2011年11月17日 (木) | Edit |
海老原さんから新著をご恵投いただきました。毎度恐縮ですが、場末のブログを気にとめていただき誠にありがとうございます。

日本人はどのように仕事をしてきたか (中公新書ラクレ)日本人はどのように仕事をしてきたか (中公新書ラクレ)
(2011/11/09)
海老原 嗣生/荻野 進介

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「名著で読み解く」と副題がついていまして、単なる書評かと思いきや、海老原さんと荻野さんが著者ご本人に書評を送ってそれに対する著者ご本人からの返信を紹介するという構成になっています。時代背景と絡めた書評というのはよくあるパターンですが、著者ご本人からのリプライまで掲載するというのはありそうでなかったパターンではないでしょうか(私が知らないだけかもしれませんが、日経新聞の「あとがきのあと」も著者の一方的なコメントっぽいですし)。

実を言えば、著者との往復書簡自体は、海老原さんが編集されている雑誌『HRmics』で「人事を変えたこの一冊」というコーナーで連載されていたものでしたので、私も一度は読んでいた(はず)と思います。ただし、この本の白眉は、戦後を6つの時代に分けてそれぞれの時代の生々しい状況の「振り返り」が各セクションの冒頭で解説されている点にあると思います。これによって、一度読んでいたはずの往復書簡についてもその時代性を理解することが可能となっています。正直なところ、連載を読んでいたときはピンとこなかった(というより単にその時代背景を理解していなかった)往復書簡についての理解も、この「振り返り」があることで「そういうことだったのか!」と目からウロコ状態でした。

取り上げられている著書はアベグレン『日本の経営』からhamachan先生の『新しい労働社会』まで13冊で、それぞれの著書にも「そういうことだったのか!」はあるのですが、ぶっちゃけた話をすれば、この中でまともに読んだことがあるのは『新しい労働社会』だけという私がそれぞれの往復書簡にコメントできるはずもありません。いやまあ、この本を読んでから取り上げられている著書に直接当たるのが正しい作法なのだとは思いますが、絶版とか市販されていない著書まで網羅されていますので、ありがたく「読んだつもり」の気分にさせていただいております(近年中には手に入るものだけでも読んでみたいと思ってはおりますが)。

というわけで、往復書簡についてはこれからの読書の指針とさせていただきたいと思いますが、私の目からウロコを落としてくれた時代背景については、各セクションの表題を並べてみるだけでよくわかります。

§1 戦中~戦後という奇跡的な時代環境が強調経営を形作った
§2 欧米型vs.日本型「人で給与が決まる」仕組みの正当化
§3 「Japan as No.1」の空騒ぎと、日本型の本質
§4 栄光の余韻と弥縫策への警鐘
§5 急場しのぎの欧米型シフトとその反動
§6 雇用は企業ではなく社会が変える

特に§3~5の「振り返り」は、当時の人事、労務政策を知るための一級の解説になっていると思います。繰り返しになりますが、一度往復書簡を読んでいた方でもこの部分を読むだけで本書を買う価値はあると思います。もちろん、そうした時代背景抜きにしても読む価値のある著書が多数取り上げられていて、人事、労務政策は不易と流行の織りなす領域なのだなあと感慨にふけるところですが、中にはそうした時代背景がなければ理解できない著書(の一部の主張)もあります。

本書とは関係ないのですが、こうした時代背景と併せて読まなければ理解できない著書があることと、企業の人事、労務政策という実務の関係を考えたとき、ケインズが警鐘を鳴らしたこの言葉を思い出しました。

でもこういう現代の雰囲気はさて置くにしても、経済学者や政治哲学者たちの発想というのは、それが正しい場合にもまちがっている場合にも、一般に思われているよりずっと強力なものです。というか、それ以外に世界を支配するものはほとんどありません。知的影響から自由なつもりの実務屋は、たいがいどこかのトンデモ経済学者の奴隷です。虚空からお告げを聞き取るような、権力の座にいるキチガイたちは、数年前の駄文書き殴り学者からその狂信的な発想を得ているのです。こうした発想がだんだん浸透するのに比べれば、既存利害の力はかなり誇張されていると思います。もちろんすぐには影響しませんが、しばらく時間をおいて効いてきます。というのも経済と政治哲学の分野においては、二十五歳から三十歳を過ぎてから新しい発想に影響される人はあまりいません。ですから公僕や政治家や扇動家ですら、現在のできごとに適用したがる発想というのは、たぶん最新のものではないのです。でも遅かれ早かれ、善悪双方にとって危険なのは、発想なのであり、既存利害ではないのです。

第 24 章 結語:『一般理論』から導かれるはずの社会哲学について」(YAMAGATA Hiroo Official Japanese Page

人事、労務という実務の世界の話だけに、その実務屋は既存利害よりも強力な「経済学者や政治哲学者たちの発想」には気をつけたいものです。
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