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2016年09月18日 (日) | Edit |
1週間遅れとなりましたが、先週で震災から5年と半年が経過しました。月数では66か月です。この間にも多くの災害が発生しており、先月末の台風10号で甚大な被害が発生した被災地もあります。改めて犠牲になった方への哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた方へお見舞い申し上げます。岩手県久慈市では震災に匹敵する被害額となっているとのこと。

<台風10号>久慈市被害額 震災上回る可能性も(デーリー東北新聞社 9月8日(木)11時43分配信)

 久慈市は7日、台風10号による市内の被害額が5日午前10時現在で、66億1276万円に上ると発表した。被害額の公表は初めて。家屋被害などは含まれておらず、今後調査が進めば金額は増加する見通しだ。分野別では、大規模な浸水被害に見舞われた市中心街の商工関係や、山間部での路肩崩壊などがあった道路関係で被害額が大きい。

 同日の市議会議員全員協議会で市側が報告した。

 市災害対策本部によると、東日本大震災の被害額は310億9015万円。今回の台風被害はこれを上回るか匹敵する規模の被害額に膨らみそうだ。


岩手県の北部地域でも東日本大震災で大きな津波被害が発生しましたが、震源地から遠いこともあり、内陸部ではそれほど影響がありませんでした。しかし今回の台風では、内陸部の北上山地から沿岸部にかけて大量の降雨があったため、山から流れてきた河川の氾濫も相まって、内陸部を中心に大きな被害が発生しています。このため、東日本大震災で比較的被害が小さかった地域でそれに匹敵する被害額となっているといえます。さらに本州最大の面積を有する岩泉町での被害額は、担当する町職員の人手が足りずに調査が進んでいない状況です。

<台風10号>岩泉町の被害全容把握遠く(河北新報 2016年09月07日水曜日)

 台風10号の豪雨災害で15人が死亡した岩手県岩泉町の被害は、1週間がたっても全容判明の見通しが立っていない。被災家屋の調査は始まったばかり。人手が足りず、広大な町の被害を把握するには時間を要する。安否不明の住民は6人で、調査が進めば犠牲者がさらに増える恐れがある。
 3日に始まった被災家屋の調査で、町税務出納課の職員が岩泉向町集落に入った。6日までに160戸を調べ終えたが、罹災(りさい)証明書の受け付けの見通しが立つ状況ではないという。
 東日本大震災で同町は、海に面した小本地区で被災家屋を調査した経験がある。しかし、ある町職員は「震災では一部だったが、今回は町全域が被災した。被害を把握する人手が足りない」と違いを説明する。


岩泉町は「昭和の大合併」以来合併していないため、いわゆる「平成の大合併」で多く誕生した大規模市町村のように合併で(一時的にではあっても)職員が増えたという要因がありません。東日本大震災の復興事業のために他自治体からの応援職員や任期付採用職員は増えていますが、彼らは震災被害があった地域の事業に特化しているわけで、町全体に詳しいプロパー職員そのものは少ないわけです。

当然、今回の台風被害への対応として他自治体からの応援職員も徐々に入り始めているようですが、NHKの「明日へつなげよう」のシリーズの中で、震災当時の大槌町では応援職員の受け入れさえできない状況であったことが、当時の町職員の生々しい証言でまとめられていました。番組の概要はこちらにアーカイブされています。

2016年8月28日(日)放送
証言記録・東日本大震災 岩手県 大槌町 ~行政機能を失った町役場~
東日本大震災で1277人の死者・行方不明者を出した大槌町。町役場も津波に飲まれ、140人の職員のうち、およそ3割が犠牲になった。町長と幹部、役場庁舎を一度に失った大槌町は、機能不全に陥った。助かった職員たちは、家族や同僚を失った悲しみを和らげる余裕もなく、救援物資の受け入れ、避難所の運営などに奔走した。しかし人手不足は深刻で、被災した住民へのサービスも停滞。職員たちは、精神的にも追いつめられていった。災害対応の要となるべき町役場が被災した時、どんな困難に見舞われたのか、対応にあたった大槌町職員の証言で見つめる。

「明日へつなげよう これまでの放送」(NHK ONLINE)


この中で、震災直後に総務課長を代理していた現町長の平野氏が「応援を受け入れる余裕がなかった」と証言されていて、こちらのブログで批判されています。

 今回のドキュメントは、そういう意味で非常に多くの教訓を得るものだと思いますが、ただ気になったことは現町長となった平野氏が県からの支援要請を「余裕が無い」と受け入れなかったこと。これは当時、町のトップを失った状況という非常時を斟酌したとしても、今後に繋がるものではないと指摘しなければなりません。

(略)

 何でそこをこだわるのかといえば、地方自治体の根幹に関わるからです。どうやら現政権は「緊急事態条項」なるものを持ち出して、自然災害など「緊急事態」になったら、市町村や都道府県などすっ飛ばして、国があらゆる権限を一括して手にして強引に物事を進められるようにしたいと目論んでいます。

 そのモデルとして大槌町の今回のケースが挙げられたら、たまったものではありません。やり方一つで県と連携をとって上手くいけたものを、国が乗り込んできて強権的に進めるような形にする口実にしてはダメだと思います。そこのところを町長さん、しっかりと検証して今後の防災対策に生かしてくださいと言いたいですね。

「【明日へ―つなげよう―】証言記録 岩手県大槌町~行政機能を失った町役場~(2016-08-31 22:49:29)」(じゅにあのTV視聴録)


県庁からの支援の申し入れ(上記ブログでは「支援要請」となっていますが)について、インタビューでは(おそらく)思わず声が大きくなって「そんな余裕はなかった」と断言されていて、それについての感想が上記の引用部分です。平野氏はもおそらくこうした批判があることを予想されていると思いますが、それに対する印象として上記ブログのような反応は当然でしょう。その上で、ではこちらのブログ主さんのおっしゃる「やり方一つで県と連携をとって上手くいけた」というのはどういうものなのか教えてほしいというのが平野氏の率直な考えではないかと思います。

もちろん、人手が多くなることで対応できることも増えますが、応援を受け入れるというのはそういう緊急時のレベルではなく、その後の非常時からの復旧の過程で行政としての活動を系統立って継続するためのものです。ここで留意しなければならないのは、市町村が大きな被害を受けたからといって県庁職員が乗り込めばすべて上手くやれるとは限らないということです。番組では県庁職員が被災した町役場からデータの入ったサーバを取り出したことが取り上げられていましたが、これはそうした系統だった行政活動を継続するためのインフラの確保であって、その主体として県庁が活動したわけではありません。行政活動の主体としての役場の体制が整わなければ、いくら外部から応援しようにも効果的な応援にはならないわけです。

大槌町では、幹部職員が壊滅に近い状況となって系統だった活動ができない状況にあったため、緊急時から非常時への移行が上手くいかなかった点はあると思いますし、そのような状況を想定した対応に不備があったことは事実だろうと思います。震災当時の状況を根拠とする「緊急事態条項」についてはあちこちで批判されていましたし、その実態は個別に精査しなければならないと思いますが、かといって、現実に活動の拠点となる庁舎が使い物にならず、幹部が壊滅状態となったときに、事前の準備だけでうまくいくかは疑問です。番組でも町と県の関係を地方自治法の「基礎自治体優先の原則」の枠内で考えることの限界が指摘されていましたが、非常時にそうした対応が必要となることを想定することも必要なことではないかと思います。
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2016年08月15日 (月) | Edit |
震災後は毎年この時期にお盆のエントリをアップしておりましたが、戦後70年の節目とも重なった去年に比べて、報道での取り上げ方もだいぶ落ち着いてきたようです。

「息子よ、今どこに」 東日本大震災6度目の盆(2016/08/13 岩手日報)

 13日は盆の入り。被災地は東日本大震災から6度目の供養の時期を迎えた。釜石市大只越町の仙寿院(芝崎恵応住職)では12日、同市小川町の平松郁男さん(72)が行方不明の長男聡さん=当時(34)=の冥福を祈った。震災から5年5カ月。「今、どこにいるのか」。強い日差しの中、思いをめぐらせた。

 市内中心部を望む高台にある同寺院。港から海風が吹き抜ける。平松さんは娘夫婦らと本堂奥に安置されている聡さんの位牌(いはい)の前に線香を立て、深く、静かに手を合わせた。大槌町の医院に歯科技工士として勤めていた聡さんは、車で避難途中に津波に巻き込まれたとみられる。その後、火災で焼失した車は発見されたが、どの安置所を訪ねても、会うことはかなわなかった。

 芝崎住職(60)の下で葬儀を執り行い、遺骨を入れる箱には「せめて、気に入っていた物を」と本人の衣服を納め、本堂に安置している。今も週に一度は妻と足を運ぶ。「来年は七回忌になる。お墓に納めなくてはならない気持ちもある」と胸中を語る。

 本堂奥には、震災で犠牲になった同市の身元不明遺骨9柱も安置されている。引き取り手がいなかったり、墓地のかさ上げ工事のため納骨できない遺骨もあり、故人と向き合う場所にもなっている。

【写真=長男をしのび手を合わせる平松郁男さん(左)。被災地は犠牲者を供養する時期を迎えた=12日、釜石市・仙寿院】

(2016/08/13)

早いもので、東日本大震災で命を落とされた方は来年で七回忌となることもあり、特に遺体の見つかっていない遺族にとっては、警察などによる遺体の捜索に期待を寄せるしかない状況があります。このため、地元警察では月命日の集中捜索を継続しています。

家族の願い胸に懸命に 震災5年5カ月で集中捜索(2016/08/11 岩手日報)

東日本大震災から5年5カ月を前に、久慈署(及川哲也署長)など沿岸3署は10日、行方不明者の集中捜索を行った。署員は手掛かりを求める家族の願いを胸に、懸命に活動した。

 同署では、署員6人が普代村と久慈市の計4カ所を捜索。同村馬場野の堀内漁港海岸では、署員4人がとび口を手に岩や漂流物を動かすなど入念に捜索した。

 同署地域課の村上和之警部補(34)は「行方不明者の家族の気持ちに応えたい。捜索を続けていれば、手がかりの発見につながるはずだ」と力を込めた。同署管内の行方不明者は同日現在、同市2人、同村1人。県内は1123人。

 同日は大船渡、宮古の両署でも捜索を実施。11日は釜石署が17人態勢で釜石市の海岸線と海上で捜索する。

【写真=とび口を使い、岩の間の漂流物などを入念に確認する久慈署員=普代村馬場野】

(2016/08/11)

「遺族の気持ちに寄り添う」とか「被害に遭われた方の思いを尊重する」というと聞こえはいいのですが、当然これらの活動には金銭的・人的なコストが必要となります。もちろん、私自身はそうした当事者の意向は最大限尊重すべきと考えていますが、一方では被災した港湾の復旧や新たな市街地の整備が進む中で、捜索が可能な区域は限られてきています。経年変化によって物理的にも遺体を発見することが難しくなることも踏まえると、どこかの時点でその実施方法などを見直す時期も近くなっているのではないかと思います。

熊本・大分の震災では最後の行方不明者が見つかったとのことですが、

熊本地震 遺体は不明の大学生と確認(NHK NEWSWEB 8月14日 18時42分)

熊本県南阿蘇村の崩落した阿蘇大橋の下流で、今月11日に収容された遺体について、警察がDNA鑑定を進めた結果、一連の熊本地震でただ1人、行方不明となっていた阿蘇市の大学4年生、大和晃さんと確認されました。
阿蘇市の大学4年生、大和晃さん(当時22)は、4月16日に地震で崩落した南阿蘇村の阿蘇大橋付近を車で走行していたとみられ、行方が分からなくなっていました。
熊本県などが捜索した結果、阿蘇大橋の下流で10代から30代とみられる男性の遺体が見つかり、今月11日に収容して警察がDNA鑑定を行いました。
その結果、大和晃さんと確認されたということです。
大和さんの父親の卓也さんは、「晃しかないと思っていましたが、少し不安もあったので鑑定で間違いないことが確認できて安心しました。あとは手元に帰ってくるのを待つだけです」と話していました。
熊本県などによりますと、これで一連の熊本地震で亡くなった人は災害関連死と認められた人などを含め72人となりました。

父 卓也さん「これでやっと終わってくれる」

大和晃さんの両親の元には、14日午前11時前、熊本県の担当者から「晃さんと確認された」と連絡があったということです。両親はこれまでほぼ毎日、阿蘇大橋の下流などで手がかりを捜し、乗っていた車も両親などによる捜索で見つかりました。
父親の卓也さんは「鑑定の結果を聞いて、これでやっと終わってくれると安心しました。望むことは晃を引き取って供養するだけです」と話していました。

母 忍さん「どうやって温かく迎え入れるか考えています」

母親の忍さんは「地震から4か月がたって、やっと帰りたかった家に帰ってくる晃をどうやって温かく迎え入れるかを考えています。ただ『お帰り』と言うだけでなく、ふだんの生活とは違った形で迎え入れることができたらいいなと考えています」と話していました。

熊本・大分の震災が内陸の直下型地震であることも理由の一つかもしれませんが、何とかお盆中に遺体を確認できたとのことで、警察をはじめとする捜索関係者のご尽力に敬意を表します。お盆で休暇中の身としても、先祖の供養ができることとその影にある関係者の働きに思いをはせたいと思います。

2016年06月12日 (日) | Edit |
日付が変わりましたが、昨日で震災から5年3か月が経過しました。いま現在の国内の震災と言えば熊本震災になりますが、東日本大震災から5年程度で最大震度7を記録するような直下型地震が発生する地震大国であることを、改めて認識しなければなりません。その熊本震災からの復旧・復興はこれから本格的に動き出さなければならない段階に入りますので、その意味でも東日本大震災の経験を伝えていくことは重要な取組です。

(私の同業者ではないものの)私の周囲に熊本県の現地で支援活動をしてきた方がいらっしゃって、その話を聞く機会があったのですが、東日本大震災とは異なる直下型地震のため、被害の発生状況がまだら模様になっており、通常営業しているコンビニの隣に潰れた家屋が並んでいるなど、支援が必要な人とそうではない人の扱いが難しいという状況もあるそうです。そして、避難所の運営や物資の供給などでは東日本大震災の経験はほとんど活かされてないという印象で、これまでの自分たちの取組は、やはり遠くの土地の方にとっては他人事だったんだなと無力感を感じたとのこと。いやもちろん、私自身も阪神・淡路大震災や中越地震などは他人事に感じていましたし、初めて経験するような非常事態にすべてのことが円滑に進むという方が無理な想定でしょう。さらに、5年という時間の経過も微妙に影響しているかもしれません。

ということで、震災の経験を伝えていき、現時点でその経験がどのような形に表れているかを折に触れて確認することは、被災された地域かどうかに関わりなく重要なことだろうということで、例年3月頃に向けて発行される震災関連本を3冊ほど読んでみました。拙ブログの主な関心分野が社会保障や労働の分野ですので、どうしてもそこに注目してしまうのはご容赦いただきたいところでして、読んだ本すべてで「人材育成」とか「教育」に震災の経験を活かそうとすることが強調されているのが気になりました。まずは前回エントリでもちらっと取り上げた陸前高田市出身の元国連職員による活動報告ですが、

 インフラの復興も、産業の復興も、コミュニティの復興も、それを担うのは人です。全国、全世界から集まってくださった“人”の力、寄せられた“人”の思いで、陸前高田は絶望の深い闇を乗り越え、前に進むことができました。
 そう考えると、これから10年後、30年後、100年後の復興を可能にし世界に恩返ししていくためには、この岩手の地から“人”を育て、世界から“人”を集めることこそ眼目となるでしょう。
 思えば、私が外資の世界や国連でやってきたことの一つも「人事研修」という、いわば教育の仕事でした。それで、2014年4月に岩手大学の地域防災研究センターと人文社会科学部それぞれの客員教授に就任し、あわせてグローバル教育センターのアドバイザーもお引き受けすることにしました。
pp.187-188
陸前高田から世界を変えていく
元国連職員が伝える3.11
■ 著者名: 村上清
■ カテゴリ名:書籍/単行本
■ 発刊日:2016年03月05日
■ 判型:四六判
■ ページ数:224
■ 税込価格:1,620 円(本体 1,500 円)
■ ISBNコード:9784267020476
■ Cコード:0095


※ 以下、強調は引用者による。

「人事研修」が「教育」というのは、英語でいえばtraininingとeducationなのでかなり強引な結びつけではないかと思うのですが、村上氏ご自身も日本型雇用を前提にしている節があるので、ここでいう「人事研修」は全人格的なコミットメントを求める日本的な人材ということのようです。いやもちろん、村上氏ご自身がアメリカでは「ホワイトカラー・エグゼンプション」に該当する働き方をしていたわけで、それがある程度の長期雇用によるスキル習得を必要とする雇用形態であれば、ある程度は日本型雇用慣行に接近するのでしょうけれども、少なくともそれは、特定の「職務」に必要とされるスキル習得のためのtrainingではないだろうと思います。

たとえば、最近自治体が自衛隊での研修を取り入れて一部で批判を受けているようですが、

加東市の新人職員、自衛隊で研修 規律意識向上へ(2016/5/25 05:30神戸新聞NEXT)

 兵庫県加東市の新人職員11人が24日、研修の一環で、小野市桜台の陸上自衛隊青野原駐屯地で体験入隊した。25日までの日程で、屋外での集団行動などを通してチームワークや規律意識の向上に努めた。
(略)
 職員たちは、開講式に続いて、災害時の地方自治体と自衛隊の連携の重要生などについて講義を受けた。その後、屋外グラウンドに移動して、「気をつけ」「敬礼」などの動作を身に付ける「基本教練」に挑戦。隊員から「共に行動することで団結力が強まる」などと指導を受けながら、きびきびと縦列行進した。

「災害時の地方自治体と自衛隊の連携の重要生(ママ)」はまだしも、「「気をつけ」「敬礼」などの動作を身に付ける「基本教練」」は自治体職員の「職務」はほとんど関係ないですね。いやまあ、「公務員の接遇はなってないから厳しく指導されるべきだ」というならまだわからないでもないですが、それを研修する場所が自衛隊なのかというのは大いに疑問です。

本書で村上氏が指摘されるように、復興を担う人材が必要というのはその通りだと思いますし、その取組は学校教育の段階から行われるべきだとは思いますが、役所や企業の「研修」で行うというのは、職務に関係する以外は自己啓発とかボランティアの範疇にどこまで関与するか整理しておく必要があると思います。もちろん、自己啓発やボランティアに積極的に取り組むことで仕事の進め方にもいい影響が出る可能性があり、それを役所や企業が期待して「研修」として実施するということはありうると思いますが、そうであるならその目的をはっきりさせないと、引用した新聞記事のように目的が曖昧な「研修」になってしまうことが危惧されます。

現役の朝日新聞記者が岩手県大槌町駐在として取材した手記では、学校段階の取組が取り上げられています。

 伊藤教育長は1996年から3年間、米・ワシントンで日本語学校の校長を務めたことがある。「人としてどうあるべきか」を教えようとする日本に対し、米では「自分とは何か」に迫る教育をしようとしていた。目からうろこが落ちた。大槌に帰り、子供たちに昔話を聞きに行かせたり、田を一年中借りて農作業をさせたりして、自分の生まれたふるさとを実感させる授業を採り入れた。
 震災を経て、その気持ちはさらに強くなった。「まちづくりは人づくり。今こそ『3.11』まであったふるさとの継承と、新しいふるさとの創生。両方をしっかり教えないと」。
 震災3カ月後、伊藤教育長は武藤美由紀指導主事を教育長室に呼んで提案した。
「『ふるさと科』というのをつくってみたい。教育復興の柱にしたい」
 伊藤教育長は、小中合同の仮設校舎ができるのを前向きにとらえ、小中一貫校にする構想を立てた。9年間を通す軸に、これを据えようと思った。
p.97

理念なき復興 新刊
岩手県大槌町の現場から見た日本
東野 真和 著
ISBN 9784750343174
判型・ページ数 4-6・312ページ
出版年月日 2016/03/11

大槌町内の学校再開については以前取り上げた本が詳しいのですが、「「人としてどうあるべきか」を教えようとする日本に対し、米では「自分とは何か」に迫る教育」というのは大変示唆的な言葉ですね。学校が「社会人」を準備する機能を有するとすれば、「人としてどうあるべきか」は「社会人としてどうあるべきか」ということであって、その「社会人」がメンバーシップ型の日本型雇用慣行を前提とする以上、「メンバーシップとして働くためにはどうあるべきか」に容易に転化していくわけです。これに対して、ジョブ型の働き方を前提とするアメリカでは「自分とは何か」に迫ることで、自分が就くべき「職務」を意識せざるを得ないものと思われます。つまり、自分がこれからどのような形で社会に参加していくかを考える場が学校であり、そのために必要なスキルを身につけるのが学校の重要な機能であるのは日本でも欧米でも共通しているはずですが、その目指すところの違いが、日米の教育の違いに現れているといえるのではないかと。

その「ふるさと科」では、地元の若手自営業者がさんかする「はまぎく若だんな会」が作成した「117選 大槌お宝マップ」を教科書代わりにしているとのことで、内容は郷土料理や伝統行事などがメインのようですが、若手自営業者が自らの職域についても語ることができれば、まさに「職務」を通じて社会に参加する一助となるのではないかと思います。新しい取組が復興を担い、地域を担う人材を育成する新たなルートとなることが期待されます。

ただし、本書もさすがの朝日新聞クオリティで、

 2016年1月、おおつちさいがいエフエムは、3月末で閉局することを正式に決めた。2012年3月から4年間、町民に親しまれてきた。碇川豊前町長当時、国に要望し、災害FM局の経費に国の緊急雇用創出事業の助成金が継続してあてられるようになり、来年度までの予算を確保していた。しかし、平野公三新町長が事業見直しをした結果、「一定の役目を終えた」と判断し、打ち切った。

東野『同』p.161

いやだから緊急雇用創出事業は委託事業であって助成じゃないと何度言えば…。まあ制度のことは知らなくても記事は書けるわけですから新聞記者はお気楽な仕事ですなあなどと嫌みを言いたくなるのをぐっとこらえて、本書の記述自体は、冒頭で筆者が「この本は「税金の無駄だ」と告発する本でもないし、「被害者は可哀想」と同情心をあおる本でもない」という通り、中立的に書こうとしている意思は感じます。とはいえ、特定の立場や団体に肩入れしている雰囲気はかなり感じるところでして、情報源には批判を抑えているのではないかと思われる記述が散見されますので、その点には注意が必要ではないかと思います。

で、3冊目があの岡本全勝氏の編著による本なのですが、…さらに長くなりそうなので次のエントリに続きます。

2016年05月03日 (火) | Edit |
熊本地震は未だに余震が続いている状況で、やや旧聞に属しますが復旧・復興に関する法制度について一悶着あったようです。

熊本地震に関して、「激甚災害指定」と「災害救助法の指定」が話題になっています。

「災害救助法の指定」を受けると避難所、応急仮設住宅の設置、食品、飲料水の給与、医療、被災者の救出などにかかる費用について市町村の負担がなくなります。

熊本地震では、地震の翌朝に指定されました。

一方、「激甚災害制度」は、国民経済に著しい影響を与えるような激甚な災害から復旧するにあたり、自治体の財政負担を軽減するために、公共土木施設や農地等の災害復旧に必要な費用に関して国庫補助の嵩上げを行うものです。

被災したり、避難所に避難したりしている人には今すぐ直接、関係はありません。

激甚災害の指定は、復旧費用がその自治体の財政力の一定割合を超えるかどうかで、機械的に決まります。

その為、指定にあたっては、災害復旧に必要な金額の査定がまず必要です。

「災害救助法と激甚災害」(2016.04.19 衆議院議員 河野太郎公式サイト)

拙ブログでは、普段は政治家の発言を揶揄して取り上げることが多いのですが、この説明は簡潔にして要を得ていますね。震災などの災害発生直後の救助活動や支援物資の配給などの実働的な活動については災害救助法(東日本大震災までは厚生労働省が所管していましたが、その後総合防災会議を所管する内閣府に移管されています)に基づいて行われます。こうした実働的な活動はもちろん、災害発生直後の緊急時から復旧・復興期に移行するに当たって、その復旧・復興事業にはお金がかかるわけでして、その財源を国から地方自治体への財政移転によって補填するのが、「激甚災害制度」となります。

もう少し細かい話をすると、災害救助法の適用地域の指定は都道府県知事が行うものであり、直接的には市町村と都道府県が財源を負担しますが、その額に応じて国庫負担する額が災害救助法で規定されています。詳しくはこちらの「問1 被災市町村が対応した災害救助関係経費は、最終的にはどのように負担されるのか。」などをご覧下さい。
東日本大震災への対応に係るQ&A(地方行財政関係)(pdf)

これに対して、激甚災害制度は国から地方への財政移転の制度であり、熊本県知事が早期に指定してほしいと要請したのはこの激甚災害制度についてです。ただし、上記の河野太郎氏の指摘の通り、その指定は自治体による被害状況の調査に基づいて行われるものであって、通常は1か月程度の時間を要します。なお、東日本大震災のような被害状況の調査そのものが困難なことが明らかな場合には、調査を待たずに決定されることもあります。今回の熊本地震は、当初局地的な震災と思われていたところ、その後本震が発生して余震活動が活発に継続しているという状況となり、東日本大震災と同じように調査を待たずに決定されました。この点では、通常の手続きよりは早い指定といえるでしょう。

という制度の仕組みを把握していれば知事が要請したから指定するという手続きではないというのはわかると思うのですが、こうした制度をごっちゃにした人はどこにでもいるようです。

安倍政権の震災対応に激怒 蒲島熊本県知事「強気」の源泉(2016年4月19日 日刊ゲンダイDIGITAL)

 14日夜の熊本地震「前震」の発生からすでに5日が経過。安倍政権による激甚災害の指定が遅れている。安倍首相は18日の国会で「早期に指定したい」と明言したが、19日の閣議でも指定を見送った。

 激甚災害は、地方自治体が実施する復旧事業の見込み額が一定基準を超えた場合に政府が指定、復旧事業への国の補助率がカサ上げされる。ちなみに、東日本大震災では当時の菅政権が発生翌日には激甚災害の指定を閣議決定していた。

 前震の発生直後に熊本県の蒲島郁夫知事が早期指定を求めたところ、安倍政権はその要求をはねつけた。16日の「本震」発生でやっと方針を改めたとはいえ、腰が重すぎる。ひょっとして、安倍官邸と蒲島知事との間で確執でもあるのか。

「熊本県の財政事情は決して悪くない。財政の健全性を示す実質公債費比率も14年度は13%と、早期健全化基準の25%まで、まだまだ余裕がある。財政出動を抑えたい政府にすれば、激甚災害の指定範囲を震源地近くの益城町や南阿蘇村など小さな自治体に絞り、残る地域の復興は県に任せたいはず。県全域の指定を求める蒲島知事とは当初からボタンが掛け違っていた」(官邸事情通)

いやだから、制度上は「安倍政権はその要求をはねつけた」わけではなく通常の手続きで指定できないわけでして、その後、通常の手続きより早く指定されたことからすると、この「官邸事情通」という方がこのようなコメントをされている趣旨がよく分かりませんね。まあ、日刊ゲンダイの記者が都合よく話をしてくれる人を探していて、ちょうどよく趣旨のよくわからないコメントをする人に捕まってしまったのかもしれませんが。

震災の被害によって避難している方々が多くいらっしゃる一方で、復旧・復興事業は速やかに着手する必要があることはいうまでもありません。かといって、現在進行形で被害が大きくなる中では、復旧・復興事業の規模や箇所を確定することができないために着手が難しいという事情もあります。そもそも地元自治体の職員は避難されている方のケアが最優先事項となっている状況で、現状ではそこまで手が回らない部分もあるでしょう。復旧・復興事業は官民問わず地元が主体となって実施するものではありますが、大規模な被害が発生している現状を踏まえて中長期的なスパンで考える必要がありそうです(念のため、これは東日本大震災時の経験などを踏まえた推測であり、私自身は熊本地震の現場を直接見聞しておりませんので、現地の状況について詳しく知りたい場合はそちらのWebサイト等をご確認ください)。

2016年04月16日 (土) | Edit |
この度の熊本地震で多数の死傷者が発生してしまい、亡くなった方に心より哀悼の意を表するとともに、怪我を負われた方にお見舞いを申し上げます。気象庁では、今日未明の直下型地震が本震と考えられるとの見解を示しているとのことで、これからもしばらくは余震に警戒が必要となります。住居などの建物の崩落や道路や橋が損壊するなど、救助活動そのものが困難な状況ですので、救助・支援する側の皆さんもくれぐれも注意の上、活動に当たっていただきたいと思います。東日本大震災発生後の拙ブログのエントリが参考になればと思います。

被災地支援について(追記あり)2011年03月18日 (金)
被災地支援についての補足(追記あり)2011年03月20日 (日)

現地の社協では、ボランティアの受け入れについての情報が掲載されています。

平成28年熊本地震について(第2報) 最終更新日 [2016年4月16日 8時24分]
■■■■4/16(土)現在は「人命救助」の作業が優先されます■■■■
ボランティアが入れる状況になったら、こちらでお知らせします。


平成28年熊本地震について(第2報)

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
被災地でのボランティア活動に参加したいと考えている"あなた"へ
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 被災地でのボランティア活動の前に、大切なことをまとめましたので、必ずよく読んで参加してください。
http://www.fukushi-kumamoto.or.jp/list_html/pub/detail.asp?c_id=56&id=7&mst=0&type=

 もっと、詳しく知りたい方は、次の『市町村災害ボランティアセンターマニュアル』をご覧ください。
http://www.fukushi-kumamoto.or.jp/list_html/pub/detail.asp?c_id=56&id=6&mst=0&type=

災害ボランティア情報(熊本県社会福祉協会)
※ 以下、強調は引用者による。

特に、リンク先の「 「平成28年熊本地震」に関する災害ボランティア情報について」は必読です。

ボランティア情報

Ⅰ 被災地でのボランティア活動に参加したいと考えている"あなた"へ 

 被災者への生活支援や被災地の復興支援のボランティア(以下「災害ボランティア」)活動に参加する際は、いろいろな準備が必要となります。
 無計画に被災地へ向かっても、欠航、運休、通行止め等で現地入りできなかったり、現地に到着してもボランティアの募集が行われていなかったりする場合もあります。
 被災地の市区町村に設置される「災害ボランティアセンター」で最新の情報を入手し、綿密な計画を立てて現地に向かいましょう。

(略)

8 問合せのマナーについて

 被災地の市役所や役場、災害ボランティアセンターに安易に電話や電子メールで問い合わせることは、できる限り控えてください。
 被災者からの「助けてください」などの問い合わせの電話がかかりにくくなる恐れがあるからです。
 メールも回答するのに時間や手間がかかることから、かえって迷惑になります。
 このため、被災地の情報を入手する際は、まず初めに、被災地の市役所や役場、社会福祉協議会、災害ボランティアセンターのホームページをしっかり閲覧しましょう
 東日本大震災以降の災害では、停電や冠水などによりパソコンが使えなかったことから、携帯電話やスマートフォンなどの携帯端末による情報発信が積極的に活用されています。
 特に「ツイッター(twitter)」には、災害ボランティアや物資の募集などの被災地支援の情報がタイムリーに発信されていますので、情報収集にお役立てください。そして、これらの方法でも情報が不十分な場合に限って電話による問合せをしてください。
 「できる限り電話やメールをしない」という「配慮」もボランティア活動のひとつです。
平成28年4月15日 熊本県ボランティアセンター

「平成28年熊本地震」に関する災害ボランティア情報について(熊本県社会福祉協会)

ボランティアで被災地支援をお考えの方は、ぜひリンク先を開いて全文をご一読ください。

そのほか、支援物資の送付やボランティア以外の支援方法としては、募金が最も簡便で効果的だろうと思いますので、ご参考までにリンクします。
【熊本地震速報】災害・寄付・ボランティア情報まとめ(ボランティアプラットフォーム)

被災された方が一日も早く元の生活を取り戻せるよう、私も支援したいと思います。

(追記)
マンマークさんにご紹介いただきましたので、こちらからもリンクさせていただきます。マンマークさんは「熊本地震関係」のカテゴリを作ってリンク先も随時更新されているようですので、最新の情報をご確認ください。
「何かしたい人へ。(追記あり)(2016-04-16)」(市役所職員の生活と意見)

(再追記)
21日までに徐々にボランティアセンターの受け入れが始まったようですので、リンクしておきます。
平成28年熊本地震について(第6報)最終更新日 [2016年4月21日 11時07分]

ボランティアとしての支援方法について混乱があるようなので整理しておきますと、自活のスキルや支援方法についての装備などを準備できない個人の方は「ボランティアセンター」を通じて最低限の装備や自活方法でできる支援活動を行うことが望ましいという理由で、「ボランティアセンター」での受け入れが始まるまでは情報収集に徹して、無用の混乱を防ぐべきだと思います。逆にいえば、自活のスキルがあり、被災地で自主的に支援できる装備とノウハウをお持ちの方が自主的に支援活動を行うことは可能でしょう。

ただし、もう一つ重要な要件がありまして、そのように自主的に活動できる方であればこそ、避難所の担当者や地元の自治体、さらに救助活動を行っている警察や消防と十分に連絡を取り合いながら、秩序だった活動を行う必要があります。そのような連携ができない、あるいはするつもりがない方は、ただでさえ混乱している現地に無用の混乱をもたらす可能性が高いので、活動を自粛していただくのが被災された方への配慮だと思います。という言葉が届く相手ではなさそうなところが難しいところですが。

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