護士会が反対声明も…橋下市長「弁護士会、あてにならない」 Sponichi Annex

 大阪市の橋下徹市長の指示で始まった市の全職員対象の政治活動に関するアンケートをめぐり、大阪弁護士会(中本和洋会長)は14日、「思想信条や政治活動の自由を侵害するものだ」などとして中止を求める会長声明を発表した。

 声明では、アンケート項目が勤務時間外に参加した正当な政治活動や組合活動などについても回答を求めるもので「思想信条の自由、労働基本権などを侵害する」と指摘。「職務命令などの威嚇力を利用して職員に回答を強制するもので到底許されない」としている。

 橋下市長は14日夜、声明について記者団に「弁護士会の言うことなんか一番あてにならない」と述べ、意に介さなかった。
[ 2012年2月14日 21:11 ]

大阪弁護士会長涙目ですが、ご自身の所属する組織に対して「弁護士会の言うことなんか一番あてにならない」とは大阪市長も見事なブーメランぶりではありますね。
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